23話 宮下翔子物語4
行動は梢ちゃんが学校に行っている間に全てするようにした。
梢ちゃんのハトコの住所はロックのかかる携帯に入れ、メモはビリビリに破いてから水に浸して生ゴミのゴミ袋に捨てた。
地図をめくって、携帯を見ながら探すと思っていたよりも近くにあった。
ここより、5駅離れた街だった。県外だったら行くだけでも骨が折れる。けれど、移動の面はさほど考えなくて良さそう。
それにしても、意外と近くに引っ越したのね。
でも、それはよくよく考えてみると凄く妥当なものだと気が付いた。
二人の仕事場の事もあったからさほど遠くへは引っ越し出来ない。
でも、梢ちゃんは離れたがった。
5駅というのはなかなか良い距離だ。仕事場から離れるが通えない距離じゃない。でも転校はしなければならない。
それに小学生の行動範囲に限界がある。偶然、前の学校の子と会う可能性もぐっと減る。
全てがちょうどいい。これは偶然?いいや、気にしないでおこう。今は関係無い。
さてと、場所はわかったし、次はどうやってその子に会いに行くかね。
その前に下調べした方がいいかも。
「ただいま」
「おかえり梢ちゃん」
「わ〜、良い匂いがする」
「ケーキ焼いたの。一緒に食べようか」
「手洗ってくる」
「うがいもよ〜」
「はーい」
もちろん、私はその場所に行った。けれど思ったような結果は出なかった。
聞き込みが出来れば良かったけど、子供を公園で遊ばせなくなったこのご時世。不審者になるのはごめんだ。
こういう時は使える物は何でも使う。コネでも信用でも…そう言ったのは幸枝さんだったけ?
笑って言う幸枝さんと言葉のギャップに驚いたのは覚えていた。でもどんな場面で言われたのかまでは思い出せない。
私が使えるの物は限られてくる。けど、使えない物が無いわけじゃない。
使った結果は意外と早く、3日後にやってきた。
電話がかかってきたのは昼頃だった。出ると相手は梢ちゃんの先生だった。
「この間、頼まれたことで」
「ありがとうございます。忙しいのに、面倒な事を頼んでしまってすみません」
「いいえ、これくらい。それに前の学校へは梢ちゃんの事で聞いたりしてましたから。それで、梢ちゃんのハトコの子。小学6年生で、リーダーシップがって面倒見が良いみたいです。評判は良いですよ。梢ちゃんの時とは違っていらない情報まで色々出てきました。口頭で伝えるには多いのでファックスで送りますね」
「それは、ありがとうございます。何かわかったらまた連絡しますので」
「こちらも協力できることはしますので、それでは」
先生は短く話を終えた。もしかしたら、休憩の合間だったのかもしれない。
ファックスはすぐに届いた。届いたのは三枚の文書。それを一枚ずつ写メしてから内容を携帯の中に打ち込んでビリビリに破いて水に浸けた。
けれど紙はなかなか水が染み込まず、文字もあまり滲まなかった。シュレッダーにかけたい気分だったけどそんな便利な物はなく、百均で買ってきた灰皿の中にちぎった紙を入れて燃やした。
証拠隠滅
私は徹底的にそれをした。
そして、その子と直接会う日がやってきた。
私はその日、同窓会に行くと言って家を出た。土曜日で梢ちゃんが1日家にいるけど、幸枝さんが梢ちゃんの相手を引き受けてくれた。
私は電車に揺られ、梢ちゃんが元々住んでいた街に着いた。小さな駅にその子は居るだけで目立った。まだ成長しきれていない身体にまだ幼さが残る顔。どこか儚さが漂っていて…少しだけ梢ちゃんに似てると思った。その子はすぐに私に気がついて駆け寄ってきた。
「こんにちは、あなたが宮下さんですか」
「そうよ」
「幸枝叔母様から聞いてます。行きましょうか」
幸枝さんに相談しといて本当に良かった。この子とどうやって会うか。それが最大の難関だったけどそこは幸枝さんに頼んで身内のコネを使わせてもらった。
小さな背中に先導されて、私は歩いた。
辿り着いたのは、その子の家だった。一度下見したし、それくらいは覚えていた。梢ちゃんの家はこの家から二軒離れた向かい側にある。超ご近所さん。
「えっと…」
「大丈夫ですよ。父も母も今日はいませんから。それにこんな子供と喫茶店に入る方が目立ちますよ」
私は見くびっていたらしい。リーダーシップがって面倒見が良くって評判の良い子。人間それだけなんてありえない。この子は分かってて周りからそう評価されてる。頭の良い子だ。
「それじゃあ、遠慮なくお邪魔するわ」
リビングに通されるとその子は当たり前のように私の前に温かいお茶を出した。良くできた子。そう評価されるのが分かったような気がした。
「改めて、自己紹介するわ。私は宮下 翔子。今梢ちゃんと一緒に住んでるわ」
「僕は木野村 博樹です。…梢ちゃんのハトコです」
さて、私はどうやって博樹君を攻略しようかしら。