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22話 宮下翔子物語3

 時間は午後2時。私は小学校の正門にいた。


「こんにちは、宮下さんですよね」

 私を迎えてくれたのは、私よりは年上だけどまだ若い女の先生だった。

「私、梢ちゃんの担任の河野(こうの)です。どうぞこちらへ」

 私は正面玄関から堂々と校舎に入った。梢ちゃんに見つかったらどうしようと思っていた私は相当ビクビクしてたらしい。

「大丈夫ですよ。生徒は今授業中ですし、この辺りは校長室や応接間ですからあまり生徒は近づきません」

「そうなんですか」

 ここまでの配慮。やはりこの人、梢ちゃんの事情を知っている。

 

 私が通されたのは長机がコ字型に並べられた部屋だった。多分、会議室か何かだろう。

 私は先生と向かい合うようにパイプ椅子に座った。


 最初に口を切ったのは、やはり先生だった。

「宮下さんは梢ちゃんの事どれくらいご両親から聞いていますか」

「突然梢ちゃんが引っ越したいと言い出した事とその原因がわからない事、…それと、今でも悪い夢にうなされいる事くらいです」

「そうですか」

「今日、私が来たのは梢ちゃんの両親が忙しいのはもちろんですけど、ここ二週間程梢ちゃんと一緒に暮らしています」

「わかってますよ。梢ちゃんもご両親も宮下さんを信頼している事」

 にっこりと先生は笑った。

 その笑顔で私は神経質になってる事に気づいた。ゆっくりと呼吸をして気分を落ち着かせる。

 私がこの人を疑ってどうする。


「今日、お呼び立てしたのは友達の事です。梢ちゃんは素行も成績も優秀ですし、大人しいですけれど、物事に取り組む積極性もあります。…ただ頑なに友達を作ろうとしません」

「梢ちゃんが?作れないのではなく?」

 私が知る梢ちゃんは真直ぐで優しい子。友達なんていらないなんて言う捻くれた子じゃない。

「はい、クラスの子が遊びに誘っても、私がクラスの輪に入れようとした時も頑なに拒みました。以前の学校ではイジメはなかったと聞いています。心当たりは無いでしょうか」

「私には分かりません。ご両親に聞いてみます。すみません、お役に立てなくて」

「いいんです。梢ちゃんの近くに宮下さんのような人がいる事がわかっただけで十分です」


 それから先生としばらく他愛ない話しをして小学校を後にした。


「ただいま」

「お帰り、梢ちゃん」


 先生の配慮もあり、私はいつも通り梢ちゃんを迎える事ができた。


 梢ちゃんが寝た頃。私は梢ちゃんのお母さんに電話を掛けた。

 二人共今日は帰れないと聞いていたから。報告は早い方がいいし、それに聞きたい事もあった。

「はい、山城です」

「今晩は、宮下です」

「宮下さん、どうしたの?何かあった?」

「いえ、今日小学校に言って来たので、その話を。時間ありますか?」

「ええ、大丈夫よ。今一区切りついた所だから」

「梢ちゃん、今の学校では評判良いみたいです。成績優秀で素行も良いと。ただ友達を頑なに作ろうとしないそうです」

「自分から友達を拒否してるって事かしら」

「そうみたいです。前の学校で仲良くしていた友達に心当たりありませんか?」

「その子の所に直接行くつもり?それは梢が一番嫌がる事じゃないかしら」


「私、いつまでも梢ちゃんに悪夢を見せるつもりはありませんよ」

 時間が解決してくれないと分かったなら、行動あるのみだ。


「…本当、あなたは幸枝(さちえ)叔母様が寄越しただけあるわ」


 幸枝さん、私にこのバイトを紹介してくれた私の実家の近くに住んでいる小柄なお婆さん。

 コンビニのバイト、いわゆるフリーターをしていた私に「子供は好き?」と突然お手伝いさんのバイトを紹介してきた。

 「少し訳ありな子なんだけど」と言われていたのに、安易に引き受けた私も私だ。


 小柄でいかにも優しいお婆さんだった幸枝さん。

 もし私の性分を見抜いて頼んだなら幸枝さんはかなりの切れ者。

 きっと私はこの家庭の爆弾になる。

 私は割と目的の為なら手段を選ばない人間の部類に入る。


 梢ちゃんを助けたいと思うなら方法はいくらでもある。


 梢ちゃんを傷つけたくないなら周りから攻略すればいい。

 私は知っていた。黙っていれば傷つかない事がある事。


「わかったわ。きれいごとだけで解決する事なんて何もないわ。私もよく知ってる」

 流石、やり手の検事だ。腹が据わるのが早い。

「梢は小さい時、病気がちだったから友達がなかなかできなかったの。でもハトコのお兄ちゃんが近くに住んでてね。よく面倒を見てくれてたわ。だから、その子に聞けば何か分かるかもしれない」

 私はその子の名前と住所を聞いて電話を切った。

 それから私はひっそりと梢ちゃんの部屋に入った。

 梢ちゃんは今日も、うなされていた。起きる一歩手前だ。

 私は汗ばむ梢ちゃんの手を握った。

 しばらくすると唸り声の代わりにスースーと静かな寝息に変わった。

 私が初めて泊まった日以来、梢ちゃんは吐いていない。

 それは、夜な夜な私がこうして手を握っているから。


 あなたは誰の手にすがっているの?

 まだ小さな手が私に甘えようとした事がない。

 差し出せば拒まない。けれど、自分からは決して手を伸ばさない。

 その姿が痛々しくて、胸の奥がキューと締め付けられて苦しくなる。


 守ってあげたい、助けてあげたい。


 そう思うのは自然な事だった。


梢ちゃんの過去は結構長くなるかも。気づいたら10話くらいになってたりして( ̄∀ ̄;)

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