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Chron0//≠BreakerS  作者: 時任 理人
第三章 EXIT&SYNC/双灯祭前決戦編

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EP75. 偽りを握り潰す青い手

 ◆御影シオン視点:放課後


 「進捗は?」

 私は機材庫のシャッターに鍵を刺したまま訊いた。

 鉄の歯が噛み合う音は、思考の準備運動みたいで好き。


 ここは、黒沼カイトの作業場所

 カイトくんは私に親指を立てた。

 「順調っス。案内役は“チャッピー”でいきます。喋るうさぎ——じゃなくて、喋る“非常口マスコット”。

  声はわざとちょいズレ。心拍と声色で嘘をつく仕様」「間違った案内人ですか?」「そうっス。『ここは安全です』って

  言いながら、最短距離じゃないほうへ誘導する。AIが参加者の動揺を拾って“逆最適化”する感じで」


  カイトくんはノートPCを開き、チャッピーのシミュレーション映像を流した。

  ミントグリーンの着ぐるみ顔、口角が0.2秒遅れて笑う。人は遅延に弱い。遅延は信頼を削る。


 「……で、会長。NOX、邪魔じゃないっスか?」

 「……邪魔、とは?」

 「最近ネットで“観測班”が動いてるってスレ、回ってるっス。

  あいつら、噂の真偽を“測る”って。双灯祭のコレ、嗅ぎつけて来るかもしれない」


 私は頷いた。外部観測は、構造の精度を上げる。

 「むしろ歓迎します。観測の目は、設計の欠陥を照らすから」


 「じゃ、実地で“鬼役”も試したいっス。廃墟に鬼型、置いてみる。

  それっぽい噂、撒いたらNOX、釣れるでしょ」


 「噂の文言は?」


 「『青い手が人を握り潰す』。画像は影+シルエット、出所は“近郊工業団地跡”。

  俺、まとめサイトと掲示板に投下して拡散させます」


 私は少しだけ笑った。悪趣味。でも、構造としてはとても純粋。

 「条件があります。手順は手順として本物にすること。そして——」


 「そして?」


 「手順は、退避ではなく罰の梯子にしてください」


 「了解っス」

 カイトくんはニヤリとした。


 「じゃ、拡散行ってきます。タグは“#青い手”“#握る音”。鬼は逃げ道は確保しつつ、罰が降りやすいようにで」

 私は彼の背を目で追いながら、胸の内で線を一本引いた。


 外部観測者:矢那瀬アスミ。——呼吸のいい人。

 彼女が見るだけで、構造は締まる。


 「……双灯祭の前に一回、世界の温度を測りましょう」


  ◆岡崎ユウマ視点:NOX/ノードゼロ

 トウタが机にスマホを滑らせた。通知音が三つ、連なる。

 「ユウマ〜スレ拾った。“青い手”。握り潰す、ってさ。場所は廃工業団地E-03。撮影者不詳、スレは伸びる一方」


 俺はスクリーンに拡大し、画像情報の圧縮歪みとノイズ分布を眺めた。

 合成。だが、発信時刻と反応分散が不自然に整っている。

 意図的な拡散。誰かが“観測”を誘っている。


 ミサキが立ち上がる。少し、メンヘラモード。

 「“握力”じゃなく“握られた感覚”の演出かも?CO₂高め+低周波で、胸郭の自動運動が止まりやすくなる。

  危ない。ねえ、ユウマ、双灯祭の前に、芽は刈り取っちゃう?」


 ミナトが数式を投げる。

 「“青”は硫酸銅の錆色連想で恐怖増幅、拍手SEに類する報酬系のハイジャックの可能性。逆相ノイズを準備する」


 レイカが短く笑う。

