つちのこうやのラブコメ (それぞれ別々にお読みいただけます)
実家がお菓子屋のイケメンがハロウィンにお菓子を配り始めたので、実家が別のお菓子屋の僕もお菓子を配ろうと思ったら誰ももらってくれなくて泣いた。美少女後輩「先輩、元気ないですね?」
10月ももうすぐ終わるころ。
「ハロウィンではしゃぐのは小学生までと決まっています」
と担任の先生が言った。またてきとうなこと言ってるねえ。
まあ心配しなくてもこの街には渋谷のような場所はないし、ハロウィンらしいイベントなど起こるはずもない。
と、みんな思っていたけど、クラス一イケメンと話題の岡森遊星が、ハロウィン前日、鬼ほどでかい袋を持ってきた。
「あ、実は俺の実家お菓子屋やってて……よかったらもらってってよ。ハロウィンだし」
「キャーすごい!」
女子が喜んでる。ていうかまだ袋の中に何が入ってるかも見てないのにすごいってどういうこと?
透視能力持ちのクラスの女子と違って僕は凡人なので、「おおー」って思っていた。
そして袋は教室の後ろに置かれ、そして女子はみんなクッキーをもらっていた。
ほう。確かにおいしそうではある。
「これって、遊星くんも作ってたりするの?」
「まあ、時々手伝ってるよ」
「すごーい!」
そうそう、そういう時にすごいってつかうんだよ。すごいの使い方警察になろうかな。最近暇だし。
と、平凡なハロウィンがうちのクラスで流れ始めた十月三十日。
家に帰ったら母親がうるさかった。
「あんた! 岡森くんクラスでお菓子配ってるって?」
「あー、うん」
「ちょっと! それいい宣伝になりすぎじゃない? なら対抗してうちもやるわよ!! あんた明日配ってきなさい!」
「ええ……」
そう、実は僕の家もお菓子屋さんなのである。しかも岡森洋菓子店とライバル。嫌な予感だぞ。
「うんしょ。これ明日配ってきなさい。美味しすぎてみんなまた買いに来てくれるから余裕で元取れるわ」
「自信あんだね」
「当たり前! この街一のお菓子屋はうちよ!! 岡森洋菓子店には負けない! 勝つよ、おおー!!」
「すごいな……」
思わずてきとうにすごいって言ってしまった。はい、セルフで警察出動させます。
☆ 〇 ☆
次の日はハロウィン当日。俺は時期を間違えたサンタクロースのごとく、大きな袋を担いでいた。
ごめんな、母さん。
結末は見えている。
岡森の人望を100としたら、僕の人望は5くらい、いや5あるかな。知らん。
高校生にもなると、誰も興味のない人からお菓子なんてもらってくれないのだ。
しかし、何もせずに終わるほど弱くはないぞ僕は。
教室に入るなり、僕は言った。
「あのー、うちも実はお菓子屋なんで、良かったらもらってってください、今日ハロウィンなんで」
もういっそのこと学年だよりみたいにみんなに配ってくか? と思ったけど、そういう押しつけがましいのはやめとく。岡森もそれはしてないしね。
しかし、クラスのみんなは特に反応なし。
いや、ちょっと待て、僕も少しはクラスにしゃべる人はいるんだが?
「ごめん今音ゲー中」
ああ、そうだった。僕は趣味が音ゲー。音ゲー好きなオタクしかクラスに友達がいないので、今反応できないのか。
まあ、いいよ。
なんだかんだで、誰かしらはそのうちもらってくれるよね?
☆ 〇 ☆
もらってくれませんでした……。悲しいね。
ていうか、イケメン岡森がまた追加でお菓子持ってきたらそっちに人が殺到したんだが?
