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第05話 月の裁きを受けなさい

 かーてんが ぜーんぶ あいたら……わたし、まえにいた ところに 立ってた。


 頭がフワフワします。まるで、お昼寝から急におこされた時みたい。

 でも、ムネがドキドキと、たいこのように鳴り響いて、手のひらにはあせびっしょり。


 うぅ、なにがおこったかよくわからないな。

 あれ?さっき、ぜったい……たしかに、わたしは……ころされたよね?


 そして、こんな、おはなしが聞こえてきます。


「それより、お前、覚えてるか? 前の村で小屋に隠れてた連中。火をかけたら、すげえ勢いで叫んでたな」

「あぁ、村長も往生際が悪かったな…」


 この声……聞いたことがある。いや、聞いたことがあるなんてものじゃない。つい、さっき聞いたばっかりだよ。

 わたしは、ゆっくりと周りを見回しました。おんなじ場所。おんなじ会話。

 でも、どうして? どうして、わたしはここにいるの? さっき、わたしは……わたしは……。

 あの時のことを思い出すと、体中がぶるぶると震えてしまいます。

 あのすごい痛み、息ができなくなる恐ろしさ。

 わたしは死んだ。

 でも、確かに何かが起こった。何か、とてもヘンテコなことが。

 アタマが、まるでどうにかしちゃったみたい。

 アタマが、グルグルする。


――私は殺されたけど、生き返った??


 まさか……まさか、そんな。

 ちょっと、信じられません。そんなこと。


 そう考えながら、髪に触れた手に、何か感触がありました。

 不思議な塔で見つけたこの素敵なカチューシャ。

 きっと、これが、このヘンテコのもとかな?


 でも、それなら……これは、チャンス?

 それとも、もっと恐ろしい何かの始まり?

 そして、さっき確かに聞こえました。「本番を開始します」って。

 まるで、お芝居が始まる時みたいな、そんな声が。


――じゃあ、本番でしっぱいしたら、もう次はナシなの?


 わたしは、震える手で髪留めを確かめながら、再び聞こえてくる男たちの声に耳を澄ませました。


「さて、次の村はどうだ? 噂のブドウ酒は潤沢か?楽に楽しめそうか?」

「問題ねえ。どのみち、抵抗する奴は容赦しねえさ」


 また、同じ会話。やっぱり前と一緒です。

 すごく怖いです。恐ろしい。


 でもせっかくのやり直しのチャンス…?だったら絶対に、ムダにしちゃダメだよね


 私は、深く深呼吸し、わたしシャキッとしろ!!と念じました。


 すると、フワフワしてたのがなくなって、頭がシャキーン! そうして私は、理路整然と考えを組み立てられるようになった。


 私は、前回の戦いの記憶を総動員し、勝機の芽を探す。首領の能力。野盗の動き。剣を振る動作。反応速度。発された言葉。私がどう行動し、それがどんな結果を生んだか。それに私の知る様々な英雄譚。


 それらを咀嚼し、答えに近づけていく。


――首領の放った大技とその弱点は何か?

――首領の反応速度を超え、投てき技を届かせる方策はないか?


