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Chron0//≠BreakerS  作者: 時任 理人
第二章 双灯祭準備編

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46/94

EP46. #笑いの安全装置はどこへ消えた

 最初に言っておく。俺は“笑い”で世界を遠ざけるタイプの実況者だ。

 ヤバい現実でも、語尾に「w」を付ければ、ギリ人間でいられる。

 ——そう信じてた。

 けど“あの日”、黒沼カイトと、もう一人の名前(御影シオン)を聞いた瞬間、笑いの安全装置がカチリと外れる音がした。

 このログは、俺の“配信者としての声”が、少しだけ沈黙に負けた夜の記録だ。


 ——銃声の残響って、案外、綺麗なんだ。

 そんなことを思ってしまった自分が、いちばん怖かった。


***


 きっかけは、掲示板だった。

 「G4R—Ghost for Reality」って名の、ゲーム実況と戦略考察スレ。

 匿名だけど、常連はだいたいわかる。

 その中にいた一人——黒沼カイト。

 ハンドルネームは「Ka1t0」。


 トウタはその頃、笑いで世界を照らすタイプの実況者を気取っていた。

 殺伐としたマッチでも冗談を言いながら配信して、視聴者に「草」って言わせて、

 それで一日がちょっとだけ軽くなるような、そんなテンション。


 カイトは違った。

 チャット欄に「あとキル3でフルスコア。精度8割」って、ただそれだけを書いて去る。

 数字でしか感情を語らないタイプ。

 でも——戦闘技術だけは、桁違いだった。


 俺は、そういうストイックさに少し憧れてたんだと思う。

 だから、オフ会の誘いを断らなかった。


 「リアルFPS、見に来ない?バーチャルじゃ再現できない臨場感があるんすよ」

 カイトのDMには、地図のリンクと時間だけが貼ってあった。



 『リアルFPS(仮)オフライン実況記録』


 ——トウタ視点ログ

 (スレタイトル:【朗報】今日のオフ会、現実すぎて草)



 1 :名無しさん@観測中:

 オフ会きた。会場でっっっか。

 東京ドーム……マ? てか外壁に謎のセンサー生えてるんだが。

 出入口ゲートに金属探知、荷物検査二段構え。映画じゃなくて現実です(震)


 ——ここまでは、いつも通りのノリ。

 FPS実況者として、俺の“お約束”はテンポと悪ふざけ。

 黒沼カイトも、そのスレの古参。

 語尾に「w」が多く、理屈より臨場感。

 最初は気が合った。いや、“合っていた”が正しい。


 3 :黒沼K:

 「よう、トウタ! 本物の“戦場”見せてあげるっす」


 このDMから、歯車は現実に噛み合いはじめた。



 オフ会の現場


 会場入口で金属探知。

 スタッフが「安全ですから」と笑う——フラグ折れてない。

 中に入った瞬間、脳内BGMが無音に切り替わる。


 床一面にセンサーマット。

 壁のスリットには赤外線トラップ。

 天井から吊られた360度の巨大モニターに、100人の一人称視点が蜂の巣みたいに並んでいた。

 ケーブルが脈打つ。空調が唸る。光が乾いている。


 「これ……普通のサバゲーじゃなくね?」

 俺が言うと、カイトは肩をすくめて笑った。

 「違う違う、“再現型FPS”っすよ。

  ——痛みも報酬の一部に含めてるwww」


 冗談だと思った。

 でも最初の発砲音で、前方のプレイヤーが膝から落ちた。

 スーツのポインターが白熱し、その着弾部位が視覚化される。

 呻き声はマイクで増幅。観客席は一瞬の静寂のあと、歓声。


 「おい、これ本気で痛いぞ!」

 「だからリアル。実戦性の検証っすよ」


 モニター上部にキルログが流れ、ダメコンの数値が踊る。

 “笑って実況できる空気”は、最初の着弾で蒸発した。



 27 :トウタ@実況中:

 「やべぇ、これちょっと違うぞ……!」

 「カイト、お前、どこまでやる気だ!」

 ※配信のノリで声出た。現地スタッフに注意された(すみません)



 ルール(後出しジャンケン方式)

 •50対50 バトルロイヤル。

 •安全地帯は時間で縮小、外圧エリア残留で自動失格。

 •中央セーフゾーン占拠で勝利。ただし常時スモーク+ドローン監視。

 •マップ各所に無人砲台、ランダムで両陣営に敵対。

 •スーツのポインター被弾が可視化、痛覚フィードバックあり。

 •観戦ステージでは全POVを同期配信、遅延ほぼゼロ。


 ——結論:ステージ自体が敵。


 天井ライトが赤に変調、BGMが戦術ノイズに切り替わる。

 床下から衝撃波ショックプレートが低く鳴り、観客の体幹が揺れる。


 「観測ライン、同期完了」

 モニターの上部に、その文字がにじむ。

 ここはもう、“遊び場”じゃない。


 44 :黒沼K:

 「やっぱ最高だろ? 現実って、痛いほど綺麗っす」


 ——この一言で、何かが折れた。

 カイトの目は“FPS上級者”の集中ではない。

 “殺しを設計する側”の焦点距離だ。



 フェーズ終盤(実況モード/息が上がる)


 101 :トウタ@実況中:

 「残り12。中央セーフゾーン、視界ゼロ。

 スモーク濃度上昇、熱源サーチが乱れてる。

 砲台が……おい、稼働アルゴリズム切り替わってない? 嘘だろ?」


 プレイヤーが走るたびに観客が沸き、痛みの声が演出に包摂され、画面の赤いハイライトが綺麗に見えてくる。

 ——それがいちばん怖い。


 「これが人間の進化っすよ。トウタ。

  “倫理のバフ”なんて、戦場じゃデバフなわけで」

 カイトは笑う。スクリーンの赤光で輪郭が歪む。


 「笑えるかよ、こんなの」

 「笑えよwww。お前は“実況者”だろ?」


 ——刺さった。

 どんな比喩でも、どんな編集でも、この場の“現実”は軽くならなかった。



 終演


 勝敗が決まっても、拍手は薄い。

 数名が医療班に運ばれ、残った観客は“見てはいけない”を見た顔で出口へ。


 それでもカイトは笑っていた。

 「トウタ、見ただろ?人は痛みでしか現実を覚えられない。これが俺の作りたい“ゲーム”なんっす」


 言葉が返らない。

 “リアル”って、そこまで欲しかったのか。

 再生ボタンのない現実は、ただ喉に引っかかった。


 121 :トウタ@帰宅中:

 「今日のオフ会、ガチでトラウマ級」

 「あいつ、もう“ゲーム”やってない」

 「ゲームの形をした現実を作ってる」



 ——実況タイトル:


 【#オフ会後日談】黒沼カイト、そして“影村の生徒会長”の話【マジで洒落にならん】

 配信タグ:#ChronoTalk #戦場の笑い方



 コメント欄は元気。

 「トウタ〜」「例のオフ会どうだった?」「ネタくれ!」

 ——それだよ。

 みんな笑い話を期待してる。


 俺はいつもの癖で笑いながらマイクを掴む。

 「やばかった。ドーム規模、100人同時バトロワ。

  痛覚フィードバック付き。——“命のチュートリアル”」

 《何それ草》《事件やん》《リアルFPSこわ》


 「そう、リアルFPS。黒沼カイト、あの男が中心だった」


 言葉にした瞬間、胸の奥が重くなる。

 マイクのノイズが、鼓動の代わりを始めた。


 正直、カイトは“いいやつ”だ。

 ノリも話も合う。

 FPS談義の熱量は、他の誰とも違った。

 ——でも熱の向きが違う。


 俺にとってゲームは笑いの拡張現実。

 死は編集できる。やり直しが効く。


 カイトにとってゲームは現実に足りない痛みの補填。

 「本物の緊張感がないと、生きてる意味ないっしょ?」

 その笑顔は、少し寂しくて、少し怖い。


 「で、そっからがまたやばい」

 俺は声を落とす。

 「カイト、影村学園の生徒会にいる。

  その会長が——御影シオン」


 《聞いたことある》《天才一年》《影村の怪物》

 「その“怪物”って表現、たぶん正解。

  小柄で穏やか、喋りは柔らかい。

  でも目の奥が計算式。

  ホワイトボードに**『EXIT:Consensus』**って書いて、痛みを“光”で扱うって言ってた」


 《どういう意味?》《サイコ?》《哲学?》

 「知らん。でもやばい。

  “信頼を数値化して、それを光に変換する展示”。

  カイトはノリノリ。

  『今回は安全設計』って言うけど、

  あいつの安全は“壊れないギリギリまで壊す”の意味」


 コメントが静まる。

 《笑えねぇ》《実験やん》《トウタ逃げて》


 俺は笑う。

 でも喉の奥で、笑いが空回りする。


 「怖いんだよ。

  カイトの笑いは痛みと同期してる。

  あいつにとって“笑う”は“引き金を引く瞬間”。

  俺にとって“笑い”は世界を遠ざける防波堤」


 《カイト今どこ?》《双灯祭=天城×影村?》《アスミ出るやつ?》

 矢那瀬アスミ——その名前で背筋が冷えた。

 “観測者”がいれば、構造は閉じる。

 シオンと交われば、カイトは何かを撃つ。


 「……俺は距離置く。

  でも、次の双灯祭で“痛みの展示”があったら、

  その後ろにカイトがいる。

  そしてもっと後ろには——」


 ライトがちらつき、録画ランプがノイズを吐く。

 「——“出口のない出口”を作る天才少女がいる」


 《御影シオン=構造の魔女》《黒沼カイト=現実を燃やす火種》《亞村トウタ=実況する影》


 俺はマイクを軽く叩いた。

 「以上、亞村トウタの実況でした。

  笑えるうちは、まだセーフ。

  でも——笑いが止まった瞬間が、本当のスタート」


 配信を切る直前、ヘッドフォンの奥でカイトの声が再生された気がした。

 〈お前も観測者なんだろ?最後まで見ろよ。“リアル”が笑う瞬間をさ〉


 ——そしてノイズ。

 録画ファイルの末尾に黒フレームがひとつだけ残り、タイトルバーには勝手にこう表示された。


 【EXIT:Consensus - PreMatch_Log】


 家に帰ってから気づいた。

 俺の笑いは、世界を照らすためじゃなく、世界から距離を取るためのものだった。

 カイトの笑いは、世界に寄っていくための合図。

 同じ“明るさ”でも、向きが真逆だった。


 双灯祭が始まったら、きっとまた笑いを求められる。

 「面白おかしく伝えて」「怖いのをネタにして」って。

 ——できる限りやる。

 でももし、俺の笑いが止まったら、それは本当にヤバい合図だ。


 御影シオン。

 出口のない出口を設計するJK。

 黒沼カイト。

 現実を笑いで撃ち抜く男。


 俺は“実況する影”でいい。

 けど、影だからこそ見えるカメラ外の何かがある。

 ——もし次に“笑えない俺”を見たら、そっと配信を閉じてほしい。

 その時はきっと、本番が始まっているから。


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