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38話 女神の力

 試合が始まる前からうちの野球部のテンションは…もう、なんかやばかった。


「お前らぁ!!今日は何がなんでも勝つぞ!!」

「「おー!!」」

「スマートに、尚かつ紳士的に圧勝するぞ!!」

「「おー!!」」

「我々には女神がついている!!」

「「「おぉー!!!!」」」


 ちなみにコレは円陣を組んで気合いを入れる前、各々ベンチで準備している段階だ。

 あのハイテンションを作り出したのが隣にいる山城だと思うと凄く不思議だ。

 

 異常なやる気と熱気につつまれて練習試合は始まった。

 

 

 始めは異常な熱気に相手側は呑まれていたが、元々の実力は五分五分。

 お互い攻めるものの、なかなか得点にはつながらない。


 俺はこんなもんなんだろうと思ってたが、どうやら違うらしい。

 俺たちの後ろに座っておじさん。多分、野球部のOBだと思う人達の話し声がそう教えてくれた。


「おい、かなり調子いいじゃねーか」

「今回相手側って期待の新人入れてきたって話じゃなかったのか」

「毎度ながら打たれるには打たれるけど、よく守ってるよな」

「だけど、こっちは全然打てねーだろ」

「いや、でも試合はこっからだ」

 

 試合自体はなかなか面白かった。攻める、守る、守る。好プレーもあった。

 だけど得点表に0が次々と書かれていく。


 普通に試合を観戦していた山城に博樹さんが声をかけた。

「梢ちゃん、打者に向かって手を振ってみて」

「えっ、気づくでしょうか?」

「できるなら満面の笑みで」

「なぜですっ!」

「ほら、頑張れって意味で」

「私は十分頑張って欲しいと思ってます」

「それが伝わってこその応援でしょう」

 今日の博樹さんはやけに正しいなぁ。なんてぼんやりと思ってたら矛先が俺に向いた。

「ねぇ、鼓君」

「えっ、はい。そうですね」

 なぜか山城が俺を睨んでる。…そんなに悪い事を言っただろうか?


「わかりました。気づかれなくても私のせいではありませんからね!」

 

 気づかないはずがない。

 さっきから打者はチラチラと山城を見ている。

 だってわざわざ向こうから見えるだろうと思う場所に座ったんだから。


 今、山城を目が合う。

 打者の顔が…山城と目が合うだけで明るくなる。

 山城が微笑む、そして手を振る。


 打者の顔にやる気と覚悟が浮かんだ。

 



 カキーン!!


「「おおっ!」」


「ホームラン!!」


 

 山城が応援し始めると魔法にかかったように今まで全く打てなかった部員達がホームランを連発していった。


 ここからかなり一方的な試合展開となり、うちの野球部は圧勝。


 この練習試合は何十年とホームラン伝説として語られる。

 あの試合には確かに(女)神が居たと。


 そんなことになるなんて俺たちが知るはずもなく

「梢ちゃん、次ぎからも崇められちゃうね」

「なぜです。私は何もしてませんよ」

「でも神様って何もしないでしょ」

「「?」」

「今度から勝利の女神が来ますって触れ込んでおこうかな♪」

「嘘はいけません!!」


「さて、もう一仕事あるから付いてきて」

 帰る気まんまんだった俺に博樹さんはそう言って立ち上がった。

 仕事と言われては山城も行かない訳ない。


 博樹さんに連れて来られたのはグラウンドの裏側だった。

 そこには丁度、人がいた。

「コーチ!」

 呼ばれて振り向いたのは小柄で恰幅のいいおじさん。

 あれが、土下座をしたコーチ。

「木野村君、今日は本当にありがとう」

「これぐらいお安いご用ですよ」

「山城さんも。今日は山城さんのお陰で勝てたようなもんだから」

「いえ、私は何もしていません」

「あなたのお陰ですよ。期待されるという事はとても大事なことなんです」

 思ってたよりコーチは良い人できちんとした大人だった。


「だから、ありがとう」

 きっちりと腰から倒したお辞儀を俺は初めて見たかもしれない。


「あのっ、土下座はしないで下さい!」

「はい、困らせるつもりは無かったんですけど。もうしませんから」


「それじゃあ、片付けがあるので」

「俺も手伝います」

 これが一仕事なのか。そう納得しかけた。

「じゃあ私も」

「鼓君、梢ちゃんを送っていって」

「えっ」

「その白いワンピースで片付けできないでしょ」

 確かに。

「…わかりました」

「ちょっと待って。梢ちゃんもう一仕事」


「おーい、お前ら!山城様が来てるぞ!!」

 コーチの大きな一言に野球部員がバタバタとあっという間に山城の前に現れる。

「お前ら崇めろ!勝利の女神様だぞ!!」

「「はは〜」」

 かろうじて土下座はしてないが、部員たちは限りなく頭を低くしてる。


「なっなぜです!鼓がいるのに」


 山城、俺だって何でも対応できる訳じゃないから。



野球の試合観戦終わりです。

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