59話 メザメ
カーテンの隙間からうっすらと朝日が差し込んでいた。
まだ目覚まし時計が鳴る前だ。
寝返りをうって二度寝を決める。
久しぶりにあの頃の夢を見た。
昨日、立花さんに
「全部無かった事にすればいいんです。その恋心を捨ててしまえばいいんです。
捨ててしまえば、苦しくなくなる。今まで縛られていたモノから自由になります。
そしたらきっと、ヴァイオラのセリフも言えるようになりますよ」
なんて言ったから、あんな夢を見たのか。
それにしても夢ってこんなにも都合良いものが見られるんだな。
俺の願望の表れか。
夢と事実は最後がだいぶ違っていた、
卒業式の日、確かに机の中に白い封筒が入っていた。
2Bの鉛筆で「鼓君へ」と書かれた手紙。
けど、俺は封筒を開けずにゴミ箱に捨てた。
彼女が美術室で待っていたのか、ただ別れの言葉が書いてあったのか…
今となっては分からない。
あの頃の俺は愚かだった。
教師が生徒と恋に落ちる訳がない。
盲目になっていなければわかる事なのに。
見えていたものすら見えにくくさせる。
自分の都合の良いように考えて、勝手に溺れて…。
あんな過ち、もう二度と繰り返さない。
ちょっと立花さんに影響されすぎた。
一眠りして忘れよう。
だってアレは無かった事なんだから。
ウトウトと睡魔に引きずられようとしていた時。
”鼓”
俺に呼びかける山城の顔が突然浮かんだ。
!!!!
睡魔は一気に吹き飛んで、飛び起きた。
なんで…なんで今、山城の顔を思い出すんだ。
…ああ、きっと今日山城が正式に主役を引き受けるからそれで…心配で思い出したんだ。
きっと、そうだ。
そういう事にしよう。