 「文言、雑。“握り潰す”なんて語彙、観客に想像させたい人の言葉。

  現場で台詞を盗む。誰が書いた脚本か、喋り方で分かるわ!!」


 「久しぶりの戦闘になる可能性がある。タナトス、出撃する」



 ◆岡崎ユウマ=タナトス視点 — 廃墟着地、噂と遭遇

 雷鳴が混じる空気は重かった。

 廃工業団地E-03——雨に濡れたコンクリートが、足音を吸い込むように沈黙を湛えている。

 俺はイレイザーのブーツを地面に沈め、視界をスキャン。

 風が鉄骨の隙間を抜け、遠くでガラス片がカチカチと鳴る。

 空気中の湿度は90%超え、雷の予感が皮膚を刺す。

 だが、建物の影から姿を現したそれは、ネットで拡散されていた“揺らぎ”の産物なんかじゃなかった。



 ——怪異《青手》。

 高さ三メートル。腕でも脚でもない、ただ“手だけ”の化け物。

 青みがかった金属と有機物の融合体が、雨水を弾きながら蠢く。

 中央には縫合だらけの肉を割り裂いて、強引にはめ込んだ巨大な“眼球レンズ”。

 直径50cmのレンズが、赤く脈打つ光を放ち、周囲の熱源を即座にロックオン。

 稼働音は生き物の鼓動と、工業機械の駆動音が混ざったような濁り——


 低周波のうなりが、地面を振動させ、俺の内耳を直接叩く。

 心拍が同期しそうになるのを、俺は即座にブロック。


 ミサキ=オーロラの即時解析が骨伝導越しに入る。

 『タナトス、有機物比率34%。残りは無機素材と電子骨格。

  ……これ、人間の脳を模したコンピュータ積んでる。

  つまり“考える怪物”。予測アルゴリズムが常時稼働中。タナトスの動きを0.1秒先読みしてる』


 オーロラの声が畳み掛ける。

 『眼球部は高精度のカメラインターフェース。解像度4K超え、暗視モードオン。

  ……自律型AI。完全に“狩る”側の設計だ。獲物の逃走パターンを学習し、即時最適化。

  弱点? 関節部のトルク変換部——だが、露出率5%未満』


 「了解。相手は捕食プロセスあり と推定——来るぞ」


 青手は地面を叩き割る勢いで“這うように”前進してきた。

 歩き方ではない。跳躍でもなく、滑走ですらない。“落ちる天井”みたいな速度で迫る。

 地面の亀裂が蜘蛛の巣のように広がり、雨水が飛び散る。指先が空気を切り裂き、風圧が俺の頰を抉る。


 速い。逃げる相手を追い詰める構造ではない。


 確実に仕留める為の速さ——時速80km/h超え、加速度は重力の3倍。

 レンズが俺の熱源を追尾し、内部のAIが低く唸る。


 イレイザー起動。

 内骨格アシストが背骨を押し上げ、視界の重力が一段軽くなる。

 アドレナリン注入で心拍160、筋繊維の出力が200%ブースト。

 俺の足が地面を蹴り、廃墟の鉄骨を跳躍台に変える。


 初速15m/s、空中で体を捻り、青手の突進を横に回避。


 そこを切り裂くような風圧。

 青手の五本の指が“一本ずつ別の生物”みたいに襲いかかる。

 人差し指が俺の頭部を狙い、地面を抉る衝撃波を発生。

 空気が爆ぜ、中指が腰部を薙ぎ払い、俺は吹き飛ばされるが……。

 「……だが、思ったより軽い」


 更に薬指が予測軌道を先読みし、着地点を封鎖。

 小指がバックスタブのように後方から迫る。


 親指——それは単独で俺の胸郭を握り潰すための“主砲”だ。

 握力、推定10トンから20トン級。

 各指の表面は棘状のナノブレードで覆われ、接触すれば皮膚を0.01秒で剥ぎ取る。


 これは、食らったら死ぬ。


 俺は鉄骨の壁を蹴り、空中で二回転。指の群れが空を裂き、雨粒を蒸発させる熱波を放つ。

