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月と命と銀河鉄道

作者: Rchild


 こほん、と止まない咳が出る。


 私の手には始まりへの最終切符。


 今まで苦しかったんだ。何度叫んでも、何度願っても、届かない月の光。傷だらけの手を伸ばして。伸ばして。伸ばして、それでも。届かない星の光。


 アナウンスが聞こえる。私が乗り込む1番ホーム。列車が来る。座るのは13番席。硬い背もたれ。小さな鞄、ひとつ抱いて。


 窓から見える丸い月。強い光を反射して、華やいだ世界を映してる。今から私も彼処へ行くんだ。そう思って少し泣いた。


 小さな女の子が座る、私の前。小さな手に大きな飴玉。「はい」って渡されたのは泣いていたから?


 出発の汽笛がなった。薄い吐息が甘く香る。アメはチェリーだ。お似合いだ。車輪がレールを進んでいけば、埃を被った街の光がどんどん小さくなっていった。毎日立った公園のステージ。公演は夕方四時半。そこに目を向ければ光の点が──『行ってらっしゃい!』


 疲れた目の下を笑わせて、私は言うんだ──「行ってきます!」


 向かう宇宙そらに、レールを蹴って。鞄ひとつを抱き締めて。向こうに見える月のステージ、輝く未来に突き進む。後戻りなんてしないんだ。やっと掴んだ望みの先に、いま私は登るんだから。


 胸が高鳴る。吐息が汗ばむ。額をつけた窓ガラスが冷たくて心地いい。ぐんぐん近づく大きな月が曇るくらいに、熱が上がっていく。


 ああ、やっと叶うんだ。


 私の声が届くんだ。


 そう思うと、何でだろう。


 安心して手から力が抜けていく。


 声がする。女の子の声だ。はしゃいでいるのか言葉になっていない。細く開いた目蓋の向こうで女の子がしゃべってる。こっちを見てる。私を呼んでる。だから、ゆっくりまばたきをして笑いかける。


『私、今から夢を叶えるんだ。キミも見て欲しいな、私のステージを』


 そう言って私は眠る。緊張していたんだ。列車に乗って安心したんだ。だから少し眠らせて欲しいんだ。向こうについたら。月についたら。大きな声でキミに届ける。大勢の中からキミを見つける。


 だから。

 今は。


 私は息を長く吐き出した。


 気持ちが安らぐ。

 咳も落ち着いた。


 次に目が覚めればきっと私は夢の中で。

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