 そのすべてを考え抜き、組み合わせ、やがて一つの結論に至った。

 私は確信する。勝機は、ここにある。そして、今度こそ勝たねばならない。


 あいつらが、母に、姉に、そして村の人たちに行った悪逆非道。許すわけにはいかない。


 私は、ゆっくりと天を仰ぐ。

紅い三日月が、雲間から顔を出し、光を投げかけていた。

その輝きを見つめるうちに、ある言葉が脳裏に浮かぶ。


 数年前、この島国に押し寄せた大陸の帝国の大船団。その海戦で、彼らに立ち向かった英雄的な女水兵がいた。

 命を懸け闇を払った、風変わりな彼女が発したとされる誇り高き宣告。

 その言葉を、私は紅い月の下、静かに呟く。


「月の裁きを受けなさい」


私の口から、その言葉が漏れた瞬間、三日月の輝きが増したように感じた。




◇◇◇◇



「うわっ!」という悲鳴と共に野盗の一人が足を滑らせ谷底へ転落。

 それにより生じた混乱に乗じ、村人たちが野盗たちに襲い掛かる。


「家族のために!村のために!」老農夫が叫び攻撃は激しさを増す。


 高台からは火炎壺が投げられ、野盗たちの退路を炎の壁で塞ぐ。野盗たちは足場の悪さに苦しみ、村人たちの間に勝利の予感が広がる。


 戦いは前回と全く一緒の流れだ。


「貴様らッ!」


 あの首領が怒号を発し、鞘から禍々しい黒い剣が抜かれる。


「この程度の小細工で俺たちを止められると思うなよ!」


 首領の怒号と共に、剣が振るわれた。鋭い閃光が走り、先ほどの老農夫が吹き飛ばされる。その威力に村人たちは息を呑み、動きが止まる。


――あの人を救う道筋は描けなかった。ごめんなさい。


 次に剣を振るうと、霧のようなものが渦巻き壁を作り、壺を跳ね飛ばす。


 首領の目が一瞬、私の方を向き、その赤く光る瞳と目が合う。


――やはり、あれは人間ではない。


 次の瞬間、首領の持つ黒い剣の鞘に嵌った4つの宝玉が青白い燐光を帯び、剣は不気味に脈打ち始めた。

 首領が剣を振り上げると、空気が震え、周囲の光が剣に吸い込まれるように闇が濃くなる。

 村人に動揺が走り距離を取る。

 そして彼は、真顔から悪鬼のような形相となり。続いてブルりと身震いすると、なんとも不気味な笑顔となった。


「がはは、あはは、うふふふふ……あぁ、力が満ちる!

そして、なんとまあ これはこれは……美しき光景だ。

はい!緊急で動画を回しておき…」


 その長セリフを言い切る前に、私は渾身の力で石を投げつけた。

 あの地面を伝う雷光のような技には、開始から発動までにずいぶん長い時間がかかっていた。

 この訳の分からない長い恫喝には、その時間を埋める効果があった。

 そして、前回一つの技の発動中に、二つ目の技を同時に行使する事はなかった。


「遅い、遅いわ、遅いね!」


 首領は前回、私を焼いた光の技ではなく、普通に剣を振り石を弾きにかかった。目論見通りだ。

首領が剣を振り切ると私の投げた石はあっさり砕け散ってしまう。


 しかし、その次があった。


 石の後ろに隠れるように投げた、魔石ロウソクが首領の眼前に迫る。

それには、回転が加えられており、常に先端のクズ魔石が首領の側を向いている。

──ライフリング。投げる時、そんな言葉と明確なイメージが、不意に頭に浮かんだのだ。


「貴様、あなた、おまっ…」


 そして、魔石ロウソクは、剣を振り切った後で、身動きが取れない首領の右目を貫通、頭の内部への侵入を果たす。強い衝撃を受けたクズ魔石は臨界点に達し、眩い光が首領の頭部から漏れ出す。


「パーン!」甲高い破裂音と共に、その半分が吹き飛ぶ。


 続いて、技の発動中に制御を失った宝玉から、「ウォーーーーーン!」不協和音が響き渡る。

 宝玉の表面に亀裂が走り、そこから漆黒の霧のような物が漏れ出し始め、束縛を解かれた魔力が猛烈な速さで渦巻き、その波動が大気を揺るがす。


「逃げろ!」誰かが叫んだが、既に遅かった。


 宝玉が完全に暴走し、爆発的なエネルギーの奔流が四方へと解き放たれた。周囲にいた野盗たちは逃げる間もなく、その爆発に飲み込まれていく。彼らは発した悲鳴と共に轟音に包まれ爆散した。

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