どういうこと? はい、そういうことだね。
まあ、賞味期限はまだ先だし……うん。
放課後、僕は部室に向かった。
今日は天文部には人がいないみたいだ。
「あ、先輩、いたんですね」
と思ったらすぐにひとり来た。一つ下の高一の後輩、本崎藍香である。
本崎はとにかく星好きだ。それでまじめなので、大学生が読む天文学の教科書? 的なものを持ち歩いている。
「よ、おつかれー」
「先輩、元気ないですね?」
「う、うそだろ。わかる?」
「はい。分かりますよ」
本崎は机に分厚い本を静かに置いた。
まるで図書館の司書さんのようにその本をすーっと机の真ん中に移動させると、僕の方を見て、
「今日がハロウィンなことと関係ありますか?」
と訊いてきた。
「ま、まあ一応関係はあるかも。でもまあ、気にする感じのことじゃないからさ」
「気にしますよ私は」
「真面目に心配してくれてる……」
本崎はやっぱり色々とまじめだ。僕はそんな後輩と天文部ができて良かったなと思っている。
そんな後輩に僕は言った。
「僕の家、実はお菓子屋さんなんだよ」
「そうなんですか?」
「そう、それ関係でいろいろとあってね……」
僕はあったことを大体説明した。
「なるほど、それは悲しい話ですね」
「まあね……」
ちなみによかったらお菓子……みたいなことを言おうとした時、僕は気づいた。気づくのが遅い。
「本崎こそ、元気ないな」
自分がちょっと元気がないせいでそれに気づけないなんて、なんと器の小さな先輩だ。
でも、今気づけたなら、話を聞くこともできる。
「私が元気がないのは、私自身が原因なので」
「そうなの……? いや絶対それはないと思うぞ」
「先輩の絶対は……いえ、なんでもありません。あの、先輩は……私といると、つまらないなーって思いますか?」
「つまらない? そんなこと思ったことはないな」
「ほんとですか? でもですよ。今日私クラスの人に言われちゃったんです。真面目過ぎてつまらないって」
「そんな、本崎のいいところを分かってないで。許せませんな」
「な、なんかありがとうございます。でも私、真面目過ぎるのを卒業したいとは思ってるんです」
「お、時々、まじめじゃなくなる本崎ってのも、面白そうだな」
「じゃ、じゃあ、あの、先輩で練習してもいいですか?」
「練習?」
「そうです。なんか先輩にだったら、ちょっと真面目じゃないように振る舞えるかもしれないな、って思うので!」
「なるほど」
「ま、それはそれとしてですね、とりあえず私のことは解決しましたので、先輩のほうを解決しましょう」
本崎は少し元気な顔でそう言った。
だからさっき言おうとしてやめた……
「ちなみに本崎、良かったらうちのお菓子……」
「遠慮します」
「ええっ」
驚く僕をおかしそうに見つめて本崎は
「だって、私はちょっと真面目じゃなくすんです。てことは……私は先輩にいたずらをしたいんですよ。でもハロウィンはトリックオアトリート、ですよね?」
「ああ、そういうことか」
つまり、お菓子を僕からもらったらいたずらできないってことか。可愛い考え方だ。
「別に両方でもいいんだぞ」
「そうでしょうか」
「片方ならハロウィンのルール通り、つまりそれは真面目ってことにならないか?」
「むむー、確かに。それなら私は先輩にお菓子をもらって、さらにいたずらもしていいと」
「そうそう」
「わかりました。そうしましょう。ではまずお菓子をいただきます」
「よし、そう思ってちょっと持ってきてるからな」
僕は鞄から、一掴み分のお菓子を取り出した。
「わあっ。美味しそう」
本崎は嬉しそうな声をあげて、もぐもぐ食べ始めた。
「さて、先輩にいたずらをしないと」
「意外と気合い入ってるんだな。いたずらに」
「私実は、いたずらってあんまり好きじゃないんです」
「ほう」
「いたずらってことにすれば、相手が嫌がることでもできちゃう気がして」
「一理あるな」
「だから私は、いたずらっていうのは好きな人にするなら慎重になっちゃうんです」
「なるほど」
「だから……先輩には簡単にはできませんねっ」
「えっ」
てことは……僕のことが好きってこと??
