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18章 祈りの雷光

——バンッ


「あああぁぁ……っ!」

右足が撃ち抜かれ、サラカはその場に膝をついた。

「海賊たちから仕入れておいて正解だったな」

「傭兵サラカも、銃には勝てない」

「ネファリス、仕留めろ」

「——かしこ、まりました」

ネファリスが無表情のまま、ゆっくりとサラカへ近づいてくる。

(まずい……血、流し過ぎた……)

歩いてくるネファリスの姿が重なって見える。

剣を支えにし、サラカは震える足で立ち上がった。

「——まだ、動きますか」

「……諦めが悪いんで」

ふらつきながらも、サラカは剣を構え続ける。

二人の剣の応酬は、見事に拮抗していた。

(スレン……まだなの……っ)

「——流石に、限界ですね」

「!」

ネファリスがサラカの左足を狙い、足払いを仕掛ける。

「しまっ……!」

バランスを崩し、サラカはその場に倒れ込む。

倒れながらも、サラカは渾身の力で刃を受け止めていた。

(やばい……)

「——これで、終わりです」

押さえつけられたまま、刃がゆっくりとサラカの顔へ迫る。

(スレン……みんな……っ!)


——ドンッ


「!」

倒れたサラカの背後で勢いよく扉が開く。

「団長!無事か!」

その声とともに、ブラッツたちが突入してくる。

傭兵たちの目に映ったのは、倒れたサラカに斬りかかるネファリスの姿だった。

「ネファリスさん!やめてくださいっ!」

その姿を目にし、ティーナは咄嗟に魔法を構える。

「風よ、弾けろっ!」

「——」

ティーナの魔法が命中する。

その魔法は、ネファリスの体は後方へと吹き飛ばした。

「邪魔が入ったか……!」

アルヴェンはサラカに銃を向ける。

その姿を捉えたガルムは、とっさに銃を構えた。

「やらせねぇ!」

放たれた銃弾は、アルヴェンの銃を正確に撃ち抜く。

銃はアルヴェンの手から弾き飛ばされ、そのまま階下へと転がり落ちた。

「ちっ……あいつが言ってた奴か……」

「お姉ちゃん!」

倒れるサラカに、スレンは駆け寄った。

「スレン……間に合って良かった……」

「お姉ちゃん酷い傷……っ!」

「待ってて、今治すから!」

「——光よ、癒して!」

サラカの体が光に包まれ、肩と足の傷がふさがっていった。

「……ありがとう。助かった……」

「お姉ちゃんは少し休んでて」

「流れた血までは、元に戻せないから」

「そうだ、団長。あとは俺たちに任せておけ」

「——ゲホッゲホッ……」

倒れていたネファリスが咳込みながら立ち上がる。

「——邪魔を……しないで、ください」

「ネファリスさん……また……」

「ティーナさんお願い……ネファリスを元に戻して!」

「……分かりました!」

「雷よ、降り注げ!」

ティーナが雷の魔法を放つ。

「——遅い、です」

向かってくる魔法を、ネファリスは軽々と回避した。

「くっ……避けられますか……!」

「私が動きを止めます!」

「合図を出したら、ティーナさんは魔法を撃ってください!」

そう言うとスレンは短剣を構え、ネファリスの方へ走り出す。

「俺たちは嬢ちゃんを援護だ!」

「周りにいる兵と魔獣を、残らず蹴散らせ!」

「団長にも敵を近づけるな!」

ブラッツの号令とともに、傭兵団は武器を構えた。

「アルヴェン様をお守りしろ!」

「これ以上、奴らの好きにはさせるな!」

——グオォォォォ!

咆哮を上げ、兵と魔獣が一斉に臨戦態勢に入る。


「……ネファリス、勝負だよ」

ぶつかり合う二つの勢力の中央で、スレンとネファリスは対峙する。

短剣を構え、スレンはまっすぐにネファリスを見据えていた。

「——アルヴェン様の、命令」

「——あなたも、排除します」

ネファリスの手に魔力が集まり、禍々しい瘴気が渦を巻く。

その様子を、スレンは注視していた。

(魔法が来るのは、手に魔力が込められた時……)

(その瞬間を狙って……)

(……今っ!)

「——」

スレンは発動の瞬間を見極め、ネファリスの腕に掴みかかる。

魔法が放たれる寸前、ネファリスの腕を強引に魔獣の方へ向けた。

——グギャァァァァ!

