第18話 実録!エサリカ村探訪
【バロア帝国・エサリカ村】
広大なバロア帝国の北東部に位置する、中規模の村。
梅原ナオたちジパング西洋使節団の帝国側駐留地であり、剣士ステラの生まれ故郷でもある場所。
そんな穏やかな村の一角に、どう考えても世界観にそぐわない二人組が立っていた。
パーカーの男「はい、というわけでですね!やってきました、バロア帝国でございます!」
明るい声でそう切り出したのは、ハンドマイクを握ったパーカー姿の男だった。
パーカー男「それでは早速!こちらの村の概要をお願いいたします!」
スーツの男「はい、かしこまりました〜!」
隣に立つスーツ姿の男が、同じくハンドマイクを握って妙に慣れた調子で応じる。
スーツ男「こちらはですね、バロア帝国領土内のエサリカ村に来ております〜!」
パーカー男「ほお〜、エサリカ村?」
スーツ男「帝都から見まして北東部!タイガの森林地帯の中に位置する村でして!人口はおおよそ800人程度。人種の比率は7割が人間種、2割がエルフ種、残り1割がオークや獣人種で構成されておりますー!近隣の森の樹液からとれる甘い蜜を使った堅焼きパンが有名でございます」
パーカー男「帝国街道からのアクセスもわりかし良好な位置ですね~!」
スーツ男「村のほぼ中央には広場がありまして!そこから東西に、村を貫く通りが伸びているのが特徴でございます!」
パーカー男「なるほどなるほど!」
スーツ男「また東の通りの端には、帝国の国教『八大神正教』の聖堂がございまして!そこから中央広場にかけて、朝から昼にかけて市場が立ち並ぶ活気に溢れるエリアとなっております〜!」
パーカー男「はぁ~鍛冶屋や薬屋もありますねえ!旅やクエストに必要なものは、まずここで揃うということですね!」
そんなやりとりをしている二人の背後で通りすがりの剣士が、足を止めて小声で呟く。
通りすがりの剣士「……なんだ、あれ?」
弓使いの女性「見たことない服装ね……あの手に持ってるもの何…?」
だが二人組は、そんな視線などまるで気にしないで続ける。
スーツ男「そしてですねえ!この東通りの途中には、なんといっても!『冒険者ギルド・エサリカ支部』の集会所がございます!」
パーカー男「おお〜!冒険者ギルド!!ロマンを感じますねえ!」
スーツ男「こちらの集会所は木造二階建て!一階がクエストの受付所となっておりまして。二階部分は、冒険者パーティが集うための酒場が併設されております〜!」
パーカー男「クエスト完了後、そのまま打ち上げができますね!いや~これは親切設計ですね!」
満足げに頷いたパーカーの男が、こちらに振り向く。
パーカー男「えー、それではですね!ここで一度、村の全体を写したいと思いますので!カメラさん!引いてもらっていいですか!」
その瞬間。
視界が、すっと引いた。
そこには、黒いシルクハットのクラウンから半身を乗り出したパーカー姿とスーツ姿の二人組。
そして、その帽子を被ったまま、完全に半目になっている梅原ナオと、その一行の姿があった。
ナオ「……村に帰ってくるなり早々、なんやねんこの茶番」
ステラ「説明は分かりやすいのが余計腹立つわ」
カイ「ていうかこの二人、誰に向けて説明してるんすか!??カメラって何!?」
ノノ「……村の説明より、この状況の方が理解できないです……」
帽子の中から、パーカー男の声が響く。
パーカー男「はい!次はですね〜。エサリカ村の西通りの探訪と参りたいのですが!」
スーツ男「ここで一旦CMで~す!番組の最後には、素敵なプレゼント企画もございますのでお楽しみにー!!」
二人は笑顔で手を振りながら、すっと帽子の中へと引っ込んだ。
パタン
帽子のクラウンは何事もなかったかのように閉じ、村の喧騒が再び戻ってくる。
ナオは小さく息を吐いた。
ナオ「ほんまやりたい放題やのぉ、この帽子は」
「わー!また変な人出たー!」「ねえねえ、次は何出るの!?」「プレゼントってなーにー?」
子どもたちは騒ぎ立てながら、ナオの周りにわっと集まってくる。
ステラ「あのカオスに慣れ切ってるこの子たちが一番怖いわ」
???「ふふふ、相変わらずナオさんの帽子は自由ですね~」
一行が振り向くと先ほど手を振っていた女性が近くまでやってきていた。
茶色の髪をポニーテールにまとめ、白いブラウスにこげ茶のベスト、前掛け姿の穏やかな笑顔の優しげな女性。
ステラ「あ、ごめんねリラ!改めてただいま!!」
リラ「おかえりなさい、ステラちゃん。皆さんも、長旅お疲れさまでした」
リラ。
エサリカ村の西通りに店を構える喫茶店『ミルミル亭』の店主を務める女性である。
年齢は、梅原ナオやステラと同い年か、少し年上くらい。
落ち着いた物腰と柔らかな笑顔が印象的で、村では子どもから冒険者まで幅広く慕われている。
騒がしい出来事にもどこか慣れた様子で、ナオの帽子から何が飛び出してきても、驚くより先に苦笑いを浮かべる程度の肝の据わり方をしている。
「リラさんだー!」「帽子からまた変な人出たよ!」「今度はお菓子でてくるかなー?」
リラはくすっと笑って、子供たちに声をかける。
リラ「はいはい、それはまた今度ね。ほら、もうすぐお昼でしょう?ちゃんとご飯を食べてきなさい」
「はーい!」「あとで来るねー!」「ミルミル亭でパンケーキ食べさせてねー!」
子どもたちはリラの言葉に返事をしながら、名残惜しそうに散っていく。
その様子をみて、ナオは子供たちに手を振りながら帽子のツバを摘んで穏やかに笑った。




