39話 これは、もしかして…
まさかの宮下さん視点です。
今日、梢ちゃんは例のサークルボランティア部の活動でサッカーを三人で見に行くらしい。
夏休みなんだからもっと遊びに行けばいいのに、最近出かけるといったらこればっかり。
「鼓君誘って遊ばないの?」
と聞いても
「鼓は”バイト”で忙しいんです」
やけに”バイト”を強調されて恨めしい目で見られた。
バイトに反対したのは私だけど、「バイト禁止」を言い出したのは梢ちゃんの両親(特に父親)なのに。
やっぱり「梢ちゃんが可愛すぎるからバイトはダメ!」なんて言っても納得できないか。
そんな遊びっ気の無い梢ちゃんが今日、服を選ぶのに1時間もかかってる。
これは、もしかして…
デートってやつじゃないの?
「宮下さん」
部屋から飛び出してきた梢ちゃんが私の前でくるりと一回転する。
白のシフォンの半袖シャツに膝小僧が少し隠れるくらいの丈の水玉柄のスカート。
両方とも私が買ってきて今までクローゼットの奥にしまわれていた服。
確かあのスカートは「この丈じゃ、警棒が見えてしまいます!」って言って断固着ないと宣言していたスカート。
つまり、今日は警棒を持って行かないってこと!
しかも髪型は三つ編みじゃなくて、高く結ばれたポニーテール。
なんていう変化。これが恋の力ってやつね♪
「この格好、活発少女に見えますか?」
梢ちゃんの言う活発少女がどんなイメージかわからないけど。
首をかしげて聞く姿は、かなりというかド直球に可愛い。可愛すぎるでしょ!!
「超かわいい♪やっぱりポニーテールにはシュシュ?それともリボン?毛先もちょっと巻いたら…」
「宮下さん!!」
ちょっとはしゃいだだけなのに、梢ちゃんはすぐに私を睨んだ。
やっぱり、この間のゆるふわ巻きはやりすぎだったかしら。
けど、あの服と髪型がぴったり似合う梢ちゃんがいけないんだわ。…素材の良さよね、絶対。
梢ちゃんは結局スカートと合わせて水玉柄のシュシュを付けて出かけていった。
さてと、私はせっせと出かける準備をした。
デートの相手はもちろん鼓君だとして、ことと次第によってはご両親に報告しないといけないし…。
色々と言い訳を考えながら、身体を動かす。不思議と胸が躍る。
ふふっ、こういう探偵ぽいの久しぶりだけど大丈夫よね。
梢ちゃんが家を出てから5分。
私は梢ちゃんを尾行するために家を出た。
駅では鼓君が梢ちゃんを待っていた。
「待ちましたか?」「いや、今きたところ」なんて言ってるに違いない。
うんうん、こうして見るとお似合いだわ。
木の影から微笑ましく眺めていると二人に近づいてくる男がいた。あの口元はこう言っている「いや、悪いね」
博樹君が合流して3人が動きだした。
…3人ってことはサークル活動ってこと。でも私はどうにも腑に落ちなかった。
どうして梢ちゃんは1時間も悩んで服を選んだの?
私はそのまま尾行を続けた。
尾行して辿り着いた先はサッカーグラウンド。
時々不安になる。梢ちゃんは正直すぎる、良くも悪くも。
このまま普通に観戦して帰るのか…と思っていたら。
鼓君を残して梢ちゃんと博樹君二人連れだってどこかへ行ってしまった。
…これは、どういう事?
気になる、すごく気になる。だったら二人を尾行すればいいんだけど…。
ひとり残された、鼓君。
…こっちもすごく気になる。
「こんにちは」
「っ宮下さん!?」
私は鼓君の隣りに座った。
どうして梢ちゃんを尾行しなかったか。
それは鼓君なら私がここに来た事を梢ちゃんに絶対に話さないって確信できたのと
彼に直接、追求してみたい事があったから。
「なんでここにいるんですか!?」
「ちょっと梢ちゃんを尾行してて、だから私がここに来たこと梢ちゃんに話さないでね」
「…はぁ」
鼓君はぽかんとしていた。うん、多分私の話が作り話とでも思ってるんだろう。
尾行できるお手伝いさんなんてなかなか居ないからね。
嘘ならそう思ってくれた方が都合も良い。
「二人はどこに行ったの?」
「ああ、今日招いてくれたチームに挨拶しに行ったんです」
「二人で?」
「はい、博樹さんは部長として。山城は激励の意味を込めて顔を出しに行くんです」
なんで梢ちゃんがサークルに引っ張りだこなのか。その理由は聞かなくても分かる。
しっかりというか、ちゃっかりしてるな博樹君。
「でもサークルの為とはいえ、梢ちゃんが頑張って可愛くするのはなんで?」
1時間もかけて服を選んでたのよ!!
「それは、この間渡された服であまりにも注目を集めすぎたんで、次からは自分で服を選ぶって山城が言ったんです」
「…もしかしてリクエストとかって」
「オーダーは元気な女の子でしたけど」
それで活発少女。梢ちゃんの中では元気な女の子イコール活発少女なんだ。
間違ってないけど…なんか間違ってる気がするわ梢ちゃん。
私の中で引っかかってたものが全部なくなった。つまり全部私の誤解。
なーんだ、期待してたのに。
ちらりと隣に座る男の子を見る。
梢ちゃんはトコトン恋に疎い子だから、今までの行動は理解できるし納得できる。
けど、彼はどうだろう。
本当に彼にとって梢ちゃんはただの友達なんだろうか。
あの、可愛い梢ちゃんをただの友達として見られるだろうか。
聞きたくなる。追求したくなる。問いただしたくなる。
「鼓君は梢ちゃんのことどう思ってるの?」
鼓君は私相手にも「友達」と言うだろうか?
ナイス、宮下さん♪