魔法は魔獣に命中し、その姿を溶かし始めた。

その光景を目にしたネファリスの中で、記憶の断片がかすかに蘇る。

それは先ほど、サラカのやったこととまったく同じ動作だった。

「——何ですか、今のは」

「ティーナさん!今です!」

ネファリスが動きを止めた隙を、スレンは逃さなかった。

「わかりました!」

「雷よ、降り注げ!」

スレンの合図に合わせて雷が降り注ぐ。

「——!」

魔法が命中する直前、スレンはネファリスの腕を放して跳ね退いた。

「——ああぁあっ……っ!」

雷を浴び、ネファリスはその場に膝をつく。

しかし、その目はまだ赤い光を放っていた。

「——邪魔……しないでください」

「っ……!」

ネファリスは刀を抜き、ティーナに距離を詰めた。

「はああっ!」

身構えるティーナの前にスレンが飛び込む。

両手で短剣を握りしめ、ネファリスの一撃を受け止めた。

「あなたに教わった!この戦い方も、全部!」

「私たちは家族!ネファリス、思い出して!」

「——うる、さい……っ!」

ネファリスが再び魔法を構える。

その瞬間、スレンはネファリスにしがみついた。

「——」

そしてそのまま、ネファリスを地面に押し倒した。

「ティーナさん!このまま私ごとお願いします!」

「スレンさん!?」

「もっと強いのをお願いします!」

「ネファリスが戻るぐらい——強いやつを!!」

「……!分かりました!」

「スレンさん、我慢してくださいね!」

「どでかいのをお見舞いしますから!」

そう言うと、ティーナは足を開いて構え、全身に魔力を集中させた。

「——風を纏え……雷の龍よ」


——ジジジ……バリリリリッ!!


「!」

スレンの背後で轟音が走る。

ティーナの手には、先程とは比べ物にならないほど膨大な魔力が集まっていた。

「はああああっ!」

ティーナの魔法は天井付近まで打ち上がる。


——ビシャァァァン!!ゴロゴロゴロッ!!


放たれた魔法は、うねりながら龍の姿へと変わっていった。

「ちょ、ええっ!?」

あまりの威力に、スレンは思わず目を見張る。

「行きますよスレンさん!全部受け止めてください!」

「雷鳴とともに……かの者たちを飲み込めっ!」


——ギュオォォォォ!!


雷の龍が唸りを上げ、真っすぐスレンたちに降り注ぐ。

「ティーナさん!待っ——」

スレンの静止は間に合わず、雷の龍は二人を飲み込む。

降り注いだ雷は周囲に広がり、魔獣たちをまとめて吹き飛ばした。

「あああああああっ!!」

スレンの叫び声が玉座の間に響く。

「……」

「……」

(ティーナ……やりすぎ……)

サラカを含め、その光景を目にした兵と傭兵団は、ただただ言葉を失っていた。


***


「……」

「……ン様」

「うっ……んん……」

「……スレン様、起きてください」

「ううん……」

「!」

スレンが目を開けると、そこには灰色の目をしたネファリスが座っていた。

「ネファリス……?」

「良かった!元に戻ったんだ!」

「……って、ここは?」

スレンは辺りを見渡したが、二人がいたのは一面真っ白な世界だった。

「分かりません」

「最後に覚えているのは、ティーナ様の魔法に飲み込まれたところです」

「もしかして……死んじゃったの……?」

「……それも分かりません」

「そ、そんな……」

スレンは俯き、悲しそうな顔を見せた。

「……」

「……ねえ、ネファリス。一つだけ聞いてもいい?」

「はい、なんでしょうか?」

「……」

「私のこと……好き?」

「好き……?スレン様のことが……でしょうか?」

突然の問いかけに、ネファリスは驚いた表情を見せた。

「あっ、いや……突然で驚いたよね」

「でも、もし死んじゃったのならさ……」

「こういうこと、もう聞けないから」

「スレン様……」

「私は……好き、という感情が分かりません」

「というより……感情そのものが、あまり理解できないんです」

「え……?感情が分からない?」

「……はい」

「元々、私にも感情はあったはずなのです」

「もう一つの人格が生まれてからです」

「感情が、分からなくなったのは……」

「……」

(そっか……それであんなこと言ってたんだ)


——安心していただければ、私は嬉しいと思います。

——少しだけ、分かったような気がします。


(……でも、違う)

「ネファリスは違うよ」

「え……?」

「ネファリスは、ちゃんと感情を分かってる」

「でなきゃ、お姉ちゃんを助けるために、あんなに危険なことはしないでしょ」

「……分かっているのでしょうか」

「突然で難しかったかもしれないから、言い方を変えるね」

「私と一緒に、いたい?」

「スレン様と……一緒に……」

スレンの問いに、ネファリスは少し考える。

やがて、その灰色の瞳には小さな光が宿った。

「……はい。おそばにいたいです」

「そっか……良かった」

ネファリスの返事を聞いたスレンは、ぎゅっとネファリスを抱きしめた。

「スレン様……?」

「私はネファリスが好き」

「優しくて、私のことをいつも気にかけてくれて……」

「お姉ちゃんって言ったけど、まるでお母様みたい」

「私が……スレン様のお母様ですか?」

「うん」

「お母様は優しくて、魔法でたくさんの人を助けてきたの」

「それに、最期まで……ずっと私のことを見守ってくれてた」

「勉強しているときも、眠っているときも」

「そんなお母様に……ネファリスは似ているの」

「だからお願い」

「私と、ずっと一緒にいてほしい」

「お姉ちゃんの命令だけじゃなくて、ネファリス自身の意思で……」

「私のそばに、いてくれないかな?」

「スレン様……」

「不思議な感覚です」

「これが……好き、という感情なのでしょうか?」

「うん。きっとそうだよ」

「……ネファリス」

「これからも、ずっと大好きだよ」

「……はい」

「私も……スレン様が大好きです」

「えへへ……嬉しい」

スレンが笑うと、ネファリスも少しだけ笑みを浮かべる。

二人の会話を見届けるかのように、あたりは優しい光に包まれていった。

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