表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/32

師走に起きよ 序


 アヅサユミは、五人の心に種を蒔いた。


  七歳になる前のある娘は、人生で記念すべき一回目のおつかい帰りに、暗闇の中で迷子にな

った。娘は、「もうお家には戻れない」「お父さん・お母さん・お兄ちゃん達の顔を見られないんだ」と絶望しかかっていた。

 その時、娘は誰かに「こっちだよ」と手を引かれた。怖くはなかった。とてもぽかぽかしていて、この手にまかせれば安心だと思った。娘は、もといた町へ出られた。振り返ると、光に包まれた大きなお姉さんが、バイバイしてくれた。


 九歳だったある娘は、とても頭が良かった。両親が賢く、教育の環境が整っており、大事に育てられ、恵まれた子どもだった。親と学校・レッスンの先生にもっと褒められたくて、リビングで予習・復習に励むのが習慣だった。下弦の月にうっとりしつつ、娘は国語の勉強を始めた。

 その時、娘の頭の中が、薄荷の風を吹きつけられたかのように、透明に、爽やかになる感覚がした。なんと、目にした人・文章・写真、何もかもがするすると記憶でき、忘れなくなったのだった。入ってくる情報が、あまりにも増えてきたため、娘はメガネをかけた。


 六歳だったある娘は、大きな病気を患っていた。寝てばかりの生活だった。障子と磨りガラスから入ってくる光が、外との接点だった。お部屋に籠もりきりだったので、お友達は、作れなかった。どんな名医でも、効き目の良い薬でも治せなく、家中が悲しみに暮れていた。ある日、熱がたちまち冷めるという、山の神社に湧く水を飲ませてもらい、天井を見つめていた。ひとでみたいなしみを、流れ星にして「はやく元気にしてください」と祈った。

 その時、娘のずっと続いていた息苦しさ、だるさ、熱、痛み、しびれ、身体をだめにしていたあらゆるものが取り払われた。別人のように、健康になった。娘は野山を駆け回れるほどに、すっかり元気になった。


 十歳を迎えるまであと数ヶ月のある娘は、理系の名門に生まれたものの、発明は失敗ばかりだった。設計図は正確に、手順は理論に忠実に作ってきたが、ひとつも成功しなかった。それでも娘はめげずに、血がつながっているだけで「父」「母」「兄」と呼ぶ人達のために機械を作っていた。

 その時、娘の胸の内に、澄んだ水の平原が広がり、落ち着きを得た。娘が心の存在を認めることができた初めての瞬間だった。そうして出来た機械・食器洗い機は、娘の発明第一号となった。既製品よりも有能で、現在も改良しながら使われている。

 

 八歳だったある娘は、学校でひとりぼっちになった。女子には「ださい」「おもちゃで遊んでいて幼稚」と陰口をたたかれた。男子には「ヘンなやつ」「ブス」と面と向かって悪口を浴びせられた。そんな娘の居場所は、本だった。


 アヅサユミは、十二年前、五人の娘の心に、種を蒔いた。

 種は、娘達になじみ、芽を出し、今、つぼみが開かれようとしている。


 愛嬌ある娘には、「純粋な愛」の花・撫子が。

 知識豊かな娘には、「幸福」の花・蒲公英が。

 誰よりも速く走れる娘には、「希望」の花・松が。

 巧みな技術を持つ娘には、「なつかしい関係」の花・露草が。

 本を読みふける娘には、「控えめな素晴らしさ」の花・椿が。


 種は、アヅサユミの五分された力が形になったもの。

 アヅサユミの力は、最高位の(まじな)い、最大級の寿(ことほ)ぎ。

 なぜ、力を五つに分け、五人の娘に授けたのか。

 ひとつは、ならぬ行いをした子孫を救うため。

 ひとつは、来たる「大いなる○○○」を○○○ため。



「○○○」は、

()」まねば(わか)らぬ。

()」みには、「(わざ)」が()る。

(わざ)」あれば「(はや)」く解る。

(はや)」く解れば「()」恵がつく。

()」恵がつけば「(あい)」が生まれる。

(あい)」が高まり、「()」みは深まり、「○○○」は○○○れる。


 ―いざ子ども 心に宿せ 文学を。そして、師走に起きよ。




挿絵(By みてみん)


☆こちらのイラストは、漫画家の揚立しの先生に依頼して描いていただきました☆








評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 更新お疲れ様です。 過去、最初だけがわからないんですよね。 2番目が夕陽・3番目がはなび・4番目がいおんなのはわかるのですが... 5番目は、男子から罵倒されているから男嫌いなふみかになっ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