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7話 お嬢様とロングスカート


 友達宣言後、俺は山城に呼び出された。


 場所は人気の無い校舎裏。普通の男なら告白か!なんてテンションを上げるだろうが、俺は上がらない。

 だって相手は山城だぞ。

 頑固で、正しいが口癖で、男の下心に嫌悪を抱く山城だ。

 

 そんな山城が告白なんてする訳がない。


「あの、鼓。お願いがあるのですが」

 ほら、やっぱり違った。

「なに?」




「今週の日曜日、私の家に来てくれませんか」




「えっ!」


 告白をすっ飛ばして、いきなり家!


「迷惑ですか?」

「いやっ」

 落ち着け、相手は山城だ。そうだよ、きっと家の電球が切れて困ってるんだ。ああいう時男手があるといいって母さんが言ってた。


「鼓?」

「んっ、電球を変えるんだったな」

「なぜです?」

 …違うのか。よし、わからないなら素直に聞こう。


「山城、なんで俺は山城の家に行くんだ?」

「父と母に友達ができたと話したら是非連れてきなさいと」

 小学生じゃあるまいし…。つーか親の言葉通り誘う山城もどうかと思うけど。

「それと、私に釣り合う人かどうか見極めると言っていました」

 本音はそっちか!そうだよな友達とはいえ、親からしてみれば悪い虫だ。


「あの、それは絶対に行かないとダメか」

 山城は困ったように首を傾げる。

「邪魔者ですか?」

 誰が!


 結局、俺は日曜日山城の家に行くことになった。


 日曜日、俺達は駅で待ち合わせた。

「鼓っ」

 山城は待ち合わせの五分前に来た。

 流石「正しい」が口癖なだけある。五分前行動が身体に染みついている感じだ。

 ちなみに俺は電車の都合上、十分前に着いていたけど。

「もしかして待ちました?」

「いや、今来たとこ」

 おっ、なんかデートっぽい。

 山城の服もいつものYシャツに無地のロングスカートのスタイルではなく、白いパーカーにロングワンピースで比較的カジュアルだ。


「そうですか。では行きましょう」

 俺達は並んで歩き出した。

 

 山城が歩くたびにヒラヒラとスカートが動く。

「山城っていつも長いスカート履いてるよな」

 今着てるワンピースも余裕で膝が隠れている。

「鼓は足フェチですか」

 俺を勝手に足フェチにするな。

「いや、単純に暑くないのか?」

 今日は晴れているが、梅雨のジメジメとした暑さは健在だ。


「いえ、見た目より暑くありませんよ。それにロングスカートでないといけないんです」

「なんで?」

「今日は鼓がいるので、持ってきていませんが。辞書が無い時や外に出かける時に足に警棒を隠しています。ロングスカートでなければ隠せません」

「いや、なんで警棒を隠すの」

「えっ、正当防衛は罪にならないと母が言っていました」

 どんなけ危険にさらされてるんだ山城。

 ナンパも命がけだな。


「やはり、ここは警棒ではなくスタンガンが正しいでしょうか」

「まず、防犯ベルを持て」

 そんな会話をしている内に山城の家に着いた。


 家というか、そこはマンションで…。しかも高級感漂う立派なマンションに俺は正直ビビった。

 そんな俺をよそに山城はポチポチとオートロックを解除し、なんか指を押し当てている。

 あれが、指紋認証って奴か。スゲー、ハイテク。

 

 ピーという音と共にエントランスのドアが開き、エレベーターに乗る山城の後に付いていった。

 着いた先はマンションの最上階。


「ただいまー」

「お邪魔します」

「おかえりなさい、梢さん」

 出迎えてくれたのは、エプロン姿のお姉さん。

 山城の母親にしては…若すぎる。

「鼓、お手伝いさんの宮下さんです」

「あの、友達の鼓秀平です」


「鼓さん、合格です」

 何が…。

「背も梢さんより高く、顔も上の中くらいで中々なイケメン。加えて、この家に来る根性。いいです。梢さんに相応しいですわ」

 お手伝いさんの宮下さんとそんなやりとりを終え、俺達はリビングのソファーでくつろぐ。


「鼓、宮下さんの事は気にしないで下さい。悪気はないですから」

「そっか」

「宮下さん、父と母は?帰ってきてませんが」

「先ほど連絡がありまして、帰って来られないようです」

「そうですか」

「今、お茶を淹れてきますね」

 宮下さんがキッチンへ行き、リビングに二人取り残される。


「なんか意外だな」

 俺は向かい側に座っている山城を見た。

「宮下さんですか」

「まぁ、それもそうだけど。山城なら約束を破るなんて正しくありませんとか言うのかと思って。俺は気が楽になったからいいけど」

「確かに約束を破るのはいけませんが、世の中には約束よりも優先しなければいけない事が山のようにありますから」


 ふと下がる山城の目線。いつもピシッと伸びた背筋が少しだけ丸くなっている気がする。

 なんだか、山城らしくない。


「そんなに忙しいのか」

「ええ、人命と正義を放りだしてまで約束を守れなんて私には言えません」

 下がっていた目線が俺を捉える。

「ああ、私の父は医師で母は検事です。だから多忙なんです」

 そう言って、山城は笑った。


 …なんだろう。


 きっと山城が強がりだから……


 無意識の内に手が伸び、ポンと山城の頭に置く。


「鼓?」


 ほっとけなくなる。




意味なくお宅訪問。地味に宮下さんが好き。

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