56話 適材適所はどこに…。
「立花さん、ちょうど良かったです。さっき部長さんから伝言を頼まれて」
俺の言葉に反応したのは立花さんではなく、大道具の人達だった。
「部長だと!そういう面倒事はよそで話してくれ」
「えっ、どうしたんですか」
「ええっと、後で説明しますから話は別の場所でしましょう」
立花さんに連れられて俺は中庭にやってきた。
さっきの部長さんとダブるなぁ。
まぁ、夏休みの中庭なんて誰もいないから話を聞かれる心配も無いけど。
「さっきはすみません。部長が絡むと大抵面倒事に巻き込まれるんで部員はちょっと異常に反応するんです」
はははっ、間違いなく面倒事に巻き込まれてるから。
大道具の人達の警戒心は正しい。
「それで伝言はなんですか?」
伝言なんてない。俺は博樹さんみたいに上手に嘘はつけない。
「正直に言います。部長さんに立花さんが主役やるように説得して欲しいって頼まれたんです」
大道具の人たちの話を聞いて、なぜ立花さんを説得するのか分からない。
説得するなら秋沢さんが先のはず。
だけど、部長は立花さんを説得しろと言っている。
「部長はそれ以外何も?事情は何も知らないの?」
「聞く間もなくどこかに行ってしまいましたから」
疑問に思ったのは脚本・演出の立花さんが主役をできるのか?と思ったくらい。
部長さんが頼むくらいなんだから大丈夫なんだろと深く考えなかったけど。
「そっか」と言って立花さんはベンチに座った。俺も並んで座った。
ちょうど木陰になっていて涼しい。これは長丁場になりそうだ。
「そうね、まずは部員みんなが知っていることから話します。
”十二夜”は元々は私が主役のヴァイオラを、秋沢が公爵を、演出は部長がやるはずでした。
あと、秋沢は私の幼なじみで今でも私の事を想っています」
ん?いきなり話が飛んだ!?
口を挟もうとした俺に立花さんは目で制した。
「とりあえず、話を聞いてください。
ここからは私と部長しか知らない事です。
私は公爵が秋沢だと思うとヴァイオラのセリフが言えなくなります。
だから主役を降りることになりました。
みんなには自分が脚色した脚本で演出したいから主役はできないと言ってあります。
演出も主役も負担が重いものですから、滅多なことでは兼任しません。
けど、秋沢は私が主役から降りると
”胡桃子がヒロインをやらないなら、僕はやらない。
たとえ、フィクションでも真実の愛は胡桃子にしか囁きたくないんだ”
そう言って部長に直談判して役を蹴りました。今でも逃げ回っています」
知らない事をたくさん言われて頭が追いつかない。えっ?どういうこと?
「すべての事情を知っている部長が他の誰でもなく、鼓さんに説得を頼んだ。
どうしてでしょう?」
そんな事、俺に聞かれたって…。部長さんしかしらないでしょ。
秋沢さんを舞台に立たせるには立花さんが主役をやるしかない。
だから、立花さんを説得する意図は分かるけど。
いや、違う。説得で事情が変わるなら部長さんがとっくに説得してるはずだ。
だって立花さんはセリフが言えない。
公爵が秋沢さんだと思うと…。
俺も一応代役だったから台本は読み込んだ。
ヴァイオラのセリフは叶わぬ片思いに焦がれるものが多い。
公爵から令嬢への愛の言葉を語られる場面もある。
急に部長さんの言葉がよみがえった。
「それじゃあ、鼓君は本気で恋したことある?」
「もしかして…立花さんは秋沢さんの事が好きなんですか?」
「えっ、あっ…なんで」
慌てる立花さんの反応は紛れもなく肯定で…。
ん?でもさっき
「秋沢さんは立花さんのことを想ってるって言ってたじゃないですか」
両思いじゃん。何も問題ない。
しかし、立花さんの様子は暗く落ち込んだ。
「違うんです。秋沢が好きなのは昔の私、今の私じゃない…」
私はヴァイオラと同じ。叶うことのない片思いをしてしまったの。
そう言って立花さんはポツポツと昔話を話し出した。




