終幕 移りゆく家族
「……ソウカさん、今日こそ決めましょう」
「私とあなた」
「どちらが……妹になるかを!」
***
——ソウカがアルターファミリアを訪れ、数日が経過していた。
「おはようスレンちゃん」
「昨日言われた依頼、俺が行ってくるよ」
「しばらく船を借りるから、姉さんたちにはそう伝えておいてくれ」
「分かりました、お気を付けて!」
ガルムを送り出すと、スレンは再び受付の整理を始める。
「……」
その様子をソウカは静かに眺めていた。
「ソウカ様、おはようございます」
背後からネファリスが現れる。
「あ、ネファリスさん。おはようございます」
「こんなところで、いかがなさいましたか?」
「あっ……それは……」
「私、このまま何もしなくていいのかなと思いまして」
「お姉ちゃんと過ごせるのは嬉しいです」
「でも私だけ、お客さんみたいな扱いで……」
「なんというか……落ち着かないんです」
「ネファリスさん。私にも……お手伝いできることはありませんか?」
「それならいい方法がありますよ!」
受付の中から、スレンがこちらに声をかけた。
「ソウカさんも一緒に働きましょう!実はここ、人手不足で……」
「ソウカさんがお手伝いしてくれるなら、私、とても助かります!」
「それは良いですね。私も歓迎いたします」
「私が……?」
受付に立つ自分の姿を想像する。
「……」
「分かりました。皆さんがよければ、お願いします」
「じゃあ決まりです!早速着替えましょう!」
「ネファリス、受付をお願いできる?」
「かしこまりました、スレン様」
「さあさあソウカさん、こちらへ!」
「え?きょ、今日からですか?」
「もちろんです!早く慣れた方がいいですからね!行きましょう!」
半ば強引に手を引かれ、ソウカは奥の部屋へと入っていった。
「実はサラカさんの制服も用意してたんですけど、着る機会が無くて……」
「サラカさんはどちらかというと、傭兵業に引っ張りだこですから」
「この制服、ソウカさんに合いますかね?」
緑色の制服を取り出しソウカに差し出す。
「可愛い色……一度着てみますね」
制服のサイズはソウカにぴったりだった。
「いいですね!色もソウカさんに合ってます!」
「はい、よかったです」
「では、これからやることを教えます!ついてきてください!」
***
「おっ、嬢ちゃんたちおはよう」
「なんだ?ソウカもここで働くことになったのか?」
受付に戻ると、ブラッツとセルディスが依頼書を確認していた。
「そうなんです!ここは人手が足りませんし、お手伝いしてくれると言ってくれたので」
「ソウカさんの制服、似合ってますよね?」
「ああ、色味も嬢ちゃんに合ってるぞ」
「そうだな。だが俺は、出来れば団長が着ているところを見たかったな」
「セルディスさん、ソウカさんの困った顔が見たいだけしょ?」
「ははっ、バレているか。流石はスレン」
「しかし、このギルドはますます評判になるんじゃないか?」
「美人な二人が受付を担当していると聞いたら、傭兵だけじゃなくても人が訪れるかもしれない」
「そんな、美人なんて……」
スレンが思わず頬を押さえる。
「……セルディス、まさか嬢ちゃんたちを口説いてるのか?」
「そのつもりはなかったが……まあ、そう思ってもらっても構わない」
「やめとけ。お前と嬢ちゃんたちじゃ何歳離れてんだ」
「ブラッツ程じゃ無いだろ」
「俺はまだ三十一だ。まだまだ若いだろ」
「そういやスレンたちはいくつなんだ?団長の歳は前に聞いた覚えはあるが」
「女性にそれを聞くのかよ」
「団長は答えてくれたぞ?」
「そりゃ、前の団長なら歳なんて気にしないだろうが……」
「大丈夫ですよ、ブラッツさん」
「私は二十一歳です。ソウカさんの年齢も聞いて良いですか?」
「私も……同じ歳です」
「そうなんですか!?」
「へぇ、同い年とは。そんな偶然あるもんなんだな」
「……なるほど、それなら困ったことがあるな」
「困ったことですか?」
「ああ」
「スレンとソウカ、どっちが姉でどっちが妹なんだ?」
