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37話 何があったか教えましょう♪

鼓に代わって何があったか教えます。

ただし、梢ちゃん視点。


 私は木野村から距離をとって、けれど目的の場所は同じなので並んで歩いていました。

 私は不機嫌さを顔から消し去る努力を全くせず、しかし足だけは速く動かしました。

 けれど、慣れないヒールのせいで木野村と速度はあまり変わりません。


 私が今、凄く不愉快なことを木野村は分かっているでしょう。

 なのにこの人は笑顔を絶やさずに私に話しかけてきました。

「ねぇ、梢ちゃん。もう少しゆっくり歩かない?」

「嫌です」

「ヒール履き慣れてないんでしょ」

「木野村には関係ありません」

「梢ちゃんが靴ズレして帰ってきたら鼓君は心配すると思うよ」


 私は思わず立ち止まりました。木野村はやはりまだ微笑んだままです。


「鼓君の居る前じゃ言わなかったけど、俺と二人になるのが嫌だったんでしょ」

 この人は私という人間を知っている。

「それがわかっているなら、私に場所取りを任せれば良かったんです」

「なんでそんなに嫌がるの?」

「……」

「分からないんだよ、流石の俺でも。

 鼓君の家から帰る時は送らせてくれたのに、なんで今日に限ってそこまで嫌がるの?」


 今日に限って…。

 鼓の家に行った時は私はただ微かに違和感を覚えただけ。

 でも今日はすごく違和感がある。

 そう変わったとするなら、きっと木野村が私に謝りに来た日。


「あなたは誰ですか?」


 私には目の前にいる男の人が一体だれなのかも分からない。

 今の木野村は私が知っている人じゃない。


「私は木野村の事が全く分からなくなりました。

 過去の事は許します。ケジメはキチンとつけました。

 けどそんなに簡単に人は変わるものですか?」


「何が言いたいのかな」

 木野村はいつものように微笑んでいる。でも違う。



「今の木野村は昔の木野村のようです」


 私が絶対的な信頼をし、狭い世界の中で生きていた頃の彼のよう。


 例えば、私を連れ出すのだって以前なら鼓を人質にして無理矢理連れ出したのに。

 今日は私が納得させて、自分の足で来るようにし向けた。


「そっか。そうだね。俺、梢ちゃんの観察力なめてた。梢ちゃんは俺が怖いんだ」

「得体が知れないので恐ろしいです」

「じゃあちょっと前、梢ちゃんが警戒しまくってた頃は?」

「何を考えてるか分かりませんでした。

 へらへら笑ったりして昔の木野村からは考えられなくて不気味でした」

「あ〜、なるほどね」

 

 木野村は苦笑しつつも、話すのをやめなかった。


「シンプルに答えると、人はそう簡単に変われないよ。

 ただこの間までの俺は色々と策を練って挑んでたからね。

 それをやめたから昔の俺みたいに思えたんだと思うよ」


 言われてみれば、この洋服も木野村が用意した訳ではありません。

 以前は必要以上に線が張られていたように思えたのに、今日はそれも無かった。

 あまりに視線に晒されてそれどころではありませんでしたけど。


「梢ちゃんも昔とは変わっただろう」

「はい、いつまでも子供でいる訳にはいきませんので」

「俺の変化もそれと一緒。

 俺自身は梢ちゃんにケジメをつけたからって激変できるほど神経図太くないからさ」

「そうですか。今の木野村は昔の木野村の延長なのですね」

「そうだよ。色々あったけど」

 それなら分かります。色々あって人は変わりますから。

 不思議と先ほどまであった違和感と恐ろしさはどこにも無くなっていた。


「行こうか。挨拶する暇が無くなる」

「そうでした。お礼を言わなくては」


 私たちは再び並んで歩き始めました。


 木野村は私に合わせてゆっくり歩き出しました。

 けれど、顔はいつもと同じ微笑んだまま。


 今なら分かるような気がします。


 それが今の木野村の姿なんだと。



距離の縮まった理由です。

コーチの土下座っぷりとか野球部の異常なハイテンションは皆さんのご想像におまかせします。

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