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第17話 帰ってきた

【バロア帝国・街道】

帝都から続く石畳の街道は平原を離れ、再び森に入っていく。

背の高い針葉樹林が両脇に立ち並び、聞こえるのは鳥のさえずりと、木々の葉を揺らす風の音。そして、使節団一行を乗せた馬車の車輪と、馬の足音だけだった。


しかし、ナオの帽子だけは違っていた。


帽子から、『ご迷惑をおかけします』と書かれた、工事現場でよく見かける看板が、にゅうっとせり出している。その看板の人の顔が描かれている部分だけが、きれいにくり抜かれており、そこからヘルメットを被った死んだ目をした男の顔が、ぬっとはまり込んでいる。


観光地でよく見る、顔出しパネル工事現場バージョン。


男は死んだような目をしたまま、看板の横から突き出した腕で、チカチカ光る警棒を適当に振っていた。


ヘルメット男「はあ〜〜〜。時給良いから応募したけど、なんだよこのバイト...」


ステラ「ねえナオちゃん...」


ナオ「いやな、俺も何をどう反応したるのが正解かわからんねん」


ヘルメット男のボヤきは続く。


ヘルメット男「旗振ってる人のLED看板あるじゃん……。あれ置いときゃ、よくねえ?」


カイ「……この人、一体どういう経緯で、こんな仕事任されたんすかねえ……」


ノノ「か、顔の部分だけ生身なの……怖いです……」


しばらくの間、ナオの頭上で警棒が虚しく空を切り続けていた。



数分後。

一行は道が枝分かれしている分岐点に差しかかった。石畳の街道は右へと折れていき、左には、踏み固められた土の道が伸びていた。

舗装こそされていないが、魔導式のガス灯だけは等間隔に続いている。


その脇道に立つ標識には、『エサリカ村』と刻まれていた。


ナオ「お、やっと帰って来たなあ〜」


ステラ「ここをしばらく進めば、ようやく村ね」


ノノ「帝都からの道のり......疲れましたね」


カイ「もうすぐ昼時ですし、村についたらとりあえず飯っすね」


そうやりとりをしていると、森の奥から赤茶色の屋根が点々と姿を現し始める。

低い石垣に囲まれた木組みの小さな家々、広場での子供たちの笑い声、煙突から立ちのぼる白い煙が、昼の空気にゆっくりと溶けていく。


エサリカ村。

バロア帝国の北東、タイガの森の奥深くに位置する中規模の村である。

冷涼な気候に恵まれ、夏は涼しく、冬になると雪が降り積もり、村は白に包まれる。

交易路と森に挟まれた立地から、冒険者や旅人の往来も多く、武具屋・市場・冒険者ギルド・喫茶店など旅の拠点として必要なものが、一通り揃っている。


梅原ナオと茅森ノノが所属するジパング西洋使節団の、帝国側駐留地としての役割も担っている。また剣士ステラにとっては、ここが生まれ育った故郷でもあった。


ステラ「ん~!!やっと着いたわね!」


ステラが荷台の上で立ち上がって、大きく伸びをする。


ナオ「おー、みんなお疲れさんやったなあ」


カイ「いや〜、やっぱここはのどかでいいっすねえ」


馬車が村の入口に差し掛かった、そのとき。

通りの端で遊んでいた子どもたちが、こちらに気づいて一斉に声を上げる。


「あ、ステラお姉ちゃんだー!」「帽子のお兄さん帰ってきたー!!」「ノノせんせー、へんしんして〜!」


ノノ「えっ、ええっ!? こ、ここでですか……!?」


子どもたちは盛り上がり、馬車の周りへと集まってくる。

馬車が完全に止まると、焼いたパンの香ばしい匂いが風に乗って漂ってきた。鍛冶屋が金槌を打つ音、市場で交わされる笑い声。

帝都とはまた違う、のどかな生活の音が、次々と耳に入ってくる。


ナオははしゃぐ子供たちに向かって、にこやかに声をかけた。


ナオ「おー、みんな!今帰ってきたで〜。お土産ようさん買うて来とるから、あとであげるわな」


「ほんと!?」「やったー!」


弾む声があちこちから上がり、村の入口は一気に賑やかになる。


ノノ「変身は……お土産のあとで……ということで…」


小さくそう言って、ノノは顔を赤らめながら視線を逸らす。

そのとき、通りの奥から柔らかい女性の声が聞こえた。


???「みんなー!おかえりなさーい!」


一行が振り向いた先、木製の看板が揺れる喫茶店の前に、ひとりの女性が立っている。

茶色の髪をポニーテールにまとめ、白いブラウスにこげ茶のベスト、前掛け姿。

手を振りながら、穏やかな笑顔でこちらに声をかけていた。


ステラ「あ、リラ!ただいまーー!!」


その声で、村の空気がふっと和らいだ。


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