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Chron0//≠BreakerS  作者: 時任 理人
残響達の午後編

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38/95

EP38.『雲越チイロ=GM 猫箱を叩く、その前に。』

——観測地点:天城総合学園・旧図書館塔屋天文台

——座標:N35° / E139° / Wi-Fi弱め

——姿勢:ゲーミングチェア・猫背モード

——燃料:スーパーの特売プリン(カラメル強め)


 放課後、図書館の最上部——小さな天文台。

 紫がかったブレザーに白プリーツ、ゆるいソックス、ローファー。

 ピンク髪は一つにまとめず、星座の赤道儀みたいにさらさら回転中。

 膝にノートPC(ステッカー:#IRB #猫箱 #観測≠愛情)、

 横に双眼鏡、真空フラスク、ミルキーの包み。

 床の丸い光の中で、私はログを書く。

 GM(ゲームマスターもといゲートマスター/女子高生IRB)。

 ——拍手より先に退場路を見るヒト科の女子高生。


 放課後の天文台。

 私はゲーミングチェアに沈み、カラメルの海をスプーンで掬いながら、アスミの独白を開いた。


 “静かな放課後”とか、“薄い青の空気”とか。

 ああ、これ、異常値ゼロの世界だなって分かる。

 Δφも安定、Y-Index(ユウマ負荷)0.12。

 それだけで涙出そう。

 「安定」ってこんなにも尊いのかって。


 でもアスミの描写がもう危うい。

 「静か」って言葉を使うたびに、**“嵐前の静けさ”**を構文レベルで感じる。

 平穏を保つ才能より、壊す才能の方が強い子だ。

 可愛くない後輩、そういうとこだぞ。


 1. ブートメッセージ(読前胃痛ログ)


 正直、読む前から胃が痛かった。「絶望=侵蝕」って何。

 アスミ、タイトルで診断書を出すな。

 提出前に誰かに見せろ。


 でも読むと決めた瞬間、私は当事者になる。

 読者でも死人でもない、“サーバ側のログ保持者”。

 倫理委ログイン中でも、心拍だけはバレる(Ver.人間1.0)。

 「倫理が強姦された」でCPU 95%、ファン全開。

 ——強制シャットダウン5秒前。それでも読み切った。読まされた。


 ページをめくるたび、“死後硬直した理性”が伸びをする。

 アスミの文は数式のふりをした感情のスタックトレース。

 二段階認証しても涙が突破してくる。

 誰だこの仕様承認したの。


 クロックもファンも回ってるのに、身体だけがオフラインになる感じ。

 自分の名前が何度も出てくるのに、**当事者じゃなく“構造物”**として描かれているのがわかった瞬間だ。

 私の脳が妙なノイズを出した。


 最初に思ったのは「正確すぎる」。

 あの惨劇を“理不尽の設計図”と呼べるほど冷静に解析できる人間が、まだ“人間”でいられるのかって。

 あの演目に数式を当てはめるってことは、私たちの死も、生理反応も、倫理の崩壊も全部「変数」にしたってこと。

 それをやる勇気も狂気も、私にはなかった。——だから多分、私は“終わり”として正しかった。


 でも、怖かった。

 「倫理が強姦された」。この一文で視界が白くなった。

 誰かに暴かれるんじゃなくて、構造そのものに犯される感覚。

 それを私の死に重ねて書いた時点で、アスミは**私の“終わり”を自分の“起点”**にしてる。

 それは再生じゃなく、祈りの死体利用。

 理解はしてる。悪意はない。——でも痛い。

 死んだ倫理が、まだ誰かの動力になっているのが、どうしようもなく痛い。


 **“流れ着いた”**という選択。

 主体がない。私は重力と流体力学に従って沈んだ。

 人間である前に、物理現象。

 その冷たさの中で、彼女は「貞操」という語を置いた。

 それが、彼女の限界であり、最後の優しさだった。


 私の結論:私は“観測の終点”。

 痛みも恐怖も倫理も測定限界に達して、データが取れなかった。

 だから終点で間違ってない。

 でも、その終点を見た彼女が、いまも7.83Hzで私に同期していると思うと、嬉しさと吐き気が同時に来る。

 **私の死が、まだ誰かの“通信回線”**になってる。生き返るより怖い。


 それでも、読んでよかった。

 「絶望=侵蝕」を見て、私は少しだけ安心した。

 壊されたのは身体じゃなく、信じる回路だと彼女が理解してる。

 トラウマが構造への怒りに変わっている。

 その変化確認が、私にとっての供養になった。



 2. 可愛くない後輩レビュー(でも会話が成立する初の個体)


