検証と意識
「なぁ?」
「っ…………」
なぁ?じゃねぇよ、という顔でリアクションを取る葵は手を口に添えながら視線をゆっくり下げて思考する。
「………………」
(何が起こってるの……私は間違いなく教室は出た、なのに気付いたら反対側の扉から教室に入ってた……どうゆうことなの……?)
思考の最中、九司郎の視線は真っすぐ葵を見ている。
「…………」
(うーわ!こんなに近くで十浪屋をじっくり見たことなかったけど……顔ちっちぇし、めちゃくちゃ美人……あと、スタイル良ーー)
食い入るように見つめてくる九司郎の視線に気づく葵。
「……ちょっと」
「………………ん?え!!?」
メガネ越しに心無しか、しかめっ面な葵は視線を九司郎に合わせて話をかける。
不意を突かれた九司郎は面食らった様子を見せる。
「な、なに?」
(声もめちゃくちゃ可愛いじゃん、もう3年なのに十浪屋の声初めて聞いたかも知んない……)
女慣れしているはずの九司郎の葵に対する評価が本人の知るところなく爆上がりしていく。
「教室出てみて……」
「え?……いや、だから出れないんだって……」
「いいからやってみて……」
「まあ、いいけど……」
少なからず葵とコミュニケーションを取れた九司郎は悪い気がしないので言われた通りに動く。
ーーガラガラーー
教室を出る九司郎。
それを目を凝らして見る葵。
ーーガラガラーー
程なくして黒板に近い方の扉から九司郎が入ってくる。
「はっ!」
今更というように驚く九司郎。
その反応を見て再び思案する葵。
「……やっぱ出れねぇわ」
「…………」
(出るとこはちゃんと見た、扉は閉めてない……廊下に出た彼を確かに目で捉えた。でも、その直後に彼が教室に入ってきた。瞬間移動?というより急に映像が切り替わったような、コマ割りのような感覚……ちなみに出ていった側の扉は閉まってる……)
「で?なんか分かった?」
「………………」
葵は九司郎の問いかけに答えず今度は自ら教室を出た。
ーーガラガラーー
「…………」
(今、ちゃんと廊下にいる。その認識はある。あれ?もしかして、このまま帰れるんじゃ……)
「ーーちょっ!!十浪屋っ!!」
「えっ!?キャッ!!」
「ーーーー痛ってぇっっ……」
葵は九司郎を突き飛ばした。
クールな表情が崩れる葵をまじまじと見つめつつも内心ドキドキしていた九司郎は【どうゆう】ドキドキか分からないでいた。
「…………あ、ごめん」
(……私、間違いなくさっきまで廊下にいた。確かにその認識はある。でも気が付くと教室に戻っていて、しかも肩倉とくっつく程至近距離にいた)
「あの、私……何してた?」
「いや普通に教室に入って来てた……けど」
(すげー距離詰めてくるから焦ったわマジで)
「……そう」
(扉を開けた覚えはない……意識が完全に途切れる間があってその間は勝手に身体が動いてるみたい………………何それ怖い……)
「十浪屋さぁ……」
「……何?」
「もっと色んな人と話して見たらいいのに……なんで?」
何言い出すのかと思えばこの状況に全く関係ない質問を繰り出す【クラスの大人気長身アイドル顔男子】に露骨に呆れる様を全面に醸し出す。
「はぁ…………なんで今そんなこと聞くの?」
「あ、いや俺が思ってたより十浪屋ってさ色々スペック高いじゃん?話してみれば案外普通なのになぁと思って……」
(ちょっと怖いけど……)
少し間を置く葵。
「逆に聞くけど、肩倉……君は(名前合ってる……よね?)なんでそんな感じなの?」(誰にもでも愛想振りまいて何の得があってやってるのか理解に苦しむわ)
ザックリした質問をする葵。
「そんな感じって?」
当然こんな感じの質問が帰ってくる。
「……ごめんやっぱ別にいい。とりあえずこの状況なんとしようよ」
単に九司郎とその手の話を掘り下げるつもりが毛頭無かった葵はテキトーな質問をした後、真っ当な正論ではぐらかした。




