第06話 青い湖の秘密
野盗たちは、景気よく爆散。辺りには、びちゃびちゃと、かつて野盗だった物が降り注いでいる。
突然の事に村人はポカンとしている。
すぅーーー
私の中で張り詰めていた物が一気に解け、何かが抜け出ていくような感覚に襲われた。
また頭はフワフワっとしたかんじになった。
ーす
そして空いたところにちょっと何かが入り込んだような?
まぁいいや。
悪いヤツを、やっつけれて嬉しかったんだけど...でもね、こんなにめちゃくちゃにしちゃって、どうしよう...。
これ、なかったことにした方がいいのかな?
わたしがやったって言っても、なんか変な感じになっちゃうよね?
えーっと...つまりね、わたしはここで「知らない〜、わからない〜、何も見てませんでした〜」って事にしよう。そうしましょったら、そうしましょ。
わたしは一回深呼吸して、それからお顔を、びっくりしたお顔にして、村の人たちに向かって言ったの。
「みんな見た!? 見た!?見ました!?こわいね! 私、ぼく、何もしてないけどね。こわいね!こわいですね!」
村の人たちの目がなんだか冷たくなった気がした。でもね、上手にごまかせたと思うの。だけど...お母さんの目もちょっと怖いかも。
◇◇◇◇
そして数日後、国からの調査官が重厚な装備に身を包み、厳めしい面持ちで村を訪れた。調査官は村人から聞き込みを行い、現場を何度も視察した後、眉をひそめながら呟いた。
「4つ星級の魔人が、こんな村で討伐されるなんて信じられない。上級武士が10人居ても勝てるかどうかだ。一体何が起きたというのだ」
彼はその後も疑わしげな目で村人たち、特に私の方を幾度となく見やったが、数日で立ち去っていった。
やがて、村には少しずつ笑い声が戻り、普段の活気を取り戻していった。傷跡は残っていたものの、次第に村は野盗襲来前の平穏な日常を取り戻していった。
◇◇◇◇
夏の暑さも幾分和らいだある日、私は幼馴染のスケトキと共に、とんでもない体験をすることになった。
きっかけは、村の長老の信じられない話だった。
「近くの湖に住む伝説の巨大魚を、わしは確かに見たことがあるのじゃ……」
長老の目が遠くを見つめながら、古代魔法時代から生きているという巨大魚の話を聞かせてくれた。最近では誰もその姿を見たことがないが、長老は子供の頃、実際に自分の目でその魚を見たことがあると言うのだ。
「本当かな?」話を一緒に聞いていたスケトキは疑わしげに首を傾げた。
「きっと本当よ!よし、明日一緒にそれを釣りに行くわよ!」
「なんでそんな話になるの!?べ…別にいいけど」
なぜか彼の顔が真っ赤になっている。でも、どこかうれしそうだ。
私は、紅のカチューシャを乗せた金色の髪を揺らしながら、ワクワクした気分で宣言した。
「じゃあ決まり!最強の釣り道具を作るわ!」
その日、私は夜まで釣り道具作りに没頭した。長老から一番大きな釣り針を貰い、普段の川釣り用の糸を何本も編み込んで、どんな巨大魚でも引けそうな釣り糸を作った。森では、「これだ!」と直感で分かる完璧な枝を発見。そして、なぜか作り方が頭に浮かんできて、見たこともない大物用の糸巻き装置を完成させた。
眠る前に完成した釣り道具を見つめ、ニンマリしながら明日の釣りに思いを馳せた。
そういえば、あいつが一緒に来てくれるって言った時、なんだかとても嬉しそうだった。きっと大物釣りが大好きなのね。
翌朝、私は太陽より早く起きて準備を整えた。川で餌も集めておいた。
そして二人で湖に向かった。
◇◇◇◇
「今日は絶対釣れる気がする!」
私は笑顔で竿を振り回しながら言った。わざと彼のほうに竿を倒すたびに、まるで忍者のような変なポーズでよけているのが面白い。
「そうかもしれないね」それでも彼は穏やかに微笑み、私の竿振りを警戒しつつ、「でもまあ、魚は気まぐれだから、肩の力を抜いて楽しもう」と言った。
私たちは村から少し離れた静かな湖のほとりに到着した。湖は鏡のように澄み、周囲の木々が水面に映り込んでいる。辺りには穏やかな風が吹き、まるで魔法の国のような美しさだった。
適当な場所に荷物を降ろすと、いよいよ釣り開始!
私は竿を振りかぶり、仕掛けを湖に投げ込む。
シュルシュルシュル!タポン!
仕掛けは湖の中央付近で着水した。最近物を投げることが、すごく得意になったのだ。
「なんか、その竿すごくない?」
彼は目を白黒させている。
それから10分程経ったが何の反応もない。風はそよそよと吹き、穏やかな時間が流れる。でも、なんだか、あいつの視線を感じるのよね。振り返ると、彼は慌てたように湖の方を向く。変なの。
「こんな日は歌いたくなるわね!」
「いいんじゃない」彼は爽やかに笑い「でも、大声で歌うと魚たちが逃げるかもしれないよ。僕は喜んで聴かせてもらうけど」
意外と音楽が好きなのかしら?
私は流行の歌の旋律に乗せて即興で言葉を綴り歌い始めた。歌声が湖面に響き渡るのを感じる。
「青い湖の底に 眠る秘密を そっと教えて
風に揺れる水面 きらめく宝石 私に微笑みかけて」
私は歌うことに夢中になり、声は次第に大きくなった。
「深い深い湖の底 伝説の魚は 今日も踊ってる
千年の愛を込めて その心を 届けてくれたなら」
クン!