 着地と同時に、青手の親指が地面を叩き、衝撃で俺はバランスを崩す。


 低周波振動が骨に響き、吐き気を催す。だが、俺はそれを逆手に取る——

 振動の波形をイレイザーのジャイロで相殺し、反動で加速。

 「オーロラ、指の同期率!」


 『同期率92%。親指がリーダー、残りがフォロー。親指を無力化すれば、乱れる!』


 青手が再び突進。レンズが赤く輝き、AIの学習が加速——俺の回避パターンを解析中。

 次の一撃は予測不能。

 指が散開し、五方向から包囲網を形成。廃墟の壁が崩れ、瓦礫が飛び散る中、俺はイレイザーのサーボを稼働。

 外骨格の関節が悲鳴を上げ、金属の軋みが耳を劈く。


 人差し指の突きが俺の肩をかすめ、ジャケットを裂く。血の匂いが雨に混じる。

 中指の薙ぎ払いが脚を狙い、コンクリを粉砕。

 俺は低く身を屈め、薬指の封鎖をくぐり抜け、小指のバックを肘打ちで弾く。

 衝撃が腕に響き、骨が軋む。だが、親指が来る——巨大な青い影が視界を覆い、握力の予感が空気を圧縮。


 捕まれない。絶対に。


 俺は地面を蹴り、後方へジャンプ。親指が空を掴み、爆風のような衝撃波が発生。

 俺の体が吹き飛ばされ、壁に激突。生身だったら死んでいる。


 イレイザーの警告音が鳴り響く——外骨格耐久80%低下。


 青手が這い寄る。指が蠢き、次の攻撃をチャージ。

 レンズの光が俺を固定し、青手のAIの声が響く——『捕獲確率:98%』。


 「ふざけんな……」

 俺は立ち上がり、息を整える。心拍をコントロール、視界をシャープに。

 青手の構造を解析——指の付け根に微かな隙間、トルクの弱点。


 そこに、ミナト=ルートの声が割り込む。

 『弱点露出! 親指の第2関節、応力分散率低下中。狙え!』


 青手が再突進。五指の群れが渦を巻き、廃墟を粉砕しながら迫る。

 雨が横殴りに叩きつけ、雷光が青手のレンズを照らす。俺はイレイザーのブースターを噴射、初速20m/sで横滑り。

 指の群れが空を裂き、地面を抉る。俺は鉄骨を掴み、振り子のように体を回転——親指の付け根へ膝蹴りを叩き込む。


 衝撃。

 金属と肉の融合体が軋み、火花が散る。だが、青手は怯まない。

 親指が反撃し、俺の脚を薙ぎ払う。

 俺は空中で体を捻り、着地を誤魔化すが、地面が崩れ、転倒。

 青手の指が即座に追撃——人差し指が胸を押さえつけ、圧力が肺を絞る。

 「ぐっ……!」


 外骨格が悲鳴を上げ、警告ランプが点滅。握力10トン。肋骨が軋み、息が詰まる。

 オーロラの叫びが骨伝導で響く。

 『タナトス!時間稼ぎ無理!振り解いて!死ぬ!』


 「やってる……!」

 指の付け根へ膝蹴り——では足りない。関節の駆動音を拾う。

 ギアの噛み合い音、トルク配分を耳で解析。最も応力が薄い部分へ——


 虚無化ステップ。

 意識下の“空白”を足裏に乗せる感覚。

 イレイザーの量子フィールドを展開、重力を一瞬“無”に変換。俺の体が空間を滑るように動き、指の隙間を抜ける。

 青手のAIがエラーを吐き、レンズが一瞬ちらつく。その0.12秒を使い——全力の蹴り。


 イレイザーの強化下腿が火花を散らして青手を吹き飛ばす。

 衝撃波が廃墟を震わせ、コンクリ壁を二枚貫通。青手の体が回転し、地面を削りながら後退。

 だが、それでもすぐに起き上がった。

 レンズが収束光のように俺を捉え、青手は“吠えるような動作”をして再び襲いかかる。

 青手の指が震え、内部の脳ハイブリッドが怒りのアルゴリズムを起動——

 

