表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/10

第1話:勇者は、予言より早く死んだ

その死体は、空を見ていた。


崩れた神殿の中央に横たわる、血塗られた白銀の鎧。それは、誰の目にも疑いようなく、“英雄”の亡骸だった。


「勇者が……死んでいる……?」


ざらついた声が、喉の奥から絞り出された。その顔は知っていた。この国が選定した七柱、その中でも「救済の預言」を託された少年。未来で魔王を討ち滅ぼす者。世界の希望。聖典にその名を刻まれた、絶対の英雄。


――それが、今、ここに、死んでいた。


しかも、予言が指し示す「戦いの刻」より、はるかに早く。


「時間が……狂っている……?」


呟いたのは、元・神殿調律官の男、ユーク=ヴァレル。異端と罵られ、二年前にその職を追われた元・天才検閲者。因果の糸と神意を読み解くはずのその瞳は、眼前の矛盾に凍りつき、ただ虚空を見つめていた。


「この死は、世界を壊すぞ……」


静かに、背後に歩み寄る気配があった。薄桃色のローブ。鋭く光る瞳。そして、淡く弧を描いた唇が、耳元で囁く。


「ようこそ、“勇者殺し”。ここからは――契約者である、わたしの仕事」


それが、彼女との再会だった。“災厄の魔女”を名乗る、異端の存在。世界を破壊する呪いと共に生きる女。


「犯人は、まだこの神殿のどこかにいる。そして、きっと“真理”に気づいてほしくて……あなたをここに呼んだ」


彼女は、指を鳴らした。


刹那、神殿の時が止まる。空も、風も、腐臭すらも、その動きを止めた。


「始めよう。この《予言殺し》のミステリーを、


――解いてみせて、ユーク」


世界は、勇者の死を許さない。預言に逆らったその罪を、今、逆照会する。


この死に“犯人”がいる限り――真実は、決して、消えない。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