41話 宮下翔子の進撃
宮下さん突き進みます。いけいけ♪
鼓君と別れた後、そのまま3人の様子を遠くから見守っていたけど特になにもなく
そのまま1時間過ごしてから私は家に帰り、
いつも通り仕事をこなし、
いつも通り帰ってきた梢ちゃんを出迎えた。
「今日の試合はどうだったの?」
「凄かったですよ。なんというかボールへの執念と言いますか…とにかく皆さん凄い気迫でした」
梢ちゃん効果絶大。
そりゃあ、こんな美少女が応援に来てくれたらテンションだって上がるし、
かっこいい所見て欲しいって思う。
絶対思う。
「じゃあ勝ったんだ」
「はい、負け続きと聞いていたんですが。そんな風にはとても見えませんでした」
嬉々として試合の様子を梢ちゃんは話してくれた。
梢ちゃんは私が尾行してた事に全く気がついてないみたい。私の腕もたいしたモノね。
「楽しかった?」
「はい、とても♪」
無邪気に笑う梢ちゃん、その姿をここ最近よく見る。
その変化に気づいてるのは私だけ?
「それは、鼓君が一緒だったから」
梢ちゃんの目がまん丸くなる。急にどうしたの????そんな顔をしてる。
そうね、梢ちゃんにとっては急かもね。
「紅茶でも飲みながらゆっくり話そうか、梢ちゃん」
そう言って私は微笑みながらキッチンに向かった。
「…宮下さん?」
梢ちゃんの戸惑いがアリアリと伝わる。
そう私が真剣に梢ちゃんと向き合うのは、きっとあの時以来。
梢ちゃんは私がなんで向き合おうとするのか分からない。
分からないから、私が向き合うんだけど。
「紅茶は何がいい?やっぱりアップルティーかしら」
そう聞いても、返事がなかった。
キッチンからリビングを覗くと梢ちゃんがオロオロと歩き回っていた。
…そんなに動揺しなくても。
「梢ちゃん、取りあえず着替えてきたら?」
「あっ、はい。そうします」
結局、紅茶はアールグレイのアイスティーにした。
夏まっさかりに熱い紅茶を飲む気にはなれない。
ダイニングテーブルにアイスティーをなみなみ注いだグラスを二つ置く。
そして私と梢ちゃんは向かい合うように座った。
私の顔をまともに見られない梢ちゃんを気の毒に思い、私は早々に本題を切り出した。
「梢ちゃん」
「はい」
「梢ちゃんは鼓君のことどう思ってるの?」
鼓君と同じ質問を聞いた。
今までも同じような事は聞いてきた。軽くだったり、冗談のようにだったり。
その度に梢ちゃんは「鼓は友達です!」の一点張りだった。
私が真剣に聞いても同じように答えるのかしら。
梢ちゃんと目が合う。真っ直ぐに見る眼差しはいつ見てもキレイだと思う。
「鼓は私にとって、とても大事な人で、大切な友達です」
「…梢ちゃんが鼓君を信頼してるのはよく分かるわ」
「なら、どうしてそんな事聞くんですか?」
梢ちゃんが恋を敬遠してるのは知ってる。ついこの間までは友達だって敬遠してた。
だって、それは…。
「…まだ、怖いのかしら。人を信じるのは?」
「宮下さん、私はもう子供じゃないんです」
孤独の中にいた頃とは当然違う。
「誰だって傷つくのは怖いでしょう」
「鼓は私を傷つけようとした事なんてありません」
「傷つけようとして傷つく事だけじゃないでしょ」
梢ちゃんは押し黙った。何も言えない…そんな感じだ。
傷つけようとして傷つく事だけじゃない。
そうやって私たちは傷ついて、傷つけてきた。傷の大小様々、思い出せないような傷もきっと。
「宮下さんはどうして恋にこだわるんですか?」
違う意味で鼓君と同じ事を言う。本意は全く違うとわかるのに。
じゃあ、久しぶりに本音でも伝えてみようかしら。
「それはね、梢ちゃんに恋をして欲しいからよ」
あら、そんな「どうして??」なんて顔しないで梢ちゃん。
梢ちゃんはまだ知らない。
人が変わるきっかけは人との衝突やトラウマだけではない。
人を好きになる事。恋をする事で人は大きく変わる。
内面、外見を問わず。
私は梢ちゃんが好きな人に”可愛い”と思われたいと考えながら服選びに悩む姿が見たい。
そんな幸せな光景を私は見てみたい。
友達が家に来るからとはりきってケーキを焼いたあの時みたいに。
誕生日だからといつも以上真剣にクッキーを作った時みたいに。
「私は、梢ちゃんに幸せになってほしいの」
誰かの為に一所懸命になれるって、とても素敵なことだから。
「宮下さん。望んで幸せになれるなら人は苦労しません」
「ふふっ、そうね」
いくら大人になっても、成長しても梢ちゃんは変わらない。
それを微笑ましく思うし、嬉しく思う。
「でも…宮下さんの気持ちはわかりました」
「だからって鼓とは純粋に友達ですからね!!」
今はそういう事にしておきましょうか。
大好きだ!!宮下さん!!