 攻撃パターンがランダム化、予測不能の乱れ打ちへ移行。


 「くるなら来い……」

 青手の指が狂ったように連撃。

 廃墟が崩壊し、瓦礫の雨が降る中、俺はイレイザーの耐久を削りながら回避を続ける。


 人差し指の突きが肩を掠め、血が噴き出す。中指のスマッシュが地面を陥没させ、俺の足元を崩す。

 薬指の連続斬りが空気を切り裂き、雨を蒸発。小指が背後から絡みつき、親指が正面から圧殺を狙う。

 五指のシンフォニーが、俺の周囲を死の渦に変える。


 汗が目に入り、視界が滲む。心拍180、酸素欠乏の警告。

 だが、俺は笑う。この怪物は強い。設計が完璧だ。だが——それが、俺の興奮を煽る。

 「次は……お前だ」


 俺は瓦礫を蹴り、加速。青手のレンズが俺の軌道を予測し、親指を展開——握力チャージ、15トン。

 空気が歪む。俺はそれを正面から受け止め、両腕でガード。外骨格の音が響き、衝撃が体を貫く。

 肺が潰れる感覚。だが、俺は耐える。イレイザーのバックアップ回路が起動、痛みをブロック。


 反撃の隙。青手の親指が俺を押し潰そうとする中、俺は肘を叩き込み、関節をずらす。

 ギアが外れ、火花が爆ぜる。指の同期が乱れ、他の四指が一瞬硬直。


 今だ。


 俺は親指の付け根に拳を沈め、内部のワイヤーを引きちぎる。すぐさま渾身の回し蹴り。

 青手の体が吹き飛びながら痙攣し、レンズが赤く点滅。


 AIのエラー音が低く響く——『システム異常……再起動……』。


 だが、青手は諦めない。

 残りの四指が独立稼働し、俺を包囲。廃墟の天井が崩れ、雷光が閃く中、戦いは頂点へ。

 俺の息が荒く、血が雨に混じる。青手の指が再び群れを成し、渦巻く死の嵐を巻き起こす。



 ◆黒沼カイト視点 — 監視モニター

 「……はっ?」

 モニター越しの映像に、思わず声を失った。

 チャッピーなんか比にならないほどの、青手はバトル特化のアニマトロニクスだぞ?


 シオンには伏せてたけけど、“青手”は殺人に特化したアニマトロニクス。

 もっと言えば——殺しの完成度が異常なヤツっス。


 モニターのフレームレートが追いつかない。青手の指が高速で動き、男の回避がそれを上回る。

 廃墟の崩壊がリアルタイムで映し出され、俺の掌に汗が滲む。


 「え、なにあの速さ……いやいやいやいや待って、てかNOX側の男、あれ誰っスか?

  え、おいおいおいおい……待って、待って、あの人……走り方バケモンじゃないっスか?」


 画面の中の男は、廃墟の鉄骨を重力無視で踏み換えて青手の攻撃を避け続ける。

 追いつかれたら即死。なのに、速度は青手と“同等”——いや、学習中か? どんどん加速してね?

 男の動きが、徐々に青手のアルゴリズムを上書きしてるように見える。


 「…あれ、アイツらの観測部のユニフォームって次元じゃねぇって…… !!

  こいつら、マジでガチで“暴力装置”積んでるんスか……?」


 青手の親指が男を捕らえ、外骨格が軋む音がマイク越しに聞こえる。

 だが、男は脱出。蹴りが青手を吹き飛ばし、壁を貫通。衝撃波がカメラを揺らす。


 「耐久値……まだ70%? 設計ミスか? いや、こいつの動きが異常……なだけっス……よね」

 青手が起き上がり、再突進。指の乱れ打ちがモニターを埋め尽くす。

 男の血が飛び、雨に溶ける。

 俺はモニターに顔を寄せ、息を詰める。この戦い、設計通りにいってないっスね。


 青手が……押されてる?



 ◆岡崎ユウマ=タナトス視点 —


 青手の一本の指が、空間を“鷲掴み”にしたような錯覚を起こした瞬間—— 視界が横に流れた。


 捕まれた。


 イレイザーの外骨格が激しく軋む。


 胸郭、圧迫。肺が潰れる前に思考が走る。

 (握力、推定10トンから15!あと0.3秒で外骨格が折れる)


 オーロラが怒鳴る。

 『時間稼ぎ無理!振り解いて!死ぬ!』


 「やってる!」

 指の付け根へ膝蹴り——では足りない。

 関節の駆動音を拾い、最も応力が薄い部分へ——虚無化ステップで脱出、全力蹴りで吹き飛ばす。

 だが、青手は壁を貫通しても起き上がり、指を再配置。

 レンズの光が俺の弱点をスキャン——左肩の損傷、脚部の出力低下を即座に狙う。


 次の連撃。青手の四指が連携し、俺を壁際に追い詰める。

 人差し指の連続突きが空気を爆破、中指のハンマーブローで地面を陥没。

 俺は壁を蹴り、跳躍——薬指の斬撃をかわすが、小指が脚を絡め、引き倒す。転がる俺の体に、親指の影が落ちる。


 回避。

 ギリギリのローリングで逃れ、立ち上がりざまにカウンター。


 拳が青手の掌に沈み、内部回路をショートさせる火花。

 青手が後退、だがAIが適応——指の動きが速くなり、予測アルゴリズムが俺の癖を学習。

 次の一撃は完璧に俺の死角を突く。


 風が割れる。雷の音が遅れて届く。

 俺は腰を落とし、 両腕をわずかに外に開いて——虚無(Null)を収束。


 手のひらの周囲に、熱すら奪う黒の円環ができる。空気が歪み、周囲の雨粒が蒸発。

 イレイザーのコアがオーバーロード、警告が鳴り響くが、無視。

 量子フィールドを極限まで圧縮——質量、速度、存在そのものを“無”に変換する最終兵器。

 