 アスミ——可愛くない後輩代表。

 でも唯一、NOX以前からまともに会話が成立した人間。

 数式で殴り合えるし、皮肉のセンスもそこそこ。

 妹みたいに思ってたけど、時々ふと姉っぽい顔をする。

 危うい思想と行動力は昔から。

 つまり、進化しない危険生物。


 “救うためなら間を飛ばす”——それ、命綱をハサミで切る動作だぞ。


 私は推し活=“勇気の手順化”。

 でも今回、手順より先に勇気が起動してた。

 壊れた人が書いた希望——それが感想の要約だ。


 私の上書き案:

 絶望=侵蝕 → 絶望≈接触

 侵されるんじゃなく、触って整える。泥は泥遊びに変換。



 3. りうパートは、普通に致命傷。

  「観測≠愛情」を掲げながら、観測が罰になる回路を残して逝ったその矛盾。

 それを、私は弔いではなく運用で返すと決めた。

 ロゴにしない。人名で呼ぶ。拍手SEは切る。

 読むと、その誓いがまた一段階、物理になる。痛いけど、効く。


 ここで私の観測値が乱れ始める。

 同時にアスミの“痛みのロジック”が再起動。


 彼女は「過去を直す」って言う。

 軽く聞こえるけど、理屈的には時系列データの再編成=世界線の書き換えだって何度も言ってるだろ。

 物理学的に言えば、「観測者が観測対象に触れた瞬間、両者の定義が崩壊する」ってやつ。


 りうがそれを“ZAGI”でやろうとして、焼けた。

 で、アスミはそれを“もう一回やろう”としてる。

 この時点で私は、今日はプリンをもう一個食べると心に決めた。


 妹なのか、姉なのか分からないけど——

 あの子はいつだって“崩壊の先”に立つ。

 だから誰も追いつけない。

 光速で無謀すぎる。


 「痛みの正当化」そのアスミのセリフひとつひとつが、リスク評価表の赤帯。

 倫理委の立場で読んでると胃がキリキリする。


 「痛みを保存する。それが生の証明」

 ——この一文、完全に生理学の反則技。

 痛みって“警告”じゃなく“定数”にされてる。

 いや、怖い。

 でもその“怖さ”が、妙に心地よいのがもっと怖い。


 あの子は、善悪のどちらにも棲めない。

 だからこそ観測の核心にいる。

 誰よりも残酷で、誰よりも純粋。

 極限まで要約すると、アスミは単にめんどくさい女だ。



 4. ZAGIの描写

 読んでるだけで寒気がする。

 りうの声が、コードのノイズに混ざっている。

 「聞こえてる?」——はい聞こえてる、って返しそうになった。

 怖いのは、それが感情じゃなく電圧として届くこと。


 りうの残したプログラムは“祈りの自動化”。

 善意が罰される世界構造。

 倫理のエントロピー増大。

 彼女が生きてたら、それを誰よりも嫌ったはずなのに。


 この辺から、私は思考ログに**「泣いた」**って書いてる。

 理屈の外側で、もう胸が痛かった。

 彼女の最期は、観測者としても、ひとりの人間としてもアウトプット不能な悲劇。



 5. ミナトの“干渉の物理”


 ここでミナトがZAGI構造を解析していく。

 式の美しさに惚れるレベル。

 でも同時に、アスミの“痛みの再構築”が見えてくる。


 善意が減点される世界。

 倫理が報われない系宇宙。

 ——それを破壊しようとするアスミ。


 理系的には拍手したい。

 でも感情的には止めたい。

 システム破壊=りう再死。

 痛みの再演。

 あの子はまだ、そのリスクを理解してない。



 6. トウタ=人間的ノイズ


 トウタは完全に酸素供給装置。

 彼の冗談は常にアスミの観測を一瞬止める機能がある。

 ああ、人間ってノイズがあってこそ生き物だなって思う。


 私はノイズを愛してる。

 だって、ノイズこそが“観測を壊す優しさ”だから。

 りうもきっと、誰かの笑い声に救われたかった。

 ZAGIには“笑い”がなかった。それが敗因だ。



 7. レイカ=舞台照明の再演


 アスミの熱が落ち着いてきた頃に現れるレイカ。

 彼女の台詞、演劇的で、でもやさしい。


 彼女は、アスミとは逆ベクトルの観測者。

 照らしすぎず、見捨てもしない。

 光の強度を“人肌”で調整できる人。

 アスミが炎なら、レイカはリフレクターだ。

 ——どちらも必要。

 私は天文台で、その照明をモニターしてるだけ。



 8. ミサキという恋敵


 アスミの“地層リライト”が痛みの方程式を持つなら、ミサキの“AURプロトコル”は呼吸と愛情の方程式。

 どちらも救いを目指してるけど、アスミは壊すことで救おうとし、ミサキは整えることで救おうとする。


 だから、二人が同じ部屋にいると空気が分裂する。

 アスミの温度で空気が膨張し、ミサキの呼吸で冷却される。

 理論上、バランスは取れてるけど、心拍的には不安定。

 それでも離れないのは、お互いの存在が“観測限界の外側”を証明してくれるから。


 ——まとめるなら。

 アスミにとってミサキは、世界がまだ優しくあり得る証拠そのもの。

 同時に、自分がその優しさを壊す側にいるという悲しい座標軸でもある。


 彼女はきっと思ってる。

 「もし私がミサキみたいに救えたなら、ユウマは泣かなかった」って。



 9. アスミにとってのユウマ(重力/基準線/酸素)