その時、釣り糸が急に引っ張られた。手には強烈な衝撃が伝わる。
「釣れた!」
私は興奮して思わず叫んだ。
それは普通の引きではなかった。竿が折れそうなほど激しく曲がり、腕を前に引っ張られる力に私は踏ん張り抵抗を試みた。まるで綱引きをしているみたい!
「助けて!大きいわ!これ」
スケトキは慌てて駆け寄り、私の背後から両手を伸ばして竿を一緒に握った。
彼の体温が背中に伝わって、彼の腕が私の腕に重なって、なぜだろう?胸がドキドキする。息が耳の近くで聞こえて……
って、だめだめ、釣りに集中!
私たちは左右に引かれる竿と必死に格闘した。
「糸を引いたり緩めたりして!疲れさせるんだ!」
私は糸を少し緩め、魚が突進する力を逃がした後、竿を立て、徐々に糸を引き込んだ。そしてまた引きが強まると、今度は竿を下げ糸を出す。
しばらくそれを繰り返すと魚は少し疲れたのか、一瞬動きが止まった。その隙に私たちは息を合わせて竿を引き上げた。
手はすっかり疲れ、しびれていた。まるで岩を持ち上げているみたい!
「来るよ!」
彼が叫んだ。
突然、水面から跳ねるしぶきと共に、魚は方向を変えて岸に向かって猛烈に泳ぎだした。私たちは慌てて竿を立てて、糸にたるみを作らないようにした。
私の腕は鉛のように重く、両手は震えていた。汗が目に染みて視界が滲む中、突然、湖面に異様な波紋が広がる。
そして、ついに姿を現したその魚は……信じられなかった!
体長は二メートルはあろうかという大きさで、深い紅と白が混ざったような神秘的な色をしていた。そして、よく見ると、その鱗はうっすらと青白く発光していた。
まるで生きた宝石のよう!
「何、あれ...!まるで」
「伝説の魚よ!本当にいたのね!」
私たちが見つめる中、魚は激しい抵抗を試みた。その尾びれが水面に打ち付けられると、一気に引きが強まる。水面には小さな渦が生まれ、波が私たちの方向へと迫ってきた。
私は体を反らせ、最後の力を振り絞って糸を引き寄せようとした。でも、バランスを崩しそうになって……
「危ない!」
彼が私の腰に腕を回して支えてくれた。
しかし、その瞬間、魚の尾びれは激しく振られ、それは水面から飛び出した。
私の中で、時間がゆっくりとなり、巨大な魚は空中で一瞬止まった。太陽の光を浴びた、その体の表面には、刻まれたような奇妙な文様が浮かび上がっていた。まるで古代の魔法文字のよう!
そして、釣り糸が張り詰めた後、ビシッ!と乾いた音を立てて針が外れた。私はバランスを崩し、彼と一緒に後ろに倒れこんだ。
私たちは息を荒げながら、至近距離で見つめ合った。
「あ、あの……シャンソン……」
「え? あ! ごめんなさい!重かったよね!」
私は慌てて起き上がった。
しばらくの後、魚は再び水面に姿を現し、まるで私たちを観察するかのように動きを止めた。そして、
魚が何か音を発した後、挨拶をするかのように尾びれを左右に振ると、すぅっと湖の深みへと消えていった。
私たちは湖のほとりに座り込み、起きたことを信じられず互いの顔を見合わせていた。
「あれは...本当に伝説の魚だったの?」
私は肩で息をしながら言うと、彼は静かに頷いた。
「きっとそうだよ。すごかった」そう言うと優しく微笑んだ。
私は悔しさと興奮が入り混じった気持ちで湖面を見つめていたが、ふと手元の釣り針に目をやった。針には見たことのない大きさのウロコが一枚引っかかっている。それは普通の魚の鱗よりかなり大きく、紅と白が混ざり合い、光の当たり方によって七色に輝くように見えた。触れてみると、驚くほど滑らかだった。
「これ!見て!凄くきれいだよ!」
私が鱗を渡すと、彼は目を丸くした。
「こんなウロコ、見たことない…」感激した様子だった。
彼は微笑んで、ウロコを私の手のひらに戻した。
「これは、きみが持ってて。一番頑張ってたから」
「うん!ありがとう!一生の宝物にするわ!」
私はそっと懐に忍ばせた。
「楽しかった!もう一度釣れるかな?」
「すごく楽しかったね。でも、そろそろ帰ろうか。君もちょっと疲れてるみたいだし」
確かにかなり疲れた。腕なんてパンパンだ。
私たちはウロコ以外の釣果なしで村への道を歩き始めた。時々振り返り、静かになった湖を見つめる。そして、懐に手を入れ、ウロコの存在を確かめた。それは私の体温で温かくなり、かすかに脈打つような不思議な感覚がある。手に触れる度に何か優しい力が私の中に流れ込んでくるような感じがするのだ。
「また来るね」私は小さく呟いた。「そして、もっと素敵な歌を歌うから!」
風が優しく私の頬を撫で、まるで湖が応えたかのようだった。
そういえば明日は、あの父さんが村に戻ってくる日だ。私は、歩を速めた。
彼も歩調を合わせてくれた。私は、にっこり笑いかける。