「!」
セルディスの言葉に、スレンの動きが止まる。
「どっちも団長の妹ってことでいいんじゃないのか?」
「団長の前ならそれでいいだろうな」
「だが、二人の間ならどうする?」
「そんな、私はいままで通りで――」
「……いや、それはだめです!」
突然、スレンが受付に身を乗り出す。
「す、スレンさん?」
「決めましょう、どちらがお姉ちゃんか!」
「いや……私は……」
「ははっ、スレンはこういう時に強引だな。面白くなりそうだ」
「セルディス、お前なぁ……」
「ブラッツ、そろそろ時間だ。俺たちは依頼者に会ってくるから、帰って来るまでに決めておいてくれよ」
「はぁ、悪いな嬢ちゃんたち。あんまり本気にしなくていいからな?」
「いえ、任せてください!必ず決めてみせますから!」
「ははっ、楽しみにしてるぞ」
セルディスが受付を後にすると、ブラッツは呆れた様子でその後をついて行った。
「……」
(大変なことになっちゃった……)
***
「まったくセルディスは……」
「スレンも、ソウカのことを困らせないで」
日が暮れた部屋の中で、三人は顔を合わせていた。
「別にどっちが姉でどっちが妹なんてどうでもいいでしょ?」
「だめです!私もお姉ちゃんって呼んでもらいたいので!」
「……」
「スレン……お姉ちゃん?」
「!」
突然名前を呼ばれ動揺する。
「私はいいですよ?スレンさんがお姉ちゃんでも……」
「その大人の対応……認められません!」
「ええ……どっちがいいのよ……」
「どっちが相応しいか、ここで決め――」
「もう、大人しくして」
「!」
サラカがスレンを抱きしめる。
「あなたたちはあたしの妹。それでいいでしょ?」
「う、うぅ……お姉ちゃん……」
「……」
(スレンさん……ずるい……)
「え?ソウカ?」
サラカの手を掴む。
「……スレンさんの気持ち、分かった気がします」
「え?」
「ずるいです。お姉ちゃんは私のものです。」
サラカの手を引くソウカ。
「ちょっと、ソウカまでやめてよ」
「お姉ちゃんの妹は私」
「だからスレンさんは……私の妹になってください!」
「やる気ですねソウカさん……!それなら勝負です!」
「どっちがお姉ちゃんになるか!」
「はあ……勘弁して……」
二人から手を引かれ、サラカはただ呆れていた。
***
「おや、おはようございます」
「スレン様もソウカ様もお早いですね」
翌朝、食堂を訪れたネファリスは、食事の支度をする二人の姿を目にした。
「おはようネファリス!」
「ネファリスさん、おはようございます」
「ネファリスはゆっくりしてていいよ!朝ごはんの準備は私に任せて!」
「私もお手伝いしますから、ネファリスさんは休んでいて下さい」
「お二人とも、ありがとうございます」
「では少しだけ、自室で体を休めておきます」
ネファリスは小さくお辞儀をすると、食堂を後にする。
「それにしても決まるのかねぇ」
「この声は……」
食堂を出ると、ブラッツたちの話し声が聞こえてきた。
「決まる?何がですかい?」
「嬢ちゃんと団長の妹、どっちが姉なのかって」
「セルディスがあんなこと言うから、嬢ちゃんたち張り切ってるぜ?」
「はは、本当にそうだな。これは面白いことになりそうだ」
「お前なぁ……」
「ガルム、お前はどっちの方が姉っぽい思う?」
「俺ですかい?うーん……」
「俺はやっぱり、ソウカちゃんの方が姉らしいと思いやすね」
「なんだ、お前もそう思うのか」
「兄貴もですかい?」
「ああ」
「団長の妹ってのもあるが、ソウカはスレンよりも落ち着きがある」
「スレンは姉というより、周りの人間を明るくする末っ子って感じだからな」
「姉らしいかと言われれば、少し違うかもしれない」
「嬢ちゃんには悪いがそうかもしれないな」
「だとすると……今頃団長へのアピールが始まってるんじゃないか?」
「面白そうだな。ちょっと様子を見にいくか」
ブラッツたちは立ち上がり、食堂へと向かっていく。
「……」
(スレン様とソウカ様、お二人の中で姉を決める?)
