第15話 ジパングのお菓子
【バロア帝国・街道】
宿場町・クロイツを出立した『ジパング西洋使節団』一行は、馬車に乗って再び北東へ進路を取っていた。
ナオ「いや〜朝から騒がしいったらあらせんなあ、ほんまに」
ステラ「いや原因アンタだからね!?」
カイ「いやほんと下手したら、宿出禁になりますよあんなん」
ノノ「た...タチが悪すぎる目覚ましです...」
馬車は小さく揺れながら、霧の残る街道を進んでいく。
すでに魔導式のガス灯は消え、草原の向こうには低い丘陵が見え始めていた。
ナオ「まあまあ。おかげでノノも目冴えたやろ?」
ノノ「お、起きましたけど……起き方が最悪でした……」
ステラ「そりゃそうよ。普通、目覚めて最初に見るのが“覆面の男が頭の上で叫んでる光景”って人生ないから」
カイ「にしてもあの手に持ってた金属の筒、気になりすぎる。なんなんだあのみたことない合金」
ステラ「おまけにこっちは技術オタク化してるし」
ナオは御者台で手綱を操りながらも微笑んで、ノノに声をかける。
ナオ「まあノノ、そない言わんとお茶でも飲んで落ち着きーな」
パカッ
帽子が開き、中から急須と湯呑み、そして淡いピンク色のお餅が乗ったお茶セットがせり出してくる。
ノノ「...え?」
ステラ「さっきとの落差すごいんだけど...」
ノノはお餅を手に取ると、ぱっと目を輝かせる。
ノノ「こ、これ!シナツレのお餅...!」
ナオ「おう、ノノ昔からこれ好きやもんなぁ」
カイ「シナツレ……なんかの植物っすか?」
ノノ「は、はい。ジパングに自生してる植物で……淡いピンク色のお花を咲かせるんです……」
ナオ「それが甘い蜜を出してなあ。花ごとすりつぶして餅に混ぜて蒸すんよ」
ノノ「ほんのり甘くて……ジパングでは、お祝いの時にもよく振る舞われます……」
ノノは嬉しそうに手に持ったシナツレ餅を一口かじる。
よほど美味しいのか、表情がさらに柔らぐ。
ステラ「へえ、ジパングのお菓子なんて初めて見たわ。私ももらおっかな〜」
そう言って、ステラも餅に手を伸ばし、口にする。
ステラも一口かじり、もぐもぐと噛む。
ステラ「……あ、これ……思ったより優しい味」
カイ「え、ちょっと待ってください。俺もいいっすか?」
そう言いながら、カイも餅を手に取る。
カイ「……あ、うま」
ステラ「でしょ? 派手さはないけど、朝にちょうどいいわね」
ナオは御者台からちらりと振り返り、満足そうに頷く。
ナオ「そうやろ?帝国の菓子は濃くて甘いのがええけど、たまにはこういうのも」
ステラ「アンタの帽子、たまに仕事するのが余計腹立つのよね」
カイ「これ、帽子の中にずっと入ってたんすか...?どうやって保存してたのか、普通に気になるんすけど……」
ナオ「はいはい、考察は後や後。関所が見えてきたでー」
答えは出ないまま、馬車は小さな木造の関所へと近づいていく。帝都のある州とナオたちが駐留している村がある州との間にある、簡易な検問所。
ステラ「今帽子から何か出てきたら......衛兵に捕まりそうね」
ナオ「否定はできんけど、不穏なこと言わんといてか...」
嫌な予感だけが、全員の胸に残った。




