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25 約束



 結局、私が買ってきた仮面はセシルにあげてしまった。

 強いこだわりで選んだわけではないし、それならばセシルが持っていた方がいいと思えたのだ。

 一緒に買いに行ってくれたフレデリカには申し訳ないが、優しい彼女ならばきっと分かってくれるだろう。

 セシルはグランによって連れ帰られ、ちょうどそのタイミングでゴンザレスが帰ってきたので四人で夕食を取ることになった。

 店内の様子にゴンザレスは驚いていたが、什器や店の修繕費についてはグランが弁償することになっていると話すと安心していた。

 その時に聞いたのだが、この食堂はカレンとゴンザレスが冒険者を引退した時にお金を出し合って建てたお店なのだそうだ。

 どちらも排他的な種族であるため、伴侶を故郷に連れて帰ることはできない。ならば王都に二人でずっと暮らそうと決めて、建てたのだという。

 私はこの話を聞いて、とても素敵な話だと思った。

 私から見ると二人は十分に幸せそうで、種別の違いなど問題ではないと思わされる。

 カレンもゴンザレスも、互いの違いを受け入れて尊重し合っている。結局大切なのは同じ種族かということではなく、互いにいたわり合うことができるかということなのだろう。


「そういえば、どうしてあの仮面の羽根飾りがじいと交換したものだと分かったんだ?」


 食事中、ふと気になったらしくクルトに尋ねられた。

 私が屋台の売り子が言っていた販売文句の話をすると、彼は納得したように頷いていた。

 そしてなぜか、遠い目をして言った。


「今でも羽根飾りを交換などするのだな……」


「え?」


 クルトの呟きは私に向けられたものではなく、どうやら独り言のようだった。何でもないとばかりに、彼は左右に首を振る。


「俺たちも交換したぜ。なあカレン」


「ええ。今も大切にしてるわ。ダーリン」


 カレンとゴンザレスは、二人そろうといつでも熱々だ。

 普段一緒に住んでいる分には微笑ましいのだが、クルトも一緒にいるとなんとなく面映ゆい気持ちになって、思わず俯いてしまった。


「なあサラ」


 クルトに話しかけられ、顔を上げる。


「はい?」


「謝肉祭の日の予定は?」


「その日は、昼間はお店を手伝って夜は広場をちょっと覗きに行こうと思ってます。少しでも、気分を味わえたらと思って」


 ただ、フレデリカは家族と過ごすそうなので、残念ながら一人きりだ。

 カレンとゴンザレスは一緒に行こうと言ってくれているが、二人の邪魔になるような気がして気が引ける。


「なら、俺と出かけよう。仮面も今日の詫びに俺からプレゼントさせてくれ」


 思わぬ申し出に、思わず首を左右に振ってしまった。


「そんな。クルトさんには助けて頂いたのに、お詫びだなんて……」


「まあ、なんだ。グランは俺の側近だ。そして部下の失態は俺の失態だからな」


 だからと言って私に償おうとするなんて、クルトは責任感が強いのだなと感じた。

 一方で、向かい合うカレンとゴンザレスはにやにやと笑みを浮かべてこちらを見ている。


「失態、失態ねぇ」


「ちょっとダーリン。邪魔しちゃだめよ。やっと誘えたんだから」


 二人でなにやらごそごそ言っているが、いちゃいちゃしているようにしか見えない。


「ええと、お忙しいのでは……」


 基本的に、クルトはいつも忙しい。

 一国の王であるのだから当たり前だ。

むしろ、たまに森の中で拾ったというだけでたまに会いに来てくれるのは、面倒見がよすぎるとすら思う。

 昔馴染みのカレンやゴンザレスに会いに来ているだけかもしれないが。今日助けてくれたのも、ゴンザレスに会いに来たとのことだった。

 前回も助けてもらってしまったので、会うたびに迷惑をかけている気がして、なんだか申し訳ない気分だ。


「忙しくなんてない」


 クルトは清々しく言い切った。

 彼がそう言うのなら、お祭りの日は王様もお休みなのかもしれない。


「でしたら、ご一緒していただけると助かります。一人で出歩くのはまだ慣れていないので……」


 厚かましいかとも思ったが、私はクルトの誘いを受けることにした。

 慣れていないのは本当だし、治安のいいツーリとはいえ、流石に夜一人で出歩くのは危険だからだ。

 なにより、いつ会えるか分からないクルトとの約束に、私は浮かれていた。


「よかった」


 クルトが満面の笑みを浮かべたので、それにつられて私も笑顔になった。

 こうして、その日の夕食は和やかに過ぎていったのだった。



  ***



 いよいよ謝肉祭がやってきた。

 当初の予定通り、私は朝からサラの食堂を手伝い大わらわだった。

 この日に修繕が間に合ったのは幸いだった。グランがすぐさま職人などを手配してくれたおかげだろう。破損した什器も代わりのものが補充され、それどころかより質のいいものになった。

 お店がまた営業できるようになって、カレンも上機嫌だ。

お祭りを見物するために周辺の街からも人が集まっているらしく、お店を開けるとすぐにお客さんでいっぱいになった。

常連さんには再会のお祝いを言われ、カレンのお店がいかに人々に愛されているか分かり私も嬉しかった。

 勿論新しいお客さんも大歓迎だ。

 料理のおいしいカレンの食堂はお客さんの切れ間がなく、お皿をいくら洗っても追いつかないほどだった。

 お祭りの日程は三日間で、最初の二日は毎日夢中で働いて、それが終わるとすぐに眠ってしまうという生活だったので記憶さえ曖昧だ。

 三日目の夕刻には、もうふらふらになっていた。

 それでもクルトと一緒にお祭りに行けると思うと、嬉しくて疲れも吹き飛ぶようだ。

 仮面は屋台で買った値段でセシルに売ったので、そのお金でワンピースを買った。もっと吹っ掛ければいいとカレンには言われたのだが、祖母の思い出の品に似ているから買いたいというセシルに高値で売りつけるのは抵抗があった。

 それに自分で頑張って働いたお金で買ったからこそ意味があるのであって、セシルから沢山お金を受け取って贅沢をしたいわけではないのだ。

 そういうわけで、仕事を終えた私は身支度をしてクルトを待つことになった。

 食堂は早めに店じまいである。カレンとゴンザレスの二人は、いつもの熱愛ぶりで連れだって出かけて行った。

 クルトが迎えに来るまで一緒に待ってくれると言われたのだけれど、せっかくの休みなのだから二人にも楽しんでほしいと私が送り出したのだ。

 日が暮れても、街のあちこちに明かりが灯されまるで昼のような賑わいだった。

 月が高く昇っても、クルトはまだやってこない。

 私は不安に思いつつ、自室の窓からぼんやりと街の様子を眺めていた。




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