第14話 朝に飲むコンポタって、美味くない?
【宿場町・クロイツ】
翌日の早朝。
平原の片田舎であるクロイツは朝霧に包まれ、少しひんやりとしている。
宿の洗面所にて、カイとステラは白目をむいたまま立ち尽くしていた。
その正面には、シャムロックのバッジをつけた黒いシルクハットを被り、穏やかな笑顔を浮かべる外交官・梅原ナオ。
そしてその横には、まだ半分眠っているのか、目をこすりながら立つ茅森ノノの姿がある。
問題は、その帽子だった。
帽子はすでに横にパカッと開いており、覆面を被ったレスラー風の男が、半身を乗り出している。
レスラー「あー腹減ったなあ。コーンポタージュでも飲むか!」
そう言うとレスラーは帽子の中へ手を突っ込み、スチール缶のコーンポタージュを一本取り出した。
ステラ「ナオちゃん……朝っぱらから、またなんか変なの出てるわよ」
ナオ「おう……気にしたら負けやで」
カイ「朝から胃もたれしそうなんですけど、俺」
「おはようございま――」
同じ宿に泊まっていた別パーティの、エルフの僧侶らしき少女が、可愛らしい意匠の杖を抱えて挨拶しかけたが、そのまま言葉を失った。
レスラー「粒たっぷりなめらかクリーミー仕立て、って書いてるな!おう、うまそうじゃねえか!」
レスラーは嬉々として缶を傾け、コーンポタージュを飲み始める。
エルフの少女「え……? え……? こ、これ……どういう……」
ステラ「ナオちゃん! 他のパーティの子が混乱してるでしょ!」
カイ「あの半裸の男が持ってる金属の筒、なんなんすか……?見たことない合金なんですけど」
ナオ「ごめんなあ、お姉さん。五分ほどしたら、たぶん帰るから」
エルフの少女「か、帰る!? え、どこに……?ていうか、なんで帽子から人が……」
そうこうしているうちに、レスラーは中身を飲み干し、缶を逆さにして叩き始めた。
トントントントン。
レスラー「あれ? これ、コーンなかなか出てこねえな?」
ナオ「どうでもええけどな、人の頭の上で普通にコンポタ飲むの、やめてくれへん?」
声をかけても、レスラーは気にしない。
トントントントン。
レスラー「ほとんど出てこねえな。おーい、出てこいよ」
トントントントン。
レスラー「「出てこいや、ゴルァ!!!!」」
エルフの少女「ひいっ!?」
ノノ「はえっ!?」
眠たげだったノノがハッと目を覚ます。
同時に、驚いたエルフの少女と視線が合い、わけも分からぬまま、二人は反射的にビビって抱き合ってしまう。
ステラ「ほんと朝から騒がしいわね、あんたの帽子!!」
レスラー「出てこねえなら、こっちにも考えがあるぞ」
レスラーは空になった缶を帽子の縁に置き、大きく身を沈め、エルボードロップの体勢に入る。
レスラー「ドッセイオラァ!」
カンッ!!
跳ね飛ばされた空き缶は、甲高い音を立てて宙を舞いそのまま帽子の中へと吸い込まれていった。
その様子を一通り見届けると、レスラーは満足げに勝利のポーズを取る。
どこからともなく、カンカンカンカン!!
とゴングの音が鳴り響き、そのまま帽子の中へと引っ込んだ。
パタン
帽子が閉まり、いつもの日常が戻ってくる。
ナオ「カイくん、これやっぱ南京錠つけてくれん?」
いつもの調子で、ナオがカイに声をかける。
カイ「……いやマジで、本格的に検討するっす……」
ステラ「開くたびに事故が起こる仕様よねほんと」
ノノ「あっ! ご、ごめんなさい!」
そのやりとりの横で慌てて手を離し、深々と頭を下げるノノ。
エルフの少女「あ、い、いえ! 私こそ……びっくりしちゃって……その、つい……」
二人は一瞬、気まずそうに目を逸らし、ほぼ同時に少しだけ頬を赤らめた。
ナオ「いや〜すんませんなあ。うちの帽子が、朝から寝覚め悪いもん見せてしもうて」
エルフの少女「い、いえ……その……急に大声出されてびっくりはしましたけど……何もされてませんし……」
ステラ「大丈夫!何かされそうになったらこの持ち主ごと殴るから」
ナオ「ステラさん!?」
カイ「ま、まあ……。とりあえず朝飯、行きますか?」
ステラ「そうね。朝からツッコんだらお腹空いたし」
その言葉で場の空気が、ようやく完全に日常へ戻る。ナオはノノの方を振り返る。
ナオ「ほな、ノノ。行くでー」
ノノ「あ、は、はい……!」
ノノはエルフの少女の方を向き、少しだけ慌てた様子で、ぺこりと頭を下げる。
ノノ「……あ、あの……さっきは……す、すみませんでした……!」
エルフの少女「え、あ、いえ……!」
エルフの少女の返事を聞いてから、ノノは小走りでナオたちの後を追っていく
そうして四人は、何事もなかったかのように洗面所を後にした。
残されたのは、少し朝霧の残る洗面所とエルフの少女ひとり。
エルフの少女「……な、なんだったんだろ……今の……」
「おーい、どうした? 朝飯行くぞ」
「さっき何か叫び声、聞こえなかった?」
同じパーティの仲間である、エルフの剣士と人間の魔術師が洗面所に入ってくる。
エルフの少女は、まだ整理しきれていない頭のまま答えた。
エルフの少女「えっと……その……帽子から、覆面の人が出てきて……」
二人「は?」
二人は言ってる意味が理解できず、困惑の表情を浮かべる。
朝日が洗面所を明るく照らし始めていた。
自分で書いてて、まあ意味わからんなこの帽子となっております。
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