 「虚数の地に座標を刻む。

  光沈。音潰。全ての波動を位相を零へ——


  重力反転、音響崩壊確認。

  閉じよ、虚空の積分面——


  記録の地層に沈み、ΔE=ΣΩに還れ。

  ……黒葬、ブラックレクイエム……発動……!!」


 俺の手に具現化された漆黒の箱……箱が手元から移動というプロセスを省略して青手の前に現れる。


 次の瞬間、世界から“音”が消えた。

 青手の周囲だけが、**質量も速度も存在も無視して吸い込まれる“空白の井戸”**へと変形する。


 指の先端が黒い渦に引きずられ、金属がねじ曲がる。

 レンズが収束を試みるが、遅い。

 AIの悲鳴のようなエラー音が虚空に飲み込まれ、青手の体が内側から崩壊——

 骨格が折れ、有機物が蒸発、無機部が粉砕。


 直径20cmの穴が空間を抉り、怪物は悲鳴も上げられないまま、真っ赤な血飛沫が飛び散る。

 まるで“ブラックホールのミニチュア”に圧縮され、内部構造を自壊させながら——


 消えた。


 闇が閉じる。世界が戻る。雷鳴が遅れて鳴った。


 廃墟に静寂が戻り、俺の息だけが荒く響く。

 イレイザーの耐久、残り15%。身体は多少痛むが、勝った。

 少し、身体が鈍っていることを痛感。



 ◆黒沼カイト視点 —

 モニターがブラックアウト。

 俺……何を見せられた……!?足が震えていた。

 「………………は?」

 自分の鼓動の音だけが耳に残る。カメラのフィードが切れ、残像だけが網膜に焼きつく。

 青手の体が、あの小さな穴に吸い込まれた瞬間——空間そのものが歪んだ。


 「いや、待って……  なんだよ今の……  小さい穴に青手が吸引されたんだけど……?

  ブラックホールのミニ版? いやいや、嘘だろっ!?  ……NOX、これ、戦っちゃダメな組織じゃね?」


 喉が鳴る。汗が背中を伝い、椅子が軋む。

 「あの男……なんであんな終わり方できるんスか……」


 椅子に座り込む。モニターの黒が、俺の視界を嘲笑う。


 青手。怪異No.001 戦闘特化型。

 自分が徹夜続きで作り込んだ“強者”。

 噂の拡散、恐怖演出、内部機構、カメラアイの反応速度。

 全部**「これなら人を殺せる」**じゃなく、**「人を“本当に追い詰められる”**に振り切って設計した。

 指の握力は20トン、AIの学習速度は人間の100倍、構造耐久は戦車並み。


 なのに。


 「え……やられたの……?  いや、“やられた”どころじゃなくて……  存在消されたよな今……?」

 膝に力が入らず、そのまま椅子に尻もちをついた。


 周囲に誰もいないのをいいことに.俺は頭を抱えながら笑ってしまった。

 「チャッピーなんか……  あんなの、あの男に蹴られたら頭パーンで終わりじゃん……!

  こいつらに、嘘の拡散なんて、姑息なこと通用しなくないっスか?」

 俺は笑いながら机を叩く。そして、額を机に落とす。


 「俺、なに作ってんだ……?  いや、違う、俺が弱いんじゃなくて、あれが異常なんだって……!」

 自分で自分を慰めながらも、頭のどこかで冷静な分析が動いていた。

 「シリーズは……まだ4体残ってるけど……  いやでも、あれ、勝てんのかな……?」


 口元が震える。

 あの青手はシリーズの中でも“中位”。真のキワモノはもっと後に残してある。

 それでも、あの怪物が一瞬で無にされた。


 男の「計算→判断→殺意」 の切り替えが速すぎた。

 恐怖じゃなく、“理解”の震えだった。


 画面の男が、一瞬笑っていた。


 理性的な顔に、ちょっとだけ力任せの気配。


 「……この人、頭いいくせに、“最終的には殴ればいい”って本気で思ってるタイプ……?