(私には隠して、またスレン様たちだけで……)
――ドクンッ
「!」
(――ほう、面白いではないか)
(アカメ……?)
(――しばらく、体を借りるぞ、ネファリス)
(だめです、今日は仕事が……)
(――うるさい)
「くっ……」
(――仕事なら、私に任せておけ)
(何を……考えて……)
(……あぁ)
ネファリス意識はそのまま落ちていく。
力が抜け、そのまま壁にもたれかかった。
「……」
「――姉を決める、戦いか」
「――私も、楽しませてもらおう」
壁に手をつき立ち上がると、アカメ食堂に向かって歩き始めた。
***
「あ、ネファリス……って」
「アカメ?ネファリスはどうしたの?」
「ネファリスさん、やることがあるって言っていませんでしたか?」
「――言っていたな。このままでは、全て片付かないだろう」
「それなら、どうして出てきたの?」
「――あいつが無理をすれば、私にも負担がかかる」
「――私の身にも、なってみろ。何もしていないのに、一向に疲れが取れない」
「まあ、それは確かに……」
「――そうだろう?だから、困っているのだ」
「――それはもう……」
「――妹の手を、借りたいくらいには」
「!」
「――さて、どこかにいないものか」
「……」
(アカメ、まさか気づいて……)
「分かりましたアカメさん。私がお手伝いしますよ」
「――さすがはソウカだ。サラカに似て、姉らしいな」
「!」
「アカメ、私も手伝うから!」
「掃除でも買い出しでも任せてよ!」
「――スレンも、手伝ってくれるか」
「――それなら、頼むとしようか……ふっ」
「……」
(何を考えてるのか分からないけど、今はアカメの言うことを聞こう)
(ソウカさんに負けないためにも……)
(お姉ちゃんは……私だから!)
***
「アカメさん、こちらの掃除は終わりました」
「――早かったな。助かったぞ」
「王様のところにいた時は、よくお城の掃除をしてましたから」
「まだ一ヶ月も経ってないのに……なんだか懐かしいです」
「――帰りたいと、思うか?」
「……王様には申し訳ないですが、私はここにいたいと思っています」
「ここにはお姉ちゃんがいるし、皆さん私に優しく接してくれるので」
「とても……居心地が良いです」
「――それは、よかったな」
「――やはり……お前の方が、姉らしいか」
「え?」
「アカメ、戻ったよ!」
廊下の先からスレンが走ってくる。
(――先ほどの話、スレンには秘密だ)
(あ……分かりました)
アカメは静かに耳打ちした。
「ソウカさん、随分早いですね……」
「まさか、アカメに手伝ってもらったとか……!」
「――私は何も、していないぞ」
「――ソウカは、優秀だな」
「ううっ、まずい。このままじゃ……」
「三人とも何してるの?」
「!」
背後の声に振り返ると、サラカとティーナが歩いて来ていた。
「お、お姉ちゃんにティーナさん!」
「あれ?ネファリスさん、アカメさんになってますね」
「アカメ、またネファリスを休ませてるの?」
「――そうだ。二人に手伝って、もらっていた」
「――サラカがいるなら、ちょうどいい」
「何か用?」
「――手伝って、欲しい事はないか?」
「――頼れる……妹として、な」
「え?何でアカメが――」
言いかけたサラカに対して、アカメは口の前で人差し指を立てる。
その様子を見ていたティーナは、状況が理解できない様子だった。
「皆さん、何かされてるんですか?」
「――まあ、な」
「――私たちは、邪魔になる。ティーナ、向こうへ行くぞ」
「えっ?」
「――お前にも、教えてやろう」
