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20話 宮下翔子物語1

突然ですが、梢ちゃん家のお手伝いの宮下さんの視点です。

やっと書けるぜ!イエ───(σ≧∀≦)σ───ィ 夜中のテンションは恐ろしいですね。

「宮下さん。夏休みにリベンジです!」

 帰って来るなり梢ちゃんは私にそう告げた。

「果たし状でも書くつもり?」

「それは良いかもしれません♪」

 楽しそうに話す梢ちゃんから、夏休みもう一度鼓君を家に呼ぶつもりだという事を聞いた。

 良い人と巡り会えた梢ちゃんは実に微笑ましかった。


 私、宮下 翔子(みやした しょうこ)が山城家に来たのは私が20歳の時。お手伝いさんとしてこの家に来た。その時の梢ちゃんは小学4年生。季節は秋で二学期がちょうど始まった頃だった。

 子供の世話をするのが私の本来の仕事だったけど、あの時の梢ちゃんは殆ど話さない子供だった。

 それなりに事情があるのは知らされていた。小学4年生の夏休み中に突然転校する子。表向きは親の都合と言うことになっているらしいが、子供のために引っ越しまでしたのだがら、原因は多分虐めじゃないだろうかと私は思っていた。

 両親は夜遅くまで帰って来ないので、私は夜まで居た。その分バイト代も良かった。

 梢ちゃんは聞き分けがよく。喋らなくても頷いたりして意思表示が出来たので、実に手のかからない子だった。


 だから勤めて一週間後、住み込みで働いてくれないかという頼みの意味がわからなかった。だけど、私は引き受けた。梢ちゃんの両親はいい人達だったし、梢ちゃん自身も良い子だ。断る要素なんて一つもなかった。

 しかし、過保護過ぎるんじゃないかと思っていた私の考えは、一夜で吹き飛んだ。


 慣れない環境での眠りは浅く、夜中に水でも飲もうとキッチンへ向かうため廊下を歩いていた。すると一つのドアから光りが漏れていた。

 そこはトイレで特に気にすることなく通り過ぎようとしたその時。

「ゲホゴホッコホ…」

 私は躊躇いなく、トイレのドアを開けた。そこには蹲った梢ちゃんがいた。

「梢ちゃんっ、大丈夫!」

 私は小さな背中をゆっくりとさすった。ちらりと便器の中を見ると、嘔吐物らしき物はなかった。

 吐けない?それとも流した後か。

 梢ちゃんの息が落ち着いてきたのを見計らい。私は梢ちゃんをリビングへ連れて行った。

 ソファーに座らせ、私はコップに水を入れて梢ちゃんの前のローテーブルに置いた。

 梢ちゃんは何も言わずにちびちびと水を飲む。

 私は梢ちゃんの隣に座った。手を観察してみるけど、吐きダコのようなもの無かった。日常的に吐いてる訳じゃない?

 私はもう一度、梢ちゃんの背中をゆっくりさすった。いつどこで梢ちゃんの張り詰めた糸が切れるか分からなかった。だからさっき拒まれなかった背中をさする。

 梢ちゃんは私の手を払う素振りも見せなかった。

 コップの水を半分飲み終わり、もういいと言うように梢ちゃんはローテーブルにコップを置いた。

 もう、大分落ち着いたかな。


「梢ちゃん、少し質問していい?」

 梢ちゃんは分かっていたのだろう。素直にコクリと頷いた。

「夜になるといつもああなるの?」

 梢ちゃんは首を横に振った。

「どういう時になるか、わかるかな?」

 小さな声で梢ちゃんは呟いた。

「……夢を見ると…」

 流石にどんな夢?とまでは聞けなかった。それが悪夢である事は間違いなさそうだ。

「梢ちゃん、一緒に寝ようか。梢ちゃんが夢の中で助けを呼べるように手つないでね」

 コクコクと梢ちゃんは頷いた。良かった嫌がられなくて。


 人の体温はそれだけで安心する。その証明のように手をつないでベッドに入ってから梢ちゃんはすぐに寝息を立て始めた。私はこの子の事を軽く考えていた。虐めなら新しい環境と時間が忘れさせてくれると思っていた。

 私の考えは甘かった。


 この子は小さな身体に抱えきれないものを抱えている。


 翌日、梢ちゃんが学校に行ってから梢ちゃんの両親に昨夜の事を話した。


「あの、梢ちゃんに何があったか教えてもらえますか」

 流石に事情を知らなければこれから対処の方法も考えられない。私は当然予測された質問だと思っていた。

 けれど返ってきたのは困った表情と思いがけない言葉。


「それが、私達にもわからなくて」

「…それは虐めの原因がわからないという意味ですか」

「そうではなく、梢が…ああなった理由が分からないんです。ある日突然、離れたいと言うばかりで、虐めも疑いましたが梢からも学校側からも虐めは無いと言われました。梢とも話しましたが…その、話そうとすると吐いてしまって。私達も何が梢を追い詰めているのか分からないんです」

 私の手が梢ちゃんのお母さんに握りしめられる。

「梢をお願いします」

 その姿は神様に祈るように見えた。

 

 父親は医者で母親が検事。完璧な肩書きの家庭で私はどこか冷めているんだろうと勝手に思っていた。

 それは違った。親にエリートも庶民も差は無い。


「わかりました」

 私は覚悟を決めた。私はこの人達から梢ちゃんを預かる身だから。



やっと書けた宮下さん(p゜∀゜q)♪

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