8話 初めてのお友達。
人の頭撫でるの久しぶりだな。
いや、そんな事ないか。南夏はまだ撫でるし、修介は撫でるというか小突く。
奈々緒は…まぁ、いっか。
つーか、頭小せぇ。髪もサラサラ…。
「あの、鼓…」
「なに?」
「なぜ私は頭を撫でられているのでしょう」
「あっ、嫌だった」
「嫌ではありませんが…その…」
なでなでなでなで
山城は困ったように俯いて、でも俺の手を振り払おうとはしない。
…全く。
「無理して笑うなよ。心配になるだろ」
ポンと一押しして山城の頭から手を離す。
「……やっぱり、鼓はお兄さんですね」
山城はクスリと笑った。ごく自然に。
「あれ、俺言ったけ?」
兄弟いるとは言ったけど。
「わかりますよ、それくらい」
山城の背筋はいつの間にかピンと伸び、顔は真っ直ぐ前を向いていた。
…ああ、いつもの山城だ。
「鼓君は甘い物大丈夫?」
宮下さんはお盆に紅茶とケーキを載せて戻ってきた。
「大丈夫ですよ」
「宮下さん、そういうのは最初に聞くべきですよ」
「そうだけど、顔的に甘党かなって」
甘党の顔ってどんなんだろう。…あっ、俺か。
「このケーキうまい」
出されたショートケーキは甘過ぎず、品のある甘さで。そこら辺のスーパーで売ってるのとは全然違った。
土産に買ってこうかな。
「良かったですね、梢ちゃん」
「え?」
「そのケーキ、梢ちゃんの手作りなんですよ」
「…あの、今日久しぶりに…その、両親と会えるから…もちろん、鼓の事も忘れてませんよ!」
久しぶりに親に会えるって…俺の家は毎日いるからな…。よくわかんねぇけど。
「そんなに多忙なのに、家に来いなんて…むしろ俺、迷惑だった?」
「そんな事は無いです。全く!」
「だって、梢ちゃんの初めてのお友達ですから」
お手伝いさんと紹介された宮下さんは山城の隣に座って一緒にケーキを食べている。
山城も特に何も言わないし、俺が言うことでもない。
「?あっ、初めての男友達だから珍しがって…て事?」
山城の代わりに宮下さんが答えた。
「いいえ、初めてのお友達です」
「え?」
「言葉の通りですよ」
「いや、そんな訳ないでしょ」
いくらなんでも、小学生からこの性格じゃなかっただろうし。
「梢ちゃんは凡人が近づく事ができないくらいの特上クラスの子です。その美しさ故に妬まれ、グループから爪弾きにされたり、虐められたり…」
「鼓、宮下さんの話を鵜呑みにしないで下さい」
「えっ、嘘なの」
「妬まれてたのは事実ですが、虐められてませんし、私の不注意が招いた事です」
う〜ん。なんで山城はこんなに頑ななんだろう。
最初からそうだったけど。
「梢ちゃんに友達ができたって聞いておじさんとおばさん喜んでたよ。仕事休んでまで会いたがってたし」
「俺を見極めるとかは…」
「あっ、それは私」
宮下さんか!
「結局、帰ってきませんでした」
「また来るよ」
「えっ」
「友達なんだから、家くらい行くだろ普通」
「鼓にそこまでお世話になる理由はありません。今回約束を破ったのは私の両親ですし」
激しいデジャブだ。前もこんなやりとりしたぞ。
「梢ちゃん、そこは可愛くありがとうでしょ」
「宮下さん、意外と話わかりますね」
「どれだけ、梢ちゃんと一緒にいると思ってるのよ」
それは知らない。
「あの…」
一人置いてきぼりな山城。訳がわからないと顔に書いてある。
頑なで甘える事を知らない。
甘えるなんて小学生の南夏でも知ってる事なのに。
「つまり、気にするな。友達だろ俺ら」
山城から友達宣言したくせに。
「梢ちゃんは、はっきり言葉にしないとわかりませんからね。私、紅茶のおかわり淹れてきますね」
「鼓」
「ん?」
「…あっありがとうございます」
「うん」
少しは伝わった…かな。
宮下さんの見極め(?)も終わり、俺は山城宅を後にしようとしてた。
「はい、鼓君」
「なんですか」
玄関先で宮下さんから白い箱を渡された。
「お土産だよ。梢ちゃんの手作りケーキ。6個で良かったよね」
「なんで…」
「四人兄弟じゃなかった?」
「そうですけど、なんで知ってるんですか」
「えっ、顔的に」
エスパーか、この人。
「ふふっ、全く梢ちゃんは」
「どうしたんですか」
「私に最初に確認しろって言ったのに、自分は確認せずにケーキ作ってるんだもの。もし、鼓君が甘い物ダメだったらどうするつもりだったのかしら」
「でも、ケーキは両親の為じゃ」
「お土産の分まで焼いて?」
俺に問われても困るんだけど。
「鼓君も梢ちゃんと一緒ね」
「はっ?」
「ハッキリ言わないとわからない」
「いや、山城ほどじゃないと思います」
山城が玄関へやって来た。
「鼓、お待たせしました」
「山城に送ってもらうのも何か間違ってる気がするんだが」
なぜか山城は俺を送っていく気満々だ。普通は逆だろ。
「大丈夫です。ちゃんと警棒を持っていますから」
山城、そんな活き活きと言う台詞じゃない。
「だから、普通に防犯ベルを…」
いつか、宮下さんから見た梢ちゃんを書いてやる!