31話 あっ、言うの忘れてた。
山城に電話をかけると2コールで出た。
「もしもし」
「あっ、山城」
山城にかけてるんだから山城なんだけど。
「はい。鼓ももしかしてピンチですか」
今、山城はピンチなのか。いやだから籠城までしてるのか。
「いやな、博樹さんから山城が籠城してて困ってるから説得してくれって頼まれて」
「っ!鼓は木野村の差し金ですか!?」
ん…間違いじゃないか。いいや、この事を引きずると長くなるから適当に切り上げよう。
「まぁ、そんな所だ。山城どうして籠城してるんだ、いつもみたいに堂々としてればいいじゃないか」
「……木野村にとって私の家は鬼門なはずなんです。なのに訪ねてくるなんて、木野村が何を考えてるのかわかりません」
博樹さんが何を考えてるかなんて…あっ。
「あっ、言うの忘れてた」
「なにがですか」
「俺、博樹さんに山城が全部知ってるって言ったんだ」
「はい!?いつですか、なんでですか!!」
「えーと、部室の鍵を返しに行った時に…つい、ぽろっと」
「鼓がそんな口の軽い人だったなんて」
「そうだな、俺も意外だ」
「これで、博樹さんがどうして来たのかわかっただろ」
「…私にどうしろっていうんですか。あれはもう終わった事です」
「そう言うなら、どうして博樹さんを毛嫌いしたんだ」
「だって、あの時も木野村は何を考えてるか分かりませんでした。へらへら笑ったりして不気味でした」
そんな風に思ってたのか。確かに警戒心は凄かった。
「木野村は何でもできる行動力を持っています。だから怖いんです」
そういえば、苛烈の演劇部ってなんだろ。
「今でも怖いの?」
「今は怖くないです。鼓がいますから」
なんなんだ俺への信頼は。
「じゃあ、大丈夫じゃん。博樹さんに会いなよ」
「それには、覚悟がまだできてません」
「会ってみれば意外とあっけないもんかもよ。宮下さんだっているんだろ」
「宮下さんは木野村の味方です」
「えっ、そうなの」
「だから鼓…いえ、なんでもありません」
「まぁ、なんかあったら話ぐらいは聞けるからさ」
「鼓…私、戦ってきます!」
山城はそう言って電話を切った。
戦うのか…そうか山城にとっては戦いなのか。
電話を切ってから数分もたたない内に俺の携帯が鳴った。相手は山城だ。
「もしもし、山城。どうした?」
「鼓、木野村と宮下さんがホットケーキを食べて和んでます!!」
なにやってんだあの人達は。
ほとんどが会話文って初めてかも。そろそろ前みたいなほのぼのに戻していきたい。