60話 しみ抜きは得意です。
※宮下さん視点。
ここ数日、梢ちゃんの様子が変です。変です!
何が変かっていうと、なんていうか…梢ちゃん、落ち込んでる?
演劇部で主役を引き受けたって話は聞いたけど、それが原因?
うーん、違う気がする。
それに今回は鼓君が一緒だから大丈夫だと思ってたんだけど。
うーん。うーん。
ふう、いくら考えても分からないや。
「梢ちゃん、何かあった?」
梢ちゃんは一度目線を上げて私を見て、すぐに視線を落とした。
「何かというか…私、何かしてしまったんでしょうか?」
「ん?誰に?何を?」
「最近、鼓が私と目を合わせてくれないんです」
「えっ!!」
なんですって!!鼓君が原因なんて!!
「どうして、ケンカでもしたの?」
「私もよく分からないんです。思い当たることが無くて…。
知らない内に何かしてしまったんでしょうか?」
しゅん…って、そんな風に落ち込まなくても!
「大丈夫よ。私がなんとかするから」
「なんとかって、何をする気ですか宮下さん!」
そりゃあ、まぁ。直接攻撃ですよ!本人に聞くのが一番確実だし。
「勝手な事はしないで下さい!」
「…わかってるわよ」
えーと、どうしようかな。あれだ、建前があればいい訳でしょ。
というわけで、梢ちゃんに案内してもらって大学にやって参りました。
一応、建前は衣装のしみ抜き・ガンコ汚れを落とすお手伝い。
(もちろん、ちゃんとしみ抜きも手伝うつもりよ)
「あれ?鼓君は?」
稽古場に鼓君の姿が見えない。まさか、そこまで梢ちゃんを避けてるの!
「多分、大道具を手伝ってると思います」
梢ちゃんの反応は普通だし、考え過ぎか。
「じゃあ、博樹君案内してくれる?梢ちゃん練習頑張ってね」
鼓君は外で大道具を作るのを手伝ってるらしいので、その場所まで博樹君に案内してもらう。
「博樹君、鼓君は一体どうしたの?」
「うーん。具体的な事は分からないんですけど…どっかで誰かが地雷踏んだ感じですね」
「抽象的過ぎ、もう!肝心な所で使えないんだから」
「グッサリ刺さる事言いますね。鼓君はちゃんと連れ出してきますから、ちょっと待っててください」
セッティングとかそういうのは察しが良いというか、昔から抜かりないわね。
私が直接出向くと、逃げないとは思うけど…スムーズには行きそうにないし。
どうやって連れ出してきたか知らないけど。鼓君は私を見つけるなり”ゲッ”って顔したわ。
何よ、失礼しちゃう!
「心当たりがあるみたいね。それなら話が早いわ、鼓君」
「こんな炎天下の中で突っ立ってたら倒れますよ。部室の鍵を貸すので…」
「ちょっ!宮下さんと二人っきりにするつもりですか!」
私は正直驚いた。博樹君も同じだったみたい。
「珍しいね。鼓君が露骨に嫌がるなんて」
確かに私は梢ちゃんの事になると厄介かもしれないけど、嫌われてるとは思ってなかった。
…というか、鼓君も変ね。嫌がってる事を言葉にされて初めて気づいたみたい。
「分かったわ。三人でお話しましょう」
本当は鼓君とさしで話したかったけど。