「あっ、ちょっと!アカメさん押さないで下さい……っ!」
二人の背中を、三人は見送っていた。
「……お姉ちゃん」
「な、なに?」
「私……何でもするから!」
スレンがサラカの手を掴む。
「ええ……そう言われても」
「あっ、いた!サラカさん!」
一人の傭兵が、サラカのもとへ走ってくる。
「取り込み中のところすみません。実はひとつ依頼が来てまして……」
「依頼?」
「実は近くの海域で、海賊が暴れてるみたいなんです」
「商人の船を狙っては略奪を繰り返して……大変なんですよ」
「ガルムはどうしたの?」
「ガルムさんは、昨日船を借りるって言って出かけて行ったよ」
「そうなんです。本来ならガルムさんに頼むはずだったのですが……」
「それなら仕方ないか」
「二人ともごめん。あたしは行ってくる」
「手伝いはまた今度ね」
「分かった、いってらっしゃい」
「……お姉ちゃん、気をつけてね」
サラカは傭兵とともにその場を後にする。
「……」
「スレンさん?」
「……ソウカさん、気付きましたか?」
「え?」
「ソウカさんを見つめるお姉ちゃんの目……」
「私も……あんなふうに見られたいです」
「あんなふう……?」
「……ソウカさんを見る目、すごく優しかったです!」
「やっぱり血の繋がってる妹だから、私なんかじゃ……」
「――それなら、良い方法があるぞ」
「!」
二人の後ろから、二人アカメとティーナが姿を現した。
「スレンさん、私に任せて下さい!」
「ティーナさん?」
「こういう時は、サラカさんにプレゼントを贈ればいいんです!」
「プレゼント……ですか?」
「はい!」
「妹からの贈り物なんて、嬉しくないはずがありません!」
「サラカさんもきっと喜んでくれます!」
「ティーナさん……」
「確かに、それは良い考えですね!」
「――ならば、こうすればいい」
「――サラカがより、喜んだ顔を見せた方が、姉に相応しい」
「つまり……勝負ですね、ソウカさん」
「しょ、勝負なんですか?」
「もちろんです!」
「こ、困ったな……」
「――受付は、ティーナに任せておけ」
「え?ネファリスさんには戻らないんですか?」
「――ああ。最後まで、私が見届けるからな」
「ネファリスさん、寂しがってません?」
「――気にしなくていい」
「――この方が、面白くなるからな」
「……?」
「ティーナさんお願いしますね!」
「私、必ず勝ってみせます!」
そう言うとスレンは、城の外へと走っていった。
「……」
「お姉ちゃんが、喜ぶもの……」
***
スレンの背中を見送った後。
残されたソウカは、一人庭園の椅子に腰掛けていた。
「プレゼントか……」
(お姉ちゃんは、何が好きだったかな……)
あたりを見渡すソウカの目には、庭園に咲いた花が目に入っていた。
「綺麗な花……」
(そういえば私たちの名前って、花の名前から付けられたんだっけ……)
(サラカとソウカ、二人で一つの花として……)
(ずっと一緒に……いられるように……)
思わず表情が曇る。
(だめだめ、今はプレゼントのことを考えてるのに……)
(暗い気持ちになったら、お姉ちゃんは喜んでくれない)
(でも……)
「はぁ……決められないや」
背もたれに体を預け、ソウカは思わず空を見上げた。
「お姉ちゃんが喜んでたものって、何だっけな……」
目を瞑り、サラカと過ごした時間を思い返す。
二人で街へ出かけた日。
二人で綺麗な花を見つけた日。
二人で美味しいものを食べた日。
そして、二人が離れ離れになった日。
「……」
――ソウカさんを見る目、すごく優しかったです!
