35話 傍から見ると…。
「傍から見ると三角関係みたいだ」
開口一番博樹さんはそう言って、山城にヒールのある靴の踵でつま先を踏まれた。
俺たちは駅で待ち合わせをしていた。
一番最初に俺が来て、山城が現れて、博樹さんがやって来た。
それで駅にそろったが、言われた通り傍から見れば一人の女の子を取り合う男二人にしか見えない。
「どうでも良いこと言ってないで、早く行きますよ」
どうでもいいで片付けてしまう所が山城らしい。
そう、俺たちは山城を取り合ってる訳じゃない。今日はサークル活動の為に集まったのだから。
今日は大学野球部の練習試合の応援に行く。
なんでも因縁の相手で、どうしても勝ちたいらしくコーチ直々にオファーがあったらしい。
「しっかりした大人に土下座までされたら断れなくてさ」
そんな事実を知らされて、サボるとかそんな考え吹っ飛んだ。
俺たちは駅のホームで電車を待っていた。
こんなにも人の視線にさらされるモノなのかと実感していた。もちろん俺じゃない、山城だ。
今日の山城はいつものロングスカート姿じゃない。ついでに三つ編みでもない。
白のワンピース(ひざ丈)に淡い水色のシャツを羽織り、髪はおろしてゆるく巻いている。足元は白いヒールのある靴だ。
もう完全に、避暑地に居そうな清楚系お嬢様そのもの。
しかも山城は立ってるだけならナンパされる確率100%の女の子。
その横には黙ってれば爽やか青年の博樹さん。
加えて今日は水色のポロシャツを着て清潔感があるように見える。
そんな現実離れした人達が駅のホームに立ってたら誰だって見るさ。
山城はあからさまに大げさな溜め息を博樹さんに向かってついた。
「やはり、木野村に渡された服なんて着てくるべきではありませんでした」
「それ山城の服じゃないの」
「はい。今日の朝、木野村からだと宮下さんに渡されました」
博樹さんから渡された服を素直に着るのか…。
やっぱり山城は根っこの部分では博樹さんの事を嫌ってない。
「コレを着ないと鼓が今日来られなくなると脅されたので」
また、それか。
「…あの博樹さん、今更ですけど俺をダシに山城を使うのやめてくれませんか」
博樹さんは、まるで「おもしろいでしょう」と言うように笑って言った。
「その服で是非って頭下げられたら、期待に応えないといけないでしょ」
…大人の土下座の意味が分からなくなってきた。
博樹さんは改めて山城の格好を上から下まで眺めた。
「しかし、梢ちゃんはいつも通り三つ編みで来ると思ってたけど。そんな期待通りの髪型で来てくれるとは」
「この髪は宮下さんがおもしろがってやったんです!ワックスまでつけられて…もう手出しできませんでした」
「さすが、宮下さん。空気読める人だね」
「なぜ、私がこんなにも人の視線にさらされないといけないんですか。何もかも木野村のせいですっ」
「ん〜そうだな。四分の一は野球部のコーチのせいで、五分の一くらいは宮下さんのせいで、残り全部は梢ちゃんのせいでしょ」
「なんで私のせいなんですか!木野村の責任が一ミリも入ってないじゃないですか!!」
「当たり前でしょ、俺に責任なんて無いんだから」
「そんな訳ないでしょ!!」
ああ、本当。なんで俺はここに来たんだろう。
この二人を傍から見ると美男美女カップル。
近くで会話を聞いていても、じゃれあっているバカップル。
…博樹さんに何を言われてもサボればよかった。
「鼓」
「えっ」
山城の声が急に自分に向けられて驚いた。
「電車が来ましたよ」
山城の言った通り、電車はドアを開けて待っていた。
博樹さんは電車に乗ろうとしている。そう、普通はそうするのが当たり前。
でも山城は俺と同じく一歩も動いていない。
…やっぱりサボれないか。
俺が電車に乗ると後を追うように山城が電車に乗った。
続きますん(人ω<`;)