表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
50/63

49話、事情が事情ですので

梢ちゃん視点です。

 いつだって静かなリビングが、いつもと違った静けさを纏っています。

 日々暮らしている場所なのに、重々しい空気が蔓延しているなんて…

 ちょっぴり、不思議な感覚です。


 私の目の前で、宮下さんと木野村が対峙しています。


 宮下さんも木野村も微笑んでいます。

 しかし、この重々しい空気を作り出しているのはこの二人なのです。


 上辺だけの微笑みはマナーとして。

 その下に宮下さんは怒りを、木野村は魂胆を隠しています。

 

 私は静かに、大人しくその様子を見守っていました。



 なぜなら、結果は一週間前に決まっていたからです。

 木野村がわざわざ家に来たのは、話を穏便に済まそうとしているからです。

 話が順調に進まなければ強攻策にでるだけなのですが。


 もう既に、私や(本当に申し訳ない事ですが)鼓に選択権がないのです。



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


 一週間前、私は木野村に呼び出され駅の近く喫茶店に行きました。


 珍しい事に指定された店に木野村は既に居ました。

 サークル活動で待ち合わせをする機会が増えましたが、木野村は必ず5分~10分遅れて現れる人です。

 その木野村が5分前に到着した私より前に居るなんてっ!

 その事実に驚愕している私を木野村は見つけ、ひらひらと手を振ります。


 私はこんな事で動揺しては!と思い、努めて冷静を装って木野村の前に座りました。


 テーブルを見て、おや?と異変に気づきました。


 木野村の前に空のグラスが1つ置いてありました。

 グラスの中に残る茶色の水滴から察するに中身はアイスコーヒーかコーラ。

 木野村の事ですからきっとアイスコーヒーでしょう。


 しかも、中の氷が溶けきっているのです。

 指定の時刻よりもっと前に来ていた証拠。私を待つ為だけに木野村はそんな手間をかけない。


 つまり…


「先客がいたようですね」

「察しがいいね。梢ちゃん」


 ああ、先程の私の驚きを返して欲しいです。

 二つ用事があり、両方とも同じ場所で済ませる。いつもの合理的な木野村じゃないですか。


 いえ、私は常々「人はそう簡単に変わらない」と思っています。それが目の前で実証されたに過ぎません。


 木野村はアイスコーヒーをおかわりし、私はアイスティーを注文しました。


「まぁ、本当は梢ちゃんにも会って欲しかったんだけど。彼女も忙しくてね」

 木野村は私の前に紙の束を置きました。それは未完の脚本でした。


 それから、木野村は演劇部から代役の依頼内容を私に説明し始めました。

 今回の依頼内容はとても変わっていました。

 まず、私が務める代役が主役である事。

 期限は一週間としてあるが、一週間では終わらない事。

 最悪の場合、私が主役を務めなければならない事。


 あらゆる可能性があること。

 たくさんの思惑があること。

 何もかもが未知数であること。

 木野村と演劇部の部長さんが最善を尽くす為に打ち合わせしていること。


 木野村にしては珍しく包み隠さず話したと思います。

 私がアイスティーを飲み終わる頃。私は木野村の話す事情を全て飲み込む事ができました。


「つまり、私はかなり厄介事に巻きこまれる。ということですね」

「うん、そう」

「それで、私が了承すると思っているんですか」

 私は木野村を睨みつけます。しかし、木野村は微笑んでいます。

 その微笑みが薄っぺらいものでも、冷たいものでも無いことに私は一瞬睨むのを忘れてしまいました。


「梢ちゃんは優しくてお人好しだから」

「バカにしてますか?」

「褒めてるんだよ」

 とても褒められてるとは思えません。しかし、どこまでも木野村が正しい。

 自分でもバカだと思います。どこまでお人好しなんだと。

 テニス部の時とは違い、リスクも利用されることも全て分かった上でやるという事ですから。


「私にしかできないと言われたら…その期待に答えたいと、私はそう思うのです」

「そう」

「事情も事情ですので、私が木野村の思惑通りに動かなくても文句言わないで下さい」

「そんな事言わないよ。器用に動ける梢ちゃんなんて期待してない」

 やはり、私はバカにされているのでしょうか?


「それにしても、木野村がこんな話に首を突っ込むなんで珍しいですね」

「うん…まぁ、第三者が介入した方が良い場合があるって知ったからね。

…俺と梢ちゃんだって、鼓君がいなかったら今こうして話してると思う?」

「木野村、私に断らせるつもり無かったでしょう」

「なんで?」

「その話を引き合いに出されては、協力しない訳にはいきません」

 私はその後、木野村にケーキを奢ってもらい、鼓に一切の裏事情を話さないことを約束させました。

 その代わり、渡された脚本を全て覚えることを約束させられました。


 人は簡単に変わりません。木野村は見返りなしに動く人間じゃ無いのですから。



 そんな話をしたのが一周間前。

 そして、宮下さんを説得しなければいけない事に気がついたのが三日前。


 木野村が説得役をすると言った時は、正直ほっとしました。

 私では宮下さんを説得できませんし、逆に宮下さんに丸め込まれて二週間ほど海外短期留学をさせられそうです。


 私だけでは結局何も出来ない。私はただ静かに見守るしかできません。

お久しぶりです。

今回、梢ちゃんの観察力について書いてみたかったのですが。上手く書けないですね〜。

ぼちぼち書きますのでご愛読お願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