スレンの言葉が頭をよぎる。
「……お姉ちゃん」
(お姉ちゃんと一緒にいられることが、私にとって……とても嬉しいこと)
(きっと……お姉ちゃんも……)
「……」
(ずるいかな、私)
ゆっくりと立ち上がり、静かに目を開ける。
(でも……これだけは……)
「自分に……嘘をつけない」
***
――その日の夜。
依頼を終えたサラカがギルドへ帰ってくる。
「ちょっと、みんなで押しかけてきて何?」
サラカが部屋を訪れたスレンとソウカ。
そんな二人の背後には、静かに見守るアカメとティーナの姿もあった。
「お姉ちゃんに、受け取って欲しいものがあるの!私とソウカさんから!」
「え?」
「まずは私から!いいですか?ソウカさん」
「……はい」
「ふふっ、驚かないでくださいね!」
自信満々に言うと、スレンは一つの箱を取り出す。
その中には、スレンと同じ髪色の薔薇が入っていた。
「凄い……青い薔薇なんて初めて見た」
目を丸くして驚くサラカ。
「綺麗でしょ?」
「うん。とても綺麗」
「でも、これをあたしに?」
「うん!」
「お姉ちゃんにはいつもお世話になってるから、そのお礼!」
「ありがとうスレン。嬉しい」
そう言うサラカは優しい笑みを浮かべていた。
(ふふっ……これは勝った……!)
スレンは心の中でそう思っていた。
「……お姉ちゃん、私からも受け取って欲しいものがあるの」
そう言うと、ソウカは一歩前に踏み出した。
「私……嬉しかったんだ。お姉ちゃんとまた一緒に暮らせることが」
「だからお姉ちゃんに喜んでもらいたいと思って、色々考えた」
「お姉ちゃんが好きだった花のことも、お母さんが作ってくれたお菓子のことも」
「でも私は……決められなかった」
「だって私にとって、お姉ちゃんといることが一番嬉しいから」
「ソウカ……」
「だからごめんなさい。私、何も用意してないんだ」
「でも……その代わりに、贈るものを決めたの」
ソウカは静かにサラカに歩み寄ると、そのままサラカを抱きしめた。
「二度とお姉ちゃんと離れ離れにならない」
「贈りものは、私じゃだめかな……?」
「!」
ソウカの言葉を聞き、一同が驚愕する。
「――ほう、これは……」
「ソ、ソウカさん?」
「……」
「そう言ってくれて嬉しいよ」
「確かに、ソウカが今ここにいること」
「それがあたしにとって……一番大切かも」
「そっ……」
「スレンさん?」
「その手が……っ!」
膝から崩れ落ちるスレンを横目に、サラカはソウカの頭を撫でていた。
「もちろん、スレンのプレゼントも嬉しかったよ」
「こんなに綺麗な青い薔薇は見たことない。大切に飾らせてもらうわね」
「ううっ……ありがとうお姉ちゃん……」
「――ふっ。面白いものを、見せてもらったぞ」
三人の元へ、アカメがゆっくりと歩み寄ってくる。
「――姉は、ソウカで決まりだな」
「アカメ……やっぱりあんたが黒幕だったのね」
「――まあ、良いではないか」
「――おかげで二人の、意外な一面も見られただろう」
「まあ、それはそうだけどさ」
「やっぱり私は、妹なんですね……薄々気付いてました……」
「だから負けないように頑張ったのに……悔しいです……」
「スレンさん……」
座り込むスレンに、そうかは手を差し伸べる。
「ありがとうございます。良い機会を作ってくださって」
「ですが……勝負は勝負です」
「これからは私のことも、お姉ちゃんって呼んでくださいね?」
「うう……ソウカ、お姉ちゃん……」
スレンは手を取り立ち上がると、そのままソウカのに抱き寄せられる。
「ソ、ソウカさん?」
「お姉ちゃん、だよ?」
「お、お姉ちゃん」
「うん。いい子だね」
スレンの頭を優しく撫でる。
