リーヤ口伝第七話
ミシタさんがペンでシャッシャッ、カリカリといろんな音をたてながら口を開いた。
「そいつはなかなか厄介な相手だったようだね」
俺はその言葉を独り言だと解釈して話を変えた。
「そろそろ昼ごはんにしません?」
「いいよ。でももうちょっとかきたいからあの棚の2、3のとこからとってくれない?今はそこに入れてる。」
ミシタさんが向けた視線の先にある小さな棚の前まで歩いて右側にあるダイヤルに手を伸ばす
「えーっと...一気には無理だし2、3の順でいっか。」
この棚はミシタさんが作った魔道具の試作品で、右側のダイヤルを回すとそれに対応した棚の内容になる。内容は毎回保存され、ダイヤル数は1〜5まであるのでかなりの省スペースになり、生活用品や服などは本来ここにしまっているとのことだ。
とても凄いし正直ほしい気持ちもあるが、
ミシタさんを含めた技術者5人がかりで三ヶ月かかったと言っていたし、貰ったとしても俺の家にある物の数も多いわけじゃないので宝の持ち腐れだ。
2の中身を運び終わるのとほぼ同時にミシタさんのペンの音も止まってすぐ運び出しの手伝いをしてくれたのでさほど時間はかからなかった。
「……なんかやけに豪華じゃないですか?」
出してからじゃ遅い、と言い聞かせて抑えようとしたが口が動いてしまった。
「そうかい?君ぐらいの年齢ならこのぐらいは食べれると踏んでいたんだが…。」
「俺さっき朝ご飯食べたばっかりでそこまでお腹空いてないんですよ。」
「あぁ、そういえばそうだったな。まあ、余ったら適当な紙で包んでこのカゴに入れて持って帰ってくれて構わないよ。カゴは次来たときとかでいいから。」
そんなこんなで昼食を取ることにした。
最初はサラダにしよう。肉とかもいいけど今はお腹に優しい物から食べたい気分だ。
.....なんか年寄りみたいなこと言ってんな…。
「なんでこんないろんな種類あるんですか?これなんか見たことないですよ。食べたしシャキシャキしてて美味しいですけど。」
ちょっとして、疑問に思ったことをサラダに載っていた葉物野菜をフォークで刺しながら聞く。
「昨日の2時ごろだったかな?
商店街に行ったらちょうど商人が大市場からの
いろんな食材を卸しててね、異国の食べ物なんてそうそう食べられないから買ってしまったんだ。
それはレカなんとかという野菜らしい。
まあみんな高かったからしばらくはご飯の量少なくなりそうなんだけどね。あっはっはっはっはっはっは!」
確かにその時間は知らないな。ちょうど夜に備えて仮眠をとっていた頃だ。その前は狩りに向けて魔術紋陣を描いてたし、寝て起きた後も装備の点検してたしなあ………って、
「笑い事じゃないですよ!
そんな状況ならあなたがちゃんと食べてくださいよ!」
「でもでも、私じゃ食べきれないし保管が雑ですぐ腐っちゃいそうだしぃ?それぐらいならちゃんと食べる人の手に渡ったほうがいいと思ってぇ……。」
「……はああぁぁぁぁぁ………。」
強く否定できないことに胸のあたりがむずむずする。
「じゃあこの魚?はなんですか?色がオレンジで旨みと塩味が凄いんですけど。」
「すまないが私も全て覚えてるわけではないんだ。」
そうでしょうね!なんなら、あなたがさっきの野菜の名前を覚えてるだけでもかなり驚きましたよ!
「気になるのなら二ヶ月後に行けば多分あるよ。
また商人たちがいろんな食べ物卸すだろうし。」
食後、ミシタさんはすぐ
「私は寝るから何か読みたいなら好きに読んでていいよ。紙はあの棚の1に、カゴは窓沿いの机にあるはずだからよろしく〜…。」
そう言ってミシタさんが吹き抜けの2階にあるベッドへ向かって静寂が訪れるまでそう時間はかからなかった。
ここ最近特に眠そうなんだよなあ…。つくづく自分の生活習慣ぐらいしっかりしてほしい、と思うものだ。
さて、暇になったし本でも読みますか。
ミシタさんの家の一階、入って左奥には3つの本棚があってそこのほとんどが資料本で埋め尽くされている。手前の本棚にはよく読んだり比較的易しい本がしまわれていて、俺は今はそこから本を取って読んでいる。しかし奥の方2つにはミシタさんが読むさらに難しい技術書があるのでそっちももう少ししたら読もうと思っている。
字が読めなかった頃は内容の理解に苦しんだけど、ミシタさんと隣の図書館に行って字を教えてもらって、読めるようになってからは図書館の本たちを、去年あたりでようやくミシタさん家の本に手を伸ばせるようになった。
今日何の本読もっかなー…。野草の植生とか?でもこの前途中まで魔術書読んだしそっちにするか。
前回どのあたりまで読んだっけ?
記憶を辿りながら魔術書に手を伸ばしかけたそのとき、上の方から家の中を反響してミシタさんの声が小さく「あ」と聞こえた後
「隣の司書さんが諸解くれたよ。君が欲しがってたことを私が伝えてたらしくてね、そろそろ君も諸解ぐらいなら読めるようにはなっただろうし、って。奥の本棚の〜、右上、らへんにあるはず〜。」
と喋ってまた家の中は静寂に戻った。
それを早く言ってくれよ。ずっと待ってたんだぞ?でもいま愚痴を言っても意味はないし時間の無駄だ。
数瞬遅れて奥の本棚の前まで移動し右上の方を探す。
諸解、もとい諸事図解書は他の本とは違う特殊な塗装が施されていると司書さんの一人から聞いたことがあるからすぐに見つかるはず。
あった。
すぐに取り出して椅子に座る。
新しい本を開く前の、心が期待で埋め尽くされる感覚は何事にも代え難いものだと体の芯から感じる。
「これが諸解かあ…。」
気づいたら顔の口角が上がっていた。今まで漠然と知っていたことがより明確に理解る、そんな期待を手に込めて、表紙をめくる...




