第11話 帽子 in the RONIN
【バロア帝国・森の中の街道】
帝都から帰還中の使節団一行は、山賊の襲撃に遭っていた。
御者席に座るナオめがけて、山賊頭が剣を振り上げ、飛びかかる。
ステラ「しまった!?ナオちゃん!!」
カイ「ナオさん危ない!」
しかしナオは慌てることも、立ち上がることなく腰に手を伸ばし、刀の柄を握り......。
ガアンッ
刃を抜くことなく、鞘ごと引き抜いて山賊頭の剣を真正面から受け止めた。片手で柄、もう片方の手で鞘の中ほどを掴む。さらに、片足を上げて鞘の衝撃を受け止めた。
山賊頭「なっ!?」
反動に耐えきれず、山賊頭の体が弾き飛ばされる。地面を転がり、慌てて体勢を立て直す。
山賊頭「な、なぜ刀を抜かねえ!腰抜けめえ!!」
怒号を上げて吠える。
ナオは刀を自分の元に寄せて、穏やかな顔のままで言う。
ナオ「あいにくで、悪いんやけど......お前らみたいな連中を斬るために、この刀を抜いてもええなんて」
一瞬だけ、ナオの目が鋭くなる。
ナオ「......そないな命は、『あの方』からもろとれへんのや」
山賊たちが一瞬怯む。しかし、
山賊頭「けッ、戯言を!!やっちまえ!!」
再び剣を振り上げた、その刹那。
???「あいや、またれえええええええええい!!!」
妙に通る声が、空気を裂いた。
声の発生源は梅原ナオの被っている帽子。
全員が固まる中...。
カン、カン、カンッ――!
歌舞伎のツケ打ちのような音が、どこからともなく唐突に鳴り響く。
ステラ「...なんかすっごい、嫌な予感が」
パカッ
帽子のクラウンが、右側に開いた。
その両端から、場違いにもほどがある小さなフットライトがせり出してきて、帽子の上を舞台のように照らし出す。
その光の中から黒い着流しに身を包み、赤い隈取メイクを施した、時代劇か歌舞伎にでも出てきそうな浪人風の男が、半身だけゆっくりとした所作で現れた。
???「この舞台の大立ち回り。あ!拙者が引き継ぎいたして候!!!」
つけ打ちのリズムに合わせて、見得を切る。
山賊たち「…………え、なに...これは......」
真下のナオはいつもの穏やかな顔に戻りつつ、真上の浪人風の男に淡々とツッコむ。
ナオ「いや、これ演劇やあれへんからな?ガチ戦闘中やぞ」
山賊頭「……は?」
絞り出すような声だった。
山賊頭だけではなく、剣を振り上げたまま固まる者、煙幕の中で足を踏み出しかけていた者、山賊たちは誰一人として、次の動作に移れない。
山賊A「え...?マジで何あれ?...怖......」
山賊B「帽子から人?いやアレ人か?なんだあの気味の悪い戦化粧」
山賊頭「て、てめえ!!一体何者だぁ!?」
ナオ「やめいやめいやめい!こいつに名前聞いたら長なるねんから」
???「……ほお?」
赤い隈取の浪人?は、見得を切った姿勢のまま、ぴたりと動きを止める。
???「拙者の名を、知りたいと申すか」
カン(ツケ打ちの音)
???「ならば――」
カカン
???「答えてしんぜよう」
胸を張り、さらに一段、大仰に姿勢を正す。
ナオ「始まった...」
ボソリとため息混じりに呟くナオ。
???「拙者、名を」
カカカカカカン
???「菊左衛門と申すッ!!」
カカンッ!!
ツケ打ちが高らかに鳴り響いた。
ステラ「うわぁ、いつも以上にヤバいの出てきたわ...」
菊左衛門「流浪の身にして、芝居と剣の狭間を渡り歩く者」
山賊たち「…………」
菊左衛門「世に舞台あらば舞台とし、世に戦あらば戦と見る」
ナオ「長いって。尺取りすぎや」
菊左衛門「不埒な輩を成敗し、咲かせてみせよう!」
カカン
菊左衛門「あ!粋の花ァッッッ!!」
菊左衛門と名乗る謎の浪人は、グワッと『睨み』を利かす。
それを見たノノは「ひっ」とビビって元の姿に戻り、オロオロと怯える。
山賊たちは武器を構えたまま口をポカンと開けて立ち尽くし、カイは思わず顔を引きつらせる。
ナオ「あのなぁ......この状況やと、一番不埒な輩はお前や」
ナオは淡々と頭上の浪人にツッコむ。
山賊A「……なあ……」
山賊B「……俺ら、今なに見せられてんだ……?」
山賊C「絶対狙う相手間違えたって...」
ステラ「ねえナオちゃん」
ステラのこめかみにはうっすら青筋が浮かんでいる。
ナオ「はい、なんでございましょうステラ様」
ステラ「その帽子に、『自重』て言葉はないの?」
ナオ「仮にあったら......こんな状況にならんと思います...」
二人のやりとりを無視して、菊左衛門は真正面の山賊頭へ向き直る。
菊左衛門「なればッ!」
バシィッ!!
再び、大仰な見得を切る。
隈取の目が、ぐわっと見開かれ、睨みが正面から叩きつけられる。
菊左衛門「真剣勝負と……」
カカン
菊左衛門「あ、参ろうか!」
カン
菊左衛門「いざ、いざ……」
息を吸い込み、グイッと山賊頭の方へ身を乗り出す。
菊左衛門「いいいいざああああああああああ!!」
山賊頭「ひいいいいい!?もう無理無理無理無理無理!!!顔近ぇ、圧がすげえ!」
山賊頭は完全に戦意を失い、武器をその場に落として走り出す。
山賊頭「や、野郎ども!撤退だあ!ずらかるぞ」
山賊たちはリーダーが逃げ出したことを皮切りに、散り散りになって逃げ去っていった。
その場に残ったのは、ナオたちと未だ帽子の上で見得を切り続けている浪人、菊左衛門だけだった。




