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26話 宮下翔子物語7

「ねぇ、博樹君」

「博樹君はどう思う?」

 友達の口から「こずちゃん」と出る事はめっきり減り、じゃれる犬のように博樹君にまとわりついた。

 博樹君は梢ちゃんの王子様であったように、学校でも憧れの的だった。

 博樹君も、そんな女の子に会うのは初めてでは無かった。始め博樹君は梢ちゃんの友達に話を合わせつつ、けれど決して梢ちゃんの隣を離れなかった。

 友達が「こずちゃん」と呼ばない代わりに博樹君が「梢ちゃん」と呼んだ。

 大抵の子は身体の弱い梢ちゃんの面倒を見る博樹君の邪魔をしないよう、離れていった。

 それは、梢ちゃんが居ない所では博樹君はその子達と話していたからだ。そして、誰に対しても平等だと思い知っていった。

 

 しかし、今回はそうはいかなかった。

 友達は梢ちゃんから離れない博樹君に苛立ち、自分を可愛く見せることを止め強硬手段に出た。

 友達は博樹君を脅した。

「博樹君があの子から離れないんだったら、あの子の友達止めちゃうんだから!」

 それはとても効果的な脅しだった。

 梢ちゃんが学校に通えるようになった時、博樹君は梢ちゃんからクラスの様子を聞いてた。

「初めて友達ができたの!クラスにまだ馴染めないんだけど、友達がいるから大丈夫」

 とびっきりの笑顔で話してくれた。それは博樹君にとって自分のことのように嬉しかった。

 なのに、その友達が梢ちゃんの事をあの子呼ばわり。

 博樹君は梢ちゃんを悲しませたくない一心だった。


 それから一週間も経たない頃だった。

 梢ちゃんの目の前で博樹君が言い放った。

「ボクに近づくな、梢ちゃんの面倒見るのはもうウンザリだ!!」

 学校からの帰り道、三人で帰っている時だった。

 なんの前触れもなかった。そぶりすらも。

 けれど、とても嘘と思えないほど博樹君の言葉には真実味があった。


「ごめんなさい」

 梢ちゃんはそう言うと二人の前から走り去った。

 友達は突然の事であっけにとられたが、すぐに堪えきれないようににやにやと笑い博樹君にすり寄った。

 けれど、博樹君は友達を冷たく突き放した。

「ボクに近づくな。君は梢ちゃんの友達なんかじゃない」

「…そんな事言っていいの?私が離れたらあの子クラスで独りぼっちになるよ」

「もう梢ちゃんは戻らない。だから君の事なんてもうどうでもいいんだ」

 目の前に居る博樹君は友達の知っている優しい博樹君とはあまりにもかけ離れていて、それまで抱いていた淡い恋心や憧れが一気に冷めるを通り越して恐怖さえも感じた。

 友達は梢ちゃんと反対方向に走り去った。


 話を終えた幸恵さんはゆっくり一つ呼吸をして私を見た。にっこり微笑む幸恵さんの顔は「さぁ、質問をどうぞ」と言っていた。

 質問は山のようにある。

「どうして博樹君はそんな事を?」

「梢ちゃんを守るためよ。梢ちゃんが傷つかずに友達から離す方法。博樹君はね、梢ちゃんが友達に裏切られたと感じることを何よりも恐れていたの」

「だから自分が裏切ったと?」

「友達に裏切られたと気づく前に手を打ちたかった。博樹君は自分が梢ちゃんを拒めば離れることを知っていたの。それまで博樹君は梢ちゃんに怒ったり怒鳴ったりしたことがなかったらしいから…梢ちゃんには相当なショックだったと思うわ」

 博樹君が自分を追い詰めていた理由はわかった。確かに友達から梢ちゃんを離すのが得策だと思う。下手に梢ちゃんを庇えばクラスの中で虐められたのは確実だったろう。

 それでも、梢ちゃんが博樹君を庇う理由がわからない。

 そんな私の頭の中を見透かすように幸恵さんは言った。

「梢ちゃんはね、一番近くで観察していたのよ」

 それは梢ちゃんが生きる上で身につけた力。

「気づいたのよ。友達だと思っていた人が自分のことを友達だと思ってなかった事に」

「そんな!」

「多分気がついたのは引っ越してきてからね。一人で居る時間が増えたし、考えずにはいられなかったと思うわ」

「じゃあ、なんで梢ちゃんは…」

「あなたなら分かるんじゃないかしら?」

 じっと幸恵さんの目が私を捉える。その目は決して笑っていなかった。


「あなたはどうやって救われたの?」


 幸恵さんからその言葉を耳にした時、どうして私だったのかようやく分かった。


 

過去編そろそろ終わりが見えてきた〜

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