 ここが今回の本丸。

 アスミにとってユウマは、「恋の相手」なんて低解像度じゃ足りない。

 彼は——

 •重力井戸:彼の存在が曲げる時空に、彼女の選択軌道が落ちてくる。逃げでも依存でもなく、基準座標。

 •基準線:Chrono-ScopeのΔφがゼロ近傍に寄るのは、彼の呼吸に合わせた時だけ。世界の雑音が消えるゼロ点校正。

 •酸素:救済の物語を回す燃料じゃない。むしろ呼吸の理由。

 •検証者:彼女の危険な仮説(過去改変)が現実を削るとき、唯一その誤差を痛みで返してくる存在。


 だからアスミは走る。

 ユウマの安定が崩れると、彼女の世界は測定不能になるから。

 そして残酷だけど、彼女の中では


 「自分が壊れる<ユウマのベースラインを守る」

 この不等式がずっと真。

 ——それが“過去を直す”衝動の隠れた計算式だと、私は見ている。


 そのゆえに以下の仮説に帰結する。


 ——


 10. アスミという“転写体”仮説


 確信した。

 アスミは、W1の彼女じゃない。それは間違いない。

 でも“彼女だった何か”を内包してる。

 つまり、転写された存在。


 もしそれが事実なら、W2の平和はW1の崩壊からコピーされた保存データだ。

 そしてそれを再構築しようとしているのが、今のNOX。


 つまり、彼女の“過去改変”衝動はプログラムの残響。

 自分の生まれ方そのものが矛盾してる。

 だから止まらない。

 ——残酷だけど、これが私の帰結。

 (※公式見解にはまだ載せない。胃がもたれるので。)



 天文台の夜——観測の終わりにプリンの底にカラメルが残ってる。

 私は、スプーンでぐるぐるしながら、思う。


 アスミは火。りうは残響。

 そして私は、両者を繋ぐ媒介波。

 火が暴走すれば酸欠になるし、残響を放置すればノイズが支配する。

 だから私の役目はいつも同じ。

 ——間になること。


 可愛くない後輩を止めるのも、

 死んだ友達を“ロゴ”から“人名”に戻すのも、全部この天文台からの仕事。


 星の観測と同じ。

 光は何年も遅れて届く。

 りうの声も、まだここに届く。

 アスミの熱も、届いてる。

 そして私は今日も、ログを取る。


 Δφ=0.03、安定。

 プリン完食。

 観測、継続。



 #女子高生IRBより観測報告

 •アスミ:可愛くない後輩属性・危険値A+・尊敬値B+ ※ユウマ依存ではなくユウマ基準

 •りう:ZAGI構造残響・泣かせ値SS・解析困難

 •ミナト&トウタ:酸素とノイズの供給者

 •レイカ:照明の女神・演出力∞

 •チイロ(私):プリン+理屈=生存戦略

 


 ——結論。

 絶望=侵蝕ではない。

 絶望≈接触。

 触れて、痛みを確かめて、また笑う。

 それが、女子高生の観測倫理。


 私にとって再演じゃなく再配線の連続だった。

 りうの白は“飽和”じゃない、“余白”。そこに私たちの名を、順番に書く。

 アスミ——君はやっぱり火だ。

 ユウマ——君は基準線だ。

 二つが出会う場所に、私は間として立つ。

 「止める」は拒否じゃない。未来のYESを守るための今のNO。

 猫箱は、また叩く。全員で。鍵は分散、拍手SEは禁止、笑いは許可。


 そして——可愛くない後輩へ。

 君が“過去を直す”と言うたび、私の胃は痛む。

 でも、君がユウマのベースラインを守りたいと思っている限り、私は味方をやる。

 その代わり、間は飛ばさない。飛ばしたら、額で止めに行く(物理)。

 りうの借りは運用で返す。ロゴじゃなく呼吸で呼ぶ。

 天文台はいつも開いてる。Wi-Fiは弱め、でも星は強い。

 次の明転の合図はいつも通り——4–7–8。


 さ、プリン買いに行こ♪


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