46話 どうして、ここに?
「秀平?どうして、ここに?」
俺は毎度の事ながらサークル活動でバスケ部の応援に来ていた。
そして毎度の事ながら、俺は場所取りをし二人は挨拶に行っていた時だ。
耳慣れた声に振り返ると、俺の後ろには明日也がいた。
「明日也?なんでいるんだ」
明日也は俺が居ることに驚いていたが、俺だって正直驚いた。
山城達みたいに目立つ人間なら別だが、この大勢の人ごみの中から平凡な俺をよく見つけられたもんだ。
「高校の時の友達が出るから見にきたんだ。秀平こそなんでいるんだ?」
「俺はサークル活動だよ」
「えっ、まだやってんの」
明日也は大げさに驚いて、でもちゃっかり俺の隣に座った。
…まぁいいか。山城達が戻ってきたらさすがの明日也もどくだろうし。
「はぁ〜、秀平は凄いな。将来大物になるよ」
明日也は大げさなくらい大きなため息をついた。
「…そんなに驚くことか?」
「当たり前だろ!だってお前、あの木野村さんと一緒なんだろ」
そういえば、明日也は博樹さんのこと苦手なんだったけ。
「博樹さんは…まぁちょっとクセのある人だけど悪い人じゃないし…」
「いや、俺が言ってるのは人柄のことじゃなくて…
もしかして秀平、木野村さんのこと何も知らないのか?」
「山城のハトコで、サークルの部長で…」
「わかった、もう分かった。本当に知らないんだな。
秀平らしいと言えばらしいけど…いや、考えられないな」
「なんだよ、はっきり言えよ。博樹さんが顔の広い人だって事ぐらい俺だって知ってる」
「バカっ!そういうレベルじゃないんだよ。あの人は、理事長の息子なんだよ!」
「はぁ?」
「だからっ、木野村さんはうちの大学の理事長の息子!」
「マジでっ」
「いや、今まで知らなかった秀平の方が引く」
ああ、そういえば普通の大学生じゃないって言ってたっけ。
理事長の息子…顔が広いのも当然だ。
それになんか色々コネとか権力とかありそうだし…
だから、サークルボランティア部なんて怪しげなサークルに依頼が来るのか。
高値の花の山城を試合に呼べる博樹さんは理事長の息子。
それは信頼とか信用とかたくさんの付加価値がついてる。
「はぁ〜そうだったのか」
なんか、色々と納得。
だから最初の頃、山城は博樹さんから俺を守ろうとしてたのか。
うん、納得。
「そうだったのかで済むのかよ」
「まぁ、博樹さんは博樹さんだし」
一癖ある人だけど悪い人じゃないし。
「あっそ。そういえば木野村さんと山城さんは?一緒じゃないのか?」
「二人はバスケ部に挨拶しに行ってる」
「…山城さんも?」
「山城が激励しに行くと勝率が上がるんだよ」
「なるほど。それで、秀平はここでなにしてるの?」
「場所取り」
「山城さんとはあれからどうなってるの?」
好奇心を隠そうともしない明日也の目。
なぜだろう、最近こういう話をよくしている気がする。なんだ?流行か?
「どうも何も、友達だよ」
「秀平、ガチで言ってるのか」
「嘘ついてどうするんだよ」
「信じられない。頭打ったのか?」
「俺は正気だ」
「なに?山城さんの事少しも気にならないのか?そんな訳ないだろ!」
明日也が声を荒げるほど、なぜだか俺の心は冷めていく。
どうして、俺は山城に恋をしなくてはいけない。
どうして、友達として一緒にいる事がおかしい。
どうして、恋に落ちる事が当たり前なんだ。
もう、そんなのうんざりだ。
「ハッキリ言っとく、俺は山城を恋愛対象として好きになる事は無い」
「そんな事わからないだろ」
いや、俺には分かる。
俺はあの時、誓った。
「俺、もう恋するつもりないんだ」
たった一人に振り回される…そんな愚かな事。
俺はもうしない。
「秀平、なんかあったのか」
あったさ。
だけど…明日也にも、山城にも、博樹さんにも、家族にも、誰にも話すつもりはない。
ちょっと影の薄かった主役感が取り戻せたかな?
一応、鼓君が主役の物語なので…。
ちなみにこの話は後に引きずりませんので、ご勘弁を