6話 一言で言うと…。
「俺らってどんな関係?」
俺の前に山城がいる。
講義後。
偶然にも図書館で山城を見つけ、俺から声をかけた。
「山城」
「鼓、良いところへ来ました」
山城は脇に辞書を抱え、両手で本の山を運んでいた。
見覚えのある光景。
「まさかそれ…」
「三善教授ではありませんよ。今日、司書さんが一人お休みなので、手伝っていたんです」
「そうか。また辞書が落ちそうなのか?」
「その通りです。なので、少し持って下さい」
俺は本の山を受け取り、山城は広辞林を抱え直す。
広辞林って…。また分厚い辞書だな。
「ありがとうございます。では」
山城は当然のように両手を差し出す。
…山城は「手伝って下さい」とは言わないんだよな。
山城が一言「手伝って」と言えば、どれだけの男が群がってくるだろう。こんな雑務、簡単に誰かが代わってくれる。
多分、山城もその事に気づいてる。わかっていて利用しない。
なんで?
…正しくないから?
「鼓?」
「…手伝ってやるよ」
「えっ」
「どうせ、まだあるんだろ」
「そうですけど、鼓に手伝ってもらう理由がありません」
「また辞書が落ちたらどうする」
「……」
山城は脇に挟んだ広辞林を両腕に乗せた。
「これで、問題ありません」
どうやらそこに本を乗せろという事らしい。
誇らしげに笑う山城には悪いが俺はため息をついた。
「そういう事じゃなくて、俺が手伝いたいの」
「なぜですか?意味がわかりません」
俺としてはそこまで融通が利かない山城の方が意味わかんないけど。
「鼓が手伝っても、メリットは何もありませんよ」
「メリット?」
「はい、人は必ず理由があって行動します。私に近づきたい、一言話したい…三善教授が良い例でしょう。その人達にはそういうメリットがあって行動するのです。けれど鼓が私を手伝っても、何もありませんよ?」
山城が言いたいこともわかるけど…。
「あのさ、山城はどうして司書さんの仕事を手伝ってるの」
「それは一人で大変そうだったので」
「俺もそうなんだけど」
「え?」
なんでそこで驚く。
「そうだ、ちょっと聞きたいんだけど。俺らってどんな関係?」
ここで友達と言ってくれれば、まだ言いようがある。
けど…ただの知り合いと言われたら…。
「えっと…友人?じゃないでしょうか」
「友人」
「違います。友人?です」
「はぁ?」
「ですから、友達と言うほど親しくありませんし、知り合いという程離れてはいません。なので友達より少し堅い言い方で疑問系のような関係だと思います。ですから友人?…です」
俺にはわからないようでわかった。
「友人?ね」
「友人?です」
「じゃあ、友人?として山城が大変そうなので手伝いたいんですが」
「私は大変ではありません」
「そこは素直にお願いしますだろ」
「そんなことっ」
「いいんだよ。俺が手伝いたいだけなんだから」
「しかし!」
「それに二人の方が効率的だろ」
なんで手伝うだけでこんなに手間がかかるんだ。普通説得いらないし。
「…後悔しても知りませんからね」
山城は俺を図書館のカウンターまで連れて行った。
「これ全部か?」
「全部です」
そこにはダンボール二つ分くらいの本の山があった。
「後悔したでしょ。今ならまださっきの言葉取り消せます」
これが断る理由か。俺に迷惑がかかるとかそんな事考えてたのか?
「山城ってアホ?」
「なんですか!いきなり」
「これのどこが大変じゃないんだ。結構あるじゃねーか」
俺は持っていた本の上に更に本を乗せる。
「鼓、手伝ってくれるんですか?」
「さっきからそう言ってるだろ」
「なぜです」
「…友人?だから」
「わかりました、訂正します。私たちは友達です」
「なんだよ急に」
「友達は持ちつ持たれつです。違和感があるなら今から友達になりましょう」
そう言って山城は微笑んだ。
「…山城」
「なんです」
「それ結構恥ずかしい」
「え?」
「友達宣言」
やっと「友達宣言」まできた。梢ちゃんは手伝ってもらう事に慣れてないので抵抗があるんです。