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47話 苛烈の演劇部

 

 ここは少し広めの教室。

 全開の窓から濃い青空が見える。清々しいが、太陽は自己主張が激しい。つまり暑い。夏だから当たり前か。

 開け放たれた窓からは気持ちの良い風が吹いてくるが、今の俺はその窓を全部閉めてしまいたかった。

 けど、そんな事できない。

 多くの視線に晒されながら俺は一人立っている。


「音楽が恋を育む食べ物なら、続けてくれ。

 嫌というほど聴かせてくれ。そうすれば飽きがきて

 食欲は衰え、やがて死に絶えるだろう…」


 ああ、なんで俺はこんなセリフを言わないといけないんだ。


「ああ、恋の精、お前はなんと元気旺盛なのだ」


 …本当に、なんで俺が…


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 事の発端はやっぱりサークルだった。いや、それ以外ないんだけどさ。


 今回は前の女子テニス部と違い。本当に人手の足りない演劇部からの依頼だった。

 山城は病気で休んでいる部員が戻ってくるまでの代役。

 俺は怪我をした部員が戻ってくるまでの代役。

 博樹さんはその二人の為に稽古風景を撮影する撮影係。

 

 怪我やら病気やら大丈夫かって正直思ってしまうが、一週間の期限付きなら「まぁいいか」と俺は深く考えなかった。

 だが、軽く流したのが間違いだった。

 確かに演劇部の部員は少なかった。稽古中、出番のない役者達は大道具やら小道具に駆出されワタワタと忙しなく動き回っている。

 それはいい、むしろ全然いい。

 問題は引き受けた代役。そう、代役なんだからどうせ脇役だろ。と俺は勝手に決めつけていた。


 しかし、蓋を開けてみると違った。

 深く考えれば気づく事だったかもしれない。むしろ、博樹さんに詰め寄って詳しく話を聞けば分かる事だった。

 でも、俺はどちらもしなかった。


 俺が引き受けた役は準主役級のかなり出番の多い役だった。

 

 ただの脇役なら今いる役者の中で代役を立てられる。

 けど、元々演じる役がある人間に、それよりも負担のかかる代役をやるなんてできない。


 そもそも人手が足りてない。

 小道具や大道具の作り方を一から教えて手伝わせるよりも、台本を読んで稽古につき合わせる方が効率的だと(演劇部)部長は判断したらしい。



「公爵、そこはもっと恋に苦しむ感じで!」

「はいっ」


 いくら俺が素人で台本持ちながら棒読みでセリフを言っていても、必要なのは俺の立ち位置と演出からの指示。

 それを博樹さんがビデオカメラで全部記録している。

 確かにこの方法なら怪我でしている部員に演技指導が伝わるだろう。


 俺にとっては地獄でしか無いけどね。


「じゃあ次、ヴァイオラの登場シーン」

「はい」

 山城が台本を持って立ち上がる。

 俺よりも負担のかかる代役をやる山城。

 シェイクスピアの喜劇「十二夜」の主人公ヴァイオラ役の代役。

 まさかの主人公が代役なんて本当に大丈夫なのか?そう思っているのはどうやら俺だけじゃないらしい。

 ほぼ出突っ張りの役者達が不安気な視線を山城に向けている。


 演出の声がかかる。

「用意、スタートっ!」


「何という国なの、ここは?」


 そこに居た全員が息をのむのが分かった。

 俺たちの目の前には背筋の伸びた意思の強い女性はいない。

 不安に満ちた、途方に暮れた少女が一人。


 この時、数人の部員と演出はそれぞれに思惑を持っていた。

 不安や期待、嫉妬様々な感情がそれぞれに形を作りつつあった。


 けれど、俺はこの時思ったのは「山城ってすげぇ」って事だけ。


 俺はやはりこの時も深く考えなかった。

こんな感じで「演劇部編」が始まります。

結構長くなる予定(詰め込むものが沢山)なのでお付き合い下さい。

なお、文中に登場する「十二夜」のセリフは「ちくま文庫 シェイクスピア全集6 十二夜 訳:松岡和子」から引用しております。

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