第12話 帽子の住人
【バロア帝国・森の中の街道】
使節団を襲撃してきた、山賊は菊左衛門の意味不明な存在感と圧により撤退していた。
その場に残ったのは、ナオたちと未だ帽子の上で見得を切り続けている浪人、菊左衛門だけだった。
ナオ「まあ……なんちゅうタイミングで出てくるんや、とは思ったけど」
ナオは帽子のツバを摘み、視線を真上にやる。
ナオ「結果的に助かったわ。ありがとうな、菊左衛門」
菊左衛門「むうう……また拙者の殺陣を魅せる好機を逃してしまったでござる」
腕を組んだ菊左衛門は、不満げにうなる。
ナオ「だから芝居ちゃうって、さっきも言うたやろ」
ステラ「いやちょっと待てええ!!」
ナオ「はい、なんでございましょうステラ様」
ステラ「何!? いろいろツッコみたいことは山ほどあるけど!アンタら、知り合いなの!?」
カイ「ですよね……なんか、初対面って感じじゃないっすよね」
ノノ「わ、私も……この人、見たことないんですけど……...」
ナオ「ああ、そういやみんなは初めてか」
ナオは刀を腰に差し直しながら続ける。
ナオ「前からちょいちょい、一人の時には出てきよったんやけどな」
ステラ「いや初耳だよ!!」
カイ「怖すぎるでしょ!?一人の時に帽子からこんなメイクした人が出てくるの!!」
その言葉に、三人は思わず顔を見合わせる。
ナオ「こいつな……なんや知らん間に、俺の帽子に住み着いとるねん」
三人「はあ!?」
菊左衛門「左様。拙者、以前より梅原殿のこの奇妙な帽子の中にて暮らしておる」
カイ「え......住んでるって、その中で生活してるってことっすか!?食べたり、寝たり、くつろいだり......?」
菊左衛門「如何にも。拙者この帽子の中の一角にて芝居を披露する舞台と、演目を書くための書斎を持ち合わせて候」
ナオ「許可した覚えあれへんねんけどな」
カイ「いやいやいや!?マジでどうなってんすかその内部!!」
ナオ「まあ言うてまえば……」
一拍置いて。
ナオ「『帽子の住人』やな」
三人「帽子の住人!!?」
ステラ「ちょっと待ってほんとに!何その意味わかんなすぎるパワーワード!?」
ノノ「あ、あの...梅原様?も、もしかして......菊左衛門さん以外にも...誰か住んでたり......?」
ナオ「いや、俺が知る限りは菊左衛門だけやな」
ステラ「『俺が知る限りは』って言ったよね!?それって、把握してないだけで他にも何かしら住み着いてる可能性があるってこと!?」
ナオ「まあ否定はできんわな」
三人とも、理解の範疇を超えている情報の連続で、思考を停止した。
しばらく沈黙の空気が流れていたが...
菊左衛門「閃き申したッ!!」
突然、菊左衛門がカッと目を見開いた。
ノノ「ひっ!?」
カイ「うわ、びっくりした!?」
ステラ「今度は何!?」
菊左衛門「今の拙者の活躍......これぞ次なる演目に相応しき題材!!」
ステラ「いや活躍って、アンタ状況を悪化させてただけじゃん!!」
菊左衛門「題して――『異邦の地にてかの浪人、刃を振るわずして場を制す』!!」
ナオ「自分を主役にする気満々やないかい」
ノノ「ものすごく...脚色されてる気がします...」
菊左衛門「脚色あってこその芝居にござる!」
そう言い放つと、菊左衛門はすっと姿勢を正し、深々と一礼した。
菊左衛門「では拙者、執筆に取り掛かり申すゆえ。これにて失敬!」
次の瞬間、菊左衛門の姿は吸い込まれるように帽子の中へと消え、帽子は何事もなかったかのように、パタンと閉じた。
その場に残ったのは、森の静けさと、呆然と立ち尽くす四人と馬車だけだった。
ナオ「ちょっと遅めやけど、飯でも食おか」
ステラ「今は食べる気にならないわよ」
静かになった森の木々が、風に揺られてざわめいていた。