  ああ、そうそう間違いないっス……理屈でこねくりながら、面倒なら相手を平気で潰すタイプ……。

  何かを通したいなら、話を聞くより、殺すのが一番手っ取り早いって思ってる……」


 カイトの背中を汗が伝った。


 「ヤバ……

  NOX、ほんとに危険装置の塊じゃん……死のうが壊れようが、理屈の外側まで力で突破する気だ……」


 「もしかして……他のメンバーも強い……のか……?」

 自分でも思ったより弱々しい声で、俺は笑ってしまった。


 「トウタのやつ……面白いやつらとつるんでたんっスね」


 そして、ふと脳裏に浮かぶ。

 ——シオン会長。

 今日、彼女は言っていた。

 「外部観測者として矢那瀬アスミを呼ぶ」と。


 その時は、“会長また変な実験する気だな”くらいにしか思わなかった。

 でも——今は違う。

 「……あの人、分かってたんっスかね……?」

 会長が見つめていたのは、NOXの“倫理”でも“行動”でもなく——あの強さそのもの??


 男の“チート技”が、設計の限界を暴いた。

 そしてアスミを巻き込む理由も、なんとなく輪郭が見えてくる。

 構造を試すため。

 実験を成立させるため。


 そのためには、“世界の外側”を理解できる人間が必要だったんだ。

 俺は息を吐き、天井を見上げた。

 「会長……あなた、怖い人っスよ……」

 そう呟きながらも、どこかで、ほんの少しだけ、シオンの“美学”に触れた気がした。


 男のチート技が画面を焼き尽くした残像は、まだ網膜の奥にへばりついている。



 けど——この戦い、まだ入口にすぎないっスよ?


 シリーズの残りが、闇で蠢くのを想像し、俺は笑う。


 ◆ 矢那瀬アスミの解析記録

 怪異《青手》の残留データを、私はひとりで解析した。

 残ったのは、わずかな断片。

 黒葬の吸引圧でほとんど跡形もなかったんだけど、それでも“構造”は残る。

 世界の亡骸は、かならず形をとどめる。


 顕微解析で判明したのは——

 この怪物の設計思想は、W1の残滓と似ている。


 ただし“似ている”のは構造の概念だけ。中身はまるで違う。

 生首の化け物たちは、W1で発生した“負の観測”がそのまま形になった異常個体だった。


 意図のない悪意。あれは世界そのもののミスだ。


 だが今回の《青手》は——

 W2で“意図的に”作られた人工怪異。脳とコンピュータのハイブリッド。

 恐怖の再現を目的とした、設計された存在。

 指の握力は20トン超え、AIの適応率は戦闘中99%を記録。

 ユウマの介入で崩壊したが、単独では都市一つを壊滅させるポテンシャル。


 つまり、誰かが人為的に“怪異の構造”を再現しようとしている。

 その事実が、背筋を静かに氷のように冷やした。

 こんなものが散発的に現れる理由が、いまはまだわからない。


 ただ——  意図があるということは、数がある。

 数があるということは、再現性がある。

 再現性があるということは、まだ終わらない。


 次なる怪異が、もっと洗練され、もっと致命的に。

 私は解析データをユウマに送った。



 ◆ 岡崎ユウマ視点:アスミの報告を受けて


 俺は短くデータを開き、そしてほぼ同時に閉じた。

 「……W2産ってことか。W1の亡霊じゃないだけマシだな」


 その言葉の裏に、“壊す対象がはっきりしているのは救いだ” という淡々とした残酷さがあった。

 青手の残骸が、黒葬の余波でまだ微かに振動しているのを思い浮かべ、俺は拳を握る。

 あの感触——握力の圧迫、指の棘が皮膚を裂く痛み。次はもっと速く、もっと強く壊す。


 続けて、俺は手元のChrono-Scopeに新たなタスクを追加する。

 「多分だけど—— これから似た噂が、何度か拡散される」


 イレイザーの修復を進めながら、俺は次の戦いをシミュレート。

 「全部調査して、全部破壊する。W2製の怪異は、放置しない」

 まるで、“雑音は掃除するだけ”とでも言うように。


 雷がまた遠くで鳴った。

 その音は、まだ始まったばかりの戦いの予告のようだった。

 廃墟の闇が、次の怪異を孕み、俺の影を長く伸ばす。


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