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55話 部長さんの指令

 演劇部の大道具はグラウンドに近い校舎の日陰で作業している。

 グラウンドの近くには水道があるから、そこを陣取ってるらしい。

 

 部長さんの指令通り、俺は大道具の作業場に向かった。

 しかも準備良く用意された作業着(Tシャツとジャージ)に着替えて。

 作業着があるのは有り難いけど、なんでそれを博樹さんが持ってる訳!?

「さっき部長から連絡もらって、予定には無かったけど男手は大道具の方が必要でしょ。

 もしもって事があるから、一応準備だけはしておいたんだよ」

 言ってることは凄く正しいけれども、タイミングといい、準備の良さといい。

 仕組まれている感じがハンパなくする。


 もう一人の男手である博樹さんは、説得に行く部長さんの運転手をするらしい。

「説得には参加しないから、気楽さ」なんて言っていた。

 そこは博樹さんも参加して、言葉巧みに二人を説得して戻ってくれば丸く収まるのに!

 なんて言えるはずもなく。

 言われるがまま、作業着に着替えて作業場に向かっている訳だ。


 作業場はすぐに分かった。

 日陰にブルーシートを広げて、その上で男5人が作業してる光景は遠くから見ても結構目立つ。

 近づくとシンナーの臭いがしてくる。

 よく見ると足下にカラースプレーやペンキが置いてあるのが見えた。


「あの、こんにちは」

 小さめに声をかけたにも関わらず、5人全員が一斉に振り向いてじっと俺を見るので少々ビビった。

「えっと、助っ人部から来た鼓です」

 名前を告げると5人の警戒が解けて、一気にフレンドリーになった。

「部長から聞いてるよ。大道具、手伝ってくれるの?」

「はい、よろしくお願いします」

 

 大道具の人達が警戒していたのは、グラウンドを使っている運動部によく文句を言われるから身構えていたそうだ。

 やれ、シンナー臭いだ。邪魔だの。

 小言を色々言われ慣れているものの、演劇部が勝手に陣取っているのも事実なのでペコペコと頭を下げるのが常らしい。


「あの僕、日曜大工みたいな事したこと無いんですけど、お手伝いできますか?」

 昔、学校の授業で小さな本棚を作ったけど。それも歪んで使い物にならなかった。

 物を運ぶくらいなら手伝えるが、そういう技術の必要な事は全く自信無い。

「心配しなくて大丈夫。今はほとんど塗り替えしかしてないから」

 今は過去の先輩達が作った大道具を今回の舞台に合うように塗り替えるらしい。


「本当は一からノコギリとか使って作りたいんだけど…今でも作る時間くらいあるんだ。

 でも、それを運ぶ人間が居ないから作っても意味ないんだよな」

 公爵と令嬢の部屋は椅子やテーブルの配置を変えたり、クッションや小物を変えたり

 最小限の変更で部屋を作るそうだ。


「じゃあ、はい。このキューブを塗って。ムラにならないよう気をつけて」


 白いペンキと使い古された刷毛。指差されたのは人ひとりが丁度座れるくらいの正方形の箱。

 ショッキングピンクに塗られたその箱に、思わず「前、なにに使ったんですか?」と聞いてしまった。

 ちなみに、4年前の「不思議の国のアリス」で使ったらしい。


 ムラにならないコツとか聞きながら、俺は黙々と箱を白に塗り上げていた。

 三面塗り終えた所で一息ついて思い出した。

 博樹さんに作業着渡された時

「部の事とか、今回の舞台は本当にできるのかとか気になる事色々、さりげなく聞いといて」って。

 そんな、博樹さんじゃないんだから"さりげなく"聞ける訳ない!!

 

 でもこの人達はやれないかもしれない舞台の準備をしてるんだよな。

「どうした?シンナーの臭いがダメだったか?」

「いえ、そうじゃなくて。…言いづらいんですけど、今回ってあの…」

「そうだね、今回はできないかもしれないね。うん、みんな状況は知ってる」

「俺、午前中の修羅場聞いたよ。木野村さんの秘蔵っ子が代役やるって」

 秘蔵っ子って山城の事か!!

 まあ、博樹さんと山城はハトコだし。

 野球部の時やテニス部の時を思い出せば秘蔵っ子って感じする。

「その話は明日、返事する約束になってて。でも立花さんは二人とも戻って来ないって言ってたので…」

 山城が代役をやっても、まだ一人役が足りない。

 練習にも代役を立てれない程、演劇部の人間は少ない。部内から代役を出すのは難しいだろう。

「秋沢さえ説得できれば、後は部長がなんとかするんだろうけど」

「今回の秋沢さんは手強いですね〜」

 秋沢…そういえば、食堂で部長さん達と顔合わせした時に見た好青年がそんな名前だった気がする。

 一体なに者?

「秋沢さんって、誰ですか?」

「二年の秋沢 遥人(はると)。立花の幼なじみで、立花を追っかけて演劇部に入ってきた。性格にちょっと難はあるが1年生で主役を務めるくらい、役者としてはピカイチ」

「えっ、それじゃあ」

 何も問題ないじゃん。


「それがさ〜、十二夜は絶対にやらないって秋沢が言い切ってさ。部長が説得しても聞かないんだ」

 あの、部長さんの説得を!! 秋沢さんは凄い人だ。

「なんで、やらないのが理由も言わないし。一応、大道具にいるんですけど…いつも説得から逃げ回ってるからここにもほとんど来ないし」

「…それでも、部を辞めないんですね」

 逃げ回っているけど、部活には来てる。

「辞めないよ。ここには立花がいるから」



「あっ、鼓さん」

 部長が宣言していた通りだ。立花さんは秋沢さんを説得しにここに来た。


 話を聞く限り、説得するのは明らかに秋沢さんの方で、立花さんじゃない。

 それもあるけど、何より。一体なんで、俺に立花さんを説得できると部長さんは思ったんだろう?


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