「……私のこと、妹じゃなくて子供扱いしてませんか?」
「してないよ?ふふっ」
「まったくソウカったら……」
「私の知らないところで、こんなことが起こってたなんて」
「アカメさん、教えていただきありがとうございます」
「――なに、気にすることはない」
「――私もただ、聞いた話だったからな」
「――知るものが多ければ、それだけ面白くなるだろう?」
「アカメ、意外とこういうこと好きだよね」
「――こいつのやってることは、面白みが無いからな」
「――共存すること、選んだのはこいつだ」
「――私も少しは、楽しむ権利がある。それに……」
「――面白くなるのは、ここからだ」
「え?」
「――こいつのこと、頼んだぞ」
そう言い残し、アカメが目を瞑る。
「……スレン様」
「え?」
「随分と……お楽しみでしたね」
そこには意識を取り戻したネファリスがたっていた。
「私のことを差し置いて……サラカ様のことをばかり……」
「それに……私一人が蚊帳の外……」
握りしめたその手には、側から見てわかるほどに力がこもっていた。
「ね、ネファリス……?怒ってる……?」
「……いいえ、怒っていません」
「この感情は……以前学びましたので」
そう言うとネファリスは、スレンの方へ歩み寄る。
思わず後ずさるスレンだったが、徐々に部屋の隅へと追い詰められていった。
「……スレン様、なぜ逃げるのですか?」
「に、逃げて無いよ?」
そう言いながらも後ずさるスレンは、いつのまにか壁際まで追い詰められていた。
「……もう逃げられませんよ」
「ね、ネファリス……?なにを……」
「今まで、私のことを放っておいた分です」
「!」
そう言うとネファリス、スレンを抱き抱える。
「ちょ、ちょっと!ネファリス!」
「私と生きてと仰ったのはスレン様です」
「それなのに、スレン様はサラカ様のことばかり……」
「私にも、構ってくださって良いのではありませんか?」
「ネファリス、これは事情があって……!」
「承知しております。アカメに全てを見せていただきましたので」
「ですが……それとこれとは話が別です」
「今夜は離しませんから、覚悟して下さい」
「ご、ごめんってネファリス!謝るから下ろして!」
「だめです」
「そ、そんな……!」
「お、お姉ちゃん!ティーナさん!助けて!!」
三人に手を伸ばすスレン。
「はい、助けて差し上げますよ」
「私も、スレン様のお姉ちゃんですから」
「ち、ちがう!ネファリスじゃない!」
ネファリスはそのまま振り返り、ドアノブに手をかける。
「力強……!?ふり解けない……っ!?」
「みんな、助けて……っ!」
「行きましょう、スレン様」
「ああぁぁっ!!」
ネファリスに抱えられたまま、スレンは部屋を出ていった。
その様子を、三人は呆然と見つめていた。
「……ふふっ」
「まったく……スレンは騒がしいわね」
「うん、ふふっ」
顔を見合わせて二人は笑っていた。
「私、少し様子を見てきますね」
「お二人とも、あとはごゆっくりなさってください」
そう言うとティーナは部屋を出ていった。
「……ふぅ、疲れた」
二人になり、思わずベッドに倒れ込むサラカ。
「お姉ちゃん、お疲れ様」
「ソウカ……びっくりしたよ」
「まさかあなた自身が贈りものだなんて」
「私も考えたんだよ?でも……何も思いつかなかった」
「だからお姉ちゃんと一緒にいたいって……そう思っただけ」
「……ありがと」
「でもソウカ、これから大変になるよ」
「スレンの甘えたがりは凄いんだから」
「うん、見てて分かった」
「でも大丈夫だよ、お姉ちゃん。だって……」
「私はもう、スレンのお姉ちゃんだからね」
どこか誇らしげに、ソウカはそう言うのだった。




