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19話 二人きりの部室


 俺達は部室でノートを広げで真面目に試験勉強していた。


 博樹さんと山城の話、凄く気になる。当人同士でしか分かり合えない会話。

 過去に何かあったのはなんとなくわかってたけど。


 でもそれは俺が思っていた物よりきっとずっと重くて暗い。


 知りたい、聞きたい。


 ちょっと前、多分山城に会う前の俺だったら「面倒くさそう」と言ってそそくさと逃げていただろう。

 けれど、今は違う。凄く気になる。「昔何があったの?」と聞きたい。

 

 でも、それは無神経だろうか?


「鼓」

「えっ、なに」

「さっきから手が止まっていますよ」

「…あ〜、うん。ちょっと分かんない問題があって」

 全然集中できないや。今日は適当に切り上げて、さっさと家に帰るか。


「鼓は今まで一度も聞いた事がありませんね」

 それはまるで「昨日あの番組見た?」と聞くみたいに軽い何気ない切り出しだった。

「えっ?何が」

「私と木野村の事です。今までのやり取りを見ていれば過去に何かあった事は明白です。わかっていながら聞かないのは優しさですか?」


 今更ながらに思う。山城は俺を美化し過ぎている。

 俺は今ここで「言いたくないなら言わなくていいよ」とカッコつけるべきだろうか。いやそんな薄っぺらい見栄を張った所で山城は嘘だと気づくだろう。

 嘘をついて責められるより、正直に伝えた方が心苦しくない。こんな風に思うようになったのは山城の性格がうつったせいだろうか。


「聞いていいのか、山城?」

「ええ、鼓が知りたいなら。というより、今までずっと蚊帳の外でしたよね」

 そうだよな。山城が気づかない訳ないか。


 山城は静かに語った。できれば触れて欲しくなかった過去、触れたくなかった思い出を。

 なるべく客観的に、平静を装い、過去の事として。





「…でも、私。少し木野村に感謝しているんです。木野村に出会わなければ鼓と友達になる事はありませんでしたから。あっ、でももちろん許すつもりはありませんよ」


 全くこの人はどこまでお人好しでピュアなんだ。


「もう、こんな時間です。帰りましょう」

「そうだな。…部室の鍵は俺が返しておくよ」

「あのっ、それは…」

 露骨な気遣いに見えてしまうか。あの話を聞いた直後だしな。

「山城、辞書は持ってるな」

「はいっ」

「じゃあ、気をつけて帰れよ」

 「気にするな」とはあえて言わなかった。


「鼓っ、あの…」

「どうした?」

「メアドを教えて下さい!」

 なんだこの背中のむず痒さは。なんだ、これはどういう展開なんだ?つーか、今このタイミングで!

「夏休みにリベンジを計画していますので、日にちのやり取りで必要かと思いまして」

「山城、何の話だ?」

「鼓を家に招くリベンジです!」

 はぁ…そういうことですか。

 俺は携帯を出し、その場でサクっと赤外線でアドレスを交換する。

 そうだよ、携帯って便利な物があるのになんで今まで気がつかなかったんだろう。

 携帯を必要としないくらい俺達は偶然的に会っていたのだ。


 山城を見送り、博樹さんを探そうと校舎へ戻る。もしかしたらもう帰ったかもしれない。いや、普通なら帰ったと思うだろ。けれど俺はまだ博樹さんが大学内にいるような気がした。


「やぁ、鼓君」

 そして俺のカンは当たった。相変わらず博樹さんは気配を消して俺の後ろに立っていた。

「博樹さん、これ部室の鍵です。今日はありがとうございました」

「君は梢ちゃんに似ているね」

「え?」

「とても律儀だ」

 博樹さんが受け取った鍵を無造作にズボンのポケットに突っ込む。


 俺と山城が似てる?笑わせるな。


「山城を誰だと思ってるんですか」

「ん?」

「山城は気づいてますよ。博樹さんの嘘に」

 博樹さんの顔から笑みが消えた。余裕の無い博樹さんの表情を初めて見るかもしれない。

 直接山城の口から聞いた訳じゃない。でも言動でわかる。

 嫌っているというのに、拒みはしない。博樹さんから本気で逃げた事もない。

 口では「冷たい人」とは言っても、「根っから悪い人じゃないでしょ」と聞けば否定しなかった。

 そして、今日昔の話を聞いた。

 言動と矛盾しているように見えた。嫌う理由がハッキリあるのに拒まない山城。

 でも、本当の理由を知ってるとするなら…真っ直ぐで頑なな山城らしいと思った。


「山城はもう、昔の山城じゃないんです」

「じゃあ、なんで俺を避ける」

「だから許してないんです。山城は真っ直ぐだから、多分きちんと謝らないと許してくれないと思います」

「俺に蒸し返って?」

「俺は蒸し返して聞きましたけどね」

「……」

 逃げているのは山城の方じゃなかった。

 近づいてきたのは博樹さんだったけど、本当に逃げていたのは博樹さんの方。

 冗談のように付きまとって、軽い雰囲気で過去に少しだけ触れる。そして突然、思いついたように自分の想いの欠片を吐く。


「山城は頑なです。だから明確なきっかけが欲しいんです。今日みたいな冗談のように聞こえるものではない」


「博樹さん。前に山城は「人のためなら自分は嘘をつける」と言いました」

 

 その時、そんな事考えていなかっただろう。だからこそ、それが山城の本音だと思う。 


「それでは、ダメですか?」

「まさか、君にダメ押しされるとはな」


 博樹さんは肩をすくめ、そして笑って俺に背を向けて歩き出した。

 その表情がどこか吹っ切れたように見えたのは俺の気のせいだろうか。



おおっ、なんでこんな展開になってんの!!勝手に動きすぎだよ君たち ∑( ̄Д ̄;)

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