「……っていう冗談です! あ、ドキドキしてますかね? ならいたずら成功です。これがいたずらの前菜ですかね」
「おう……」
やられた。
僕はちょっと顔が赤くて笑ってる本崎と目を合わせ、今日は星が見えるころまでは部室にいよう、と思ったのだった。
☆ 〇 ☆
☆ 〇 ☆
私は、いたずらってあんまり好きじゃない。
そう思ったのは小学生の時にいたずらをされた時だった。
「どうして私のうわばきを全然関係ないとこの下駄箱に勝手に入れるの?」
「え、まあちょっとしたいたずらだよ〜」
私はほんとにやだと思ってるのに相手にされない雰囲気。
そういうのが嫌だった。
だから……私はそういうことをされにくいキャラになろうって思った。
ちょうど目も悪くなってきてたから、眼鏡をかけた。
それで真面目に本とか読んでちょっとむすっとしてると、ほらほら、無駄にいたずらとか言って嫌なことはされなくなる。
そういう自分の方が、正しい生き方をしている、強い自分だと思っていた。
けれど、そうすると真面目だから一緒にいると面白くないって思われる。
そう思われてるなって薄々感じても気にしないでいたけれど、面と向かって指摘されたのは今回が初めて。
それに、なんとなく最近自分に対してもやっとする。
私こんなキャラじゃなかったな。
もっとくだらないことを考えてる人間なのに、分厚い天文学の教科書を、脇に挟んで廊下を歩いている。
だけど先輩は……そんな私をある意味気にしていない。
逆に先輩はムカつく。
なんとなくぼんやりとしていて、きっと星は好きで、でも私がどんなふうに振る舞っても優しくいいねって思ってくれるタイプだ。
だから……きっと今のままでもいいし、今のままじゃなくてもいいんだろう。
☆ ◯ ☆
六時になると、もう星が出てる。
今日は晴れ。空が紫っぽい。
「いやー綺麗だなあ、明日は天体望遠鏡出してみるか」
先輩が言った。
「今割と埃かぶってません?」
「かもしんない」
「先輩は、星って好きですか?」
「好きだよ。けど、ちゃんと勉強はしてないな。大学で天文学科に行きたいとは思ってるけどね。まあぼんやりと」
「私も勉強はあんまり進んでないんです」
「え、でもあんな天文学の教科書とか持ってるじゃん。あれ大学で使うやつだよね?」
「まあ、キャラみたいなもんです」
「キャラ?」
「あ、いえ」
私はふと立ち止まった。
私別に先輩にムカついてるわけじゃないんだなって。
先輩の前なら、キャラを考えず、ぼんやりと星を見ていても許されるかなって思うんだ。
「先輩、図書館寄りません?」
「図書館?」
「屋上がすごく景色がいいので」
「ほう」
「そこで先輩と、お菓子を食べながら星が見れたら幸せなんです」
「いいね、青春感がある寄り道だ」
「なんで若干客観的なんですか?」
「あ、いや」
「私は先輩とじゃないとそういうことはしたくないので」
「そ、そうなの? 僕とじゃなきゃって……あ。なんかまたいたずらする気だな?」
「どうでしょう」
いたずらは、もういいかな。
けれどもし、二人で笑えるいたずらを思いついたのならちょっとだけ。
だって……
「先輩って恋愛経験あります?」
「なんだよ突然。お菓子も誰ももらってくれないような人だぞ。ないよ」
「ふうん」
秋の夜空は少し地味な気もする。
けれどよく見たら、仲良く並んでる綺麗な星はたくさんあって、その星の名前は知らないままでいいかな、と私は思うのだった。
☆ ☆ 〇 ☆ ☆
☆ ☆ 〇 ☆ ☆
「ほんとに図書館の屋上でいいの?」
「はい」
「僕一応免許持ってるし、もっと遠くの綺麗に星が見えるところでいいんだぞ」
「私的には図書館の屋上を超える場所はありません」
「そうか。まあ僕的にもそうなんだけどな」
「ふふっ、ならいいじゃないですか」
大学生になっても、あんまり高校と変わらない。
地元の大学に行って、今はまだ座学中心だし、大学の天文サークルはひっそりとしていて、また一つ上に、先輩がいる。
ひとついえるのは、先輩が免許を取って、車で遠くに行けるようになって。
私と先輩は、付き合うようになった。
「先輩、好きですよ」
「お、おう」
先輩はぼんやりしているので、いきなり好きっていうといまだにテンパる。けど、それが面白いから、私は先輩によく好きって言う。ちっぽけすぎるいたずらだ。
今日はハロウィン。やっぱり、星が綺麗な日。
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