14話 小春日和 VS 大和撫子
周囲の視線が痛い。というより目の前の視線も非常に居心地を悪くさせてる。
「山城、博樹さん」
「なんですか」
「なに?」
「非常に食べづらいんですけど」
「「気にしないで(下さい)」」
今、俺は食堂で飯を食べてるのだが、俺の隣には山城(まぁ、それはいい)と目の前には見た目は好青年だけど実は腹黒青年でサークルの部長の博樹さんがいる。
あ〜あ、また変な噂がたつな…。
事の発端は多分、サークルボランティア部、通称「助っ人部」に半ば強制的に入れられた事。
なぜか山城は俺を守る使命感に燃えていて、できるだけ俺と一緒に行動しようとする。
博樹さんはそんな山城をからかう目的で、狙ったように俺達の前に現れる。
「山城、自分のことくらい自分で守れるぞ」
「木野村を甘く見てはいけません。人の弱みを握る天才ですから」
「そこは否定できないけど。いくらなんでも警戒しすぎじゃない梢ちゃん」
そんな状況を楽しんでるのはアンタだろ!と口に出したい所だが公衆の面前で大声を出す気はない。
折角のカレーが全然おいしく感じない。
「二人に一つ提案があるんだけど」
「木野村の提案なんて絶対に聞きません」
爽やか笑顔を山城はスッパリと跳ね返す。
「俺はそれでもいいけど、鼓君が不登校になっても知らないよ」
「鼓に何をするつもりですか!」
現在進行形で追いつめられてるんだよ、山城。周囲の視線とか視線とか…。
下心には敏感なのに、どうして山城は気がつかないんだろう。まったく不思議だ。
「そんなに警戒しないでよ。コレに参加して勝った方が相手の言う事何でも聞くってのはどう?」
博樹さんは一枚のチラシをテーブルの上に置いた。
「百人一首大会?」
そのチラシには今週の日曜日に大学の体育館で伝統芸能サークル主催で百人一首大会が開かれると書かれていた。
「これで、俺と梢ちゃんの一騎打ち。どう、わかりやすいでしょ」
「確かに、人の目もありますし、不正もしにくいですね」
山城の中でこの人はどういう人なんだ。
「そう、正々堂々真剣勝負。いい条件でしょ」
「わかりました。受けて立ちましょう」
まあ、百人一首なら平和的だしいいか。
そしてやってきた日曜日。俺は山城達の戦いを見ようと体育館へとやってきた。
「やあ、来たね鼓君」
待ち構えていたように体育館の入り口に立っていた博樹さんの爽やかな笑顔に捕まった。
「…こんにちは」
「はい、これ」
さも当たり前のように渡されたのは食堂で出したあのチラシの束だった。
「学校に来てる生徒適当に呼び込んできて。なんなら教授でもいいし」
「なんで俺が?」
「サークルボランティア部の部員だろ」
「……」
「梢ちゃんはあと一時間くらいしたら来るはずだからその前に配りきってね。よろしく」
休日に学校に来てる人間はそうそうおらず、チラシを半分も減らないまま一時間が過ぎた所で体育館に戻ってみると中には人が溢れていた。
なんで!
わざわざ百人一首やりにきたのか。みんな物好きだな。
人々の間から博樹さんがヒョッコリ現れた。
「鼓君。チラシは?」
「あの、全然配れなくて」
減ってないチラシの束を博樹さんに見せた。
博樹さんは減ってないチラシを気にする様子もなく、チラシの束を持って俺を体育館の中に引き入れた。
「まぁ、これだけいれば十分でしょ。こっちを手伝って」
「なんでこんなに人が」
ただの百人一首大会にこんなに人が集まるとは思えない。
「俺と梢ちゃんの勝負見たさに集まったんだよ。まったく暇人が多いんだね」
「なんで、みんな知ってるんですか」
「食堂は不特定多数の人が集まってる。話なんてあっと間に広まるよ」
「ちなみに、鼓君目当ての女の子もいるから」
「はぁ!?」
「はい、座布団並べて。それ終わったら見物客に百人一首勧めろ。奥にカルタもやってるからそこでもいい」
問答無用で言い渡される。笑顔ってのが逆に怖いんだよ。
「…はい」
俺は見事にいいように使われていた。
俺も他の人達と同じように山城と博樹さんの勝負を見に来た人間だ。けれど肝心の勝負が始まらなければ手持ち無沙汰でしょうがない。
そこへ降り注いでくる博樹さんの指示、暇だからいいかと思っていたらしっかり使われてるぜ、俺。
周囲も俺と同じだったらしく、暇を潰すように今やっている試合の様子を見たりカルタのコーナーは結構人が集まっていた。
「あっ、鼓」
「おう、山城。遅かったな」
「えっ?遅いですか。変ですね、10分前には着いたと思ったんですが」
山城はあの時食堂で貰ったチラシを取り出した。
そこには開場時間午前10時と書かれている。しかし、山城は隅に書かれた小さな文字を指差した。
そこには、個人戦は正午より開催と手描きで書かれていた。
チラシ自体が手描きだからさほど違和感を感じないが、さっきまでチラシを配ってた俺にはわかる。他のチラシにはそんな文章、一文字も書かれていない。
単純に考えると博樹さんが書き足したんだろう。
なるほど、全て計算ですか。
次回、百人一首勝負です。