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10話 三日前。

 いつの間にか六月も中ごろまで過ぎ去っていた。

 山城と知りあってから時間が経つのが恐ろしく早い。

 

 ずっと一緒に居る訳じゃないんだけどな…不思議だ。

 梅雨入りして一週間経つが、雨は今日もシトシトと降っている。


「秀平君♪」

「……」

 俺の運は尽きたのか、朝っぱらから明日也に捕まった。


「この前、山城さんと校舎裏で何の話してたの?」

 いや、運はとっくの昔に尽きている。明日也と知り合った時、既に。

 

「……普通に、世間話だよ」

「ふーん、告白されたんだ」

「……」

「なんて、噂が流れるかもね♪」

 クソ、明日也。


 適当に話をかわす事も出来ず。

 結局、山城と友達になった事から山城の自宅に訪問したことまで根掘り葉掘り話す羽目となってしまった。


「そっか、お友達ね。ふーん」

「なんか言いたげだな」

「口止め料として昼飯おごって」

「なんで」

「また噂の的になりたいの?」

 バカっぽく見えてずる賢い明日也は実に嫌な奴だ。


「…500円以内なら」




「鼓、お隣の人は誰ですか?」

 場所は食堂。たった今、俺が明日也に昼飯を奢っている所に山城が現れた。

 全く、なんてタイミングだ!


「俺は秀平の友達。ねぇ、山城さんも一緒に食べようよ」

 今更ながら明日也の猫かぶり具合には少しだけ感心する。

 よくも、そんな爽やかさを振りまけるな。


「いいんですか」

 ああ、そこは明日也の下心を感じ取って断って欲しかった。


 雨の為いつもより混雑している食堂で視線に晒されながら俺は空いている席に座った。

 山城はごく自然に俺の隣に座った。

「……山城?」

「はい」

 それが当たり前だと言うように。


 はぁ。これって明日也に飯奢らなくても噂になるじゃん。

 そして明日也は面白そうに笑って俺の向かい側の席に座る。

「自己紹介がまだったね。俺は川端明日也。秀平とは中学からの友達なんだ」


 明日也が差し出した手を山城は見つめるだけで、取ろうとはしなかった。

 その代わり、俺と明日也を交互に見て言った。


「鼓、友達は選ぶべきですよ」

 驚いたのは明日也だけだ。

 そうだ、山城が気づかない訳ない。


「そのような薄っぺらい笑みでは下心は隠せませんよ」


 カッコイイっっ!

 流石、踏んできた場数が違う。


「面白いね、山城さん。そういうキャラなんだ。なんか納得」

 明日也は平然と俺が奢った、オムライスを口に運ぶ。

「お前、まだ居るつもりか」

「えっ、うん。まだ食べてねーじゃん」

「そこは気まずくなるから、移動するだろ普通」

「えー、なんで。滅多に話さない山城さんと話してるんだ。これを逃す手は無いだろ」

 明日也は俺から山城へ視線を移し、にっこりと含みのある笑顔を浮かべた。


「それに山城さんだって秀平の事知りたいでしょ」


 全く嫌な笑顔だ。明日也は狙った獲物は絶対に逃さない。

 山城の場合、意味合いが少し違うが例外にはなれなかった。


「川端は本当に鼓の友達ですか?」

「川端じゃなくて明日也って呼んで。もちろん友達だよ。同じ中学だったんだけど、偶然大学も一緒だなんて、世間は結構狭いよね」

「鼓は中学の時どんな風でした?」

「う~んとね。優しいお兄ちゃんって感じ、もっと素直でスレてなくて純粋で、お人よしで…」

「明日也、やめろ」

 これは何だ、なんで目の前で俺の昔話を聞かなきゃならない。拷問か?


「いいの?山城さんはもっと聞きたいって顔してるけど」

「山城、目を覚ませ。コイツは俺をだしにしてるだけだ。山城には見えるだろ、明日也の下心が!」

「大丈夫です、隣に鼓もいますし」

 また、そんな誤解されるような言い方をっ!

「なんだ、友達なんて言って本当は…」

「違う、明日也!山城が言ってるのはそういう意味じゃない。俺はスタンガンと一緒だ」


「秀平、頭大丈夫?」


 あ~~。

「話変えるけど」

 おい、目を反らして言うな。


「16日だったよな」

「何が」

「誕生日」

「そうだけど、なんかくれるのか」

「誕生日プレゼントって事で合コンセッティングしていい?」

「そんな暇ない」

「クールで硬派路線もいいけど、ちょっとは遊ぼうぜ」

「…明日也、どさくさに紛れて俺の印象悪くさせようとしてんのか」

「あっ、バレた。だってそれだけ信用されてるとちょっとは邪魔したくなるじゃん」

「悪趣味」

「普通はそんな事気にせず飛びつくもんだぜ」


「16日って3日前じゃないですか」

「えっ」

「誕生日です。あれだけお世話になってる鼓に何もあげてないなんて…。なぜ、教えてくれなかったんですか!」

「…本当に友達なんだ」

 なぜ、今納得する。最初からそう言ってるのに。


「あのな、山城」


「鼓の為なら何でもします!」


「ゴホッ…」

 俺は慣れてるからさほどダメージはないが、明日也はまともに咳き込んだ。


「落ち着け山城。俺の誕生日は7月16日だ」

「7月…ですか。じゃあまだですね」


 俺達の会話がどれくらいの人間に聞かれていたか分からないが、明日には間違いなく煩わしい噂が飛び交うだろうと予測できる。

 はぁ、全くなんて日だ。



梢ちゃんと明日也の対面。

いつでも真直ぐな梢ちゃん。

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