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15話 続 小春日和 VS 大和撫子

 体育館に集まった人達を見て山城は驚いていた。

「すごい人ですね。文化人がこんなにもいたとは驚きです」

 まぁ、全員が文化人な訳ではないが。

 自分が客寄せパンダとして利用されてるなんて言ったら「そんなの正しくありません!」とか言って怒るんだろうな。


「やぁ、梢ちゃん。来たね」

「木野村と違って私は約束を守るんです」

 今にも噛み付きそうな山城を博樹さんはいつもの爽やかな笑顔で迎える。


「そう警戒心丸出しにしないでよ。準備はもうできてるから」


 そう言って博樹さんは俺達を体育館の奥へと連れて行った。

 そこには四方に散りばめられた取り札と二つ対峙するように座布団が置かれていた。


「どうぞ、梢ちゃん」

 博樹さんに促されて山城は座布団の上に正座する。続いて博樹さんも正座した。

 もし二人が和服で、ここが体育館じゃなかったらさぞ、絵になる光景だろうとその場にいた人間は思ったんじゃないだろうか。

 やっぱり美形は血筋か。何やっても様になるな。


 自然と周りに人が集まってきた。当たり前だ、この勝負を見にわざわざ来たのだから。

 きっと山城はそんな事気づきもしないだろう。


 山城が真っ直ぐ博樹さんを見据える。一瞬で空気が張りつめた。


「鼓は私が守ります」


 後ろで「キャー」と女達の黄色い悲鳴が上がった。あっ、こんなに女子居たんだ。

 それにしても、山城には言葉の意味しか無いってのはいい加減わかってるけど…。

 聞かされる身にもなって欲しい。

 言い聞かせた所でわからないだろう。なんせ無自覚だからな。


「約束は守ってね、梢ちゃん」

 博樹さんはいつだって笑顔だ。知らなければ道ばたでおばあさんを助けていそうな好青年だ。余裕たっぷりにも見える。


「勝負です!」


 ゴングが鳴りそうな勢いだが当然そんな物が用意してあるはずもなく、伝統芸能サークル部、部長さんの「それでは始めます」という声で静かに百人一首勝負は始まった。


「花の色は〜 移り」

「はい!」

「ながらへば〜 ま」

「はい!」

「きみがた」

「はい!」

「わたの」

「はい!」

「みか」

「はい!」

「ちは」

「はい!」

「わ」

「はい!」

「ふ」

「はい!」

「い」

「はい!」


 スパーンといい音をたてて次々と取り札に手が伸びる。


「…君たち、エスパー?」

 読み上げていた部長さんがそう零した。


 二人とも一歩も引かない勝負だが。

「最初の一音だけで、お手つき無しで取るなんて何ていう運でしょう」

 百人一首は語呂合わせで俺は覚えたことがある。上の句がある程度読まれれば下の句も必然的にわかるものだが、最初の一音では被り過ぎている。

 それをこの二人はいとも簡単に目の前でやっている。


 …超人か?

 あまりにハイスピードな二人にギャラリーはポカーンとしている。百人一首の優美さなんて欠片も見えない。

 確実に何か超えてるよ。

 

 初っぱなからハイスピード百人一首が始まり、たったの20分で取り札は1枚になった。

 見てる側としては早過ぎて面白くない。盛り上がる場所も分かんないし、やっぱりやってこその百人一首だな。けれど誰一人としてその場から立ち去る人間はいなかった。

 勝負は本当に互角だった。


「梢ちゃん、約束はちゃんと守ってもらうからね」


 一枚の差で山城が負けた。


「すみません、鼓。私は守れませんでした」

 前から思ってたけど、なんで俺守られてんだろう?

 もしかしてこれから酷い事されんのか!


 さっきまでスッと伸びていた山城の背中が小さく丸くなっていた。


 全く、なんで山城は一人で頑張ろうとするんだろう。

 こんな時なんて声をかけたら良いんだろう。


 気がつくと俺はそれが人前だと言う事も忘れ、山城に駆け寄り、正面に座った。

 山城の顔が上がる前に俺は山城の頭に手を置いた。


 なでなでなでなで


 なぜかわからないが、山城が落ち込んでいるのはなんだか嫌…というより苦手だ。


「…鼓?」

「よく頑張りました」


 山城はいつも頑張ってる。正しいと人に言う為には自分も正しくなければいけないと思っている。

 まぁ、ちょっと頑固で融通が効かないけど。

 他人からどう言われようと崩さない姿勢。貫き通す努力。

 ピンと伸びた背中はそれを象徴している。

 結構凄いって思ってるんだけどな。


 山城は小さな声で呟いた。

「…ありがとう」


 パチパチと手を叩く音がしたかと思うと一気に拍手の嵐がやってきた。

 そこで俺はここが人前である事を思い出し、山城から手を引いた。

 やべぁ、かなり恥ずかしい。

 なんで拍手されてるかわからないまま俺は山城を体育館から逃げるように連れ出した。

 

 体育館から離れて校内の中庭まで来た。自然と掴んだ手は自然と離れていく。

 そんな時、山城はケロリとした顔で言う。

「なんだか、花嫁を連れ去って行くシーンを思い出しました」

「えっ!」

「どうしました、鼓?」

 あ〜もう。わかってるけどね。

「なんでもない」


「これからどうする?」

 目的だった勝負も取りあえず終わった。

「はっ!負けてしまいましたが、どんな要求であっても微力ながら鼓を守りますから」

 本当に何をされるんだろう。

「山城は具体的に何されるか知ってるの?」

「それは聞かない方が身の為です」

 え〜!そんなに!!ヤバいかな、俺甘く考えてたかな。


「み〜つけた」

 振り返るとそこに博樹さんがいた。

「梢ちゃん、もちろん覚えてるよね」

「そんなつもりで逃げた訳ではありません」

「それくらいわかってるよ。鼓君も面白かったし」

 面白いって…そうか見る人によって感じ方は違うんだな。

「その面白さに免じて、今回は部員全員にジュースをおごること。これでいいよ」

「えっ、どういう風の吹き回しですか!」

「だから鼓君の面白さに免じてだよ。それとも不満?」

「いいえ!喜んでおごりましょう」


 二人はズンズンと進んで行く。

「鼓、行きますよ」

「ああ」


 ちょっとだけ、気になって。少しだけ取り残された気分になった。

この先、こんな感じでサークルを手助けしながら話が進んで行くと思われます。このサークル登場させて欲しいと言う人は是非教えて下さい。

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