アイスが溶けるころ
「……なあ、姉ちゃん。本当に此処を出ていくん?」
ふと、弟の言葉で我に返った。
目の前には、溶けかけのカップアイスがある。
考え事をしていて、全然手を付けていない。
「……ん、なんてったん」
聞き取れなかったから、弟にそう聞いた。
「だから、僕ら……本当に此処を出ていくんかって」
▫▫▫
此処は小さな孤児院。
うちと1歳下弟が、幼い頃からお世話になった場所だ。
赤ちゃんポストにうちと弟が入れられていたのを、管理人さんが見つけてくれて……それからお世話になっていた。
あれから10年近くが経った。
ようやく、里親が見つかったのだ。
▫▫▫
「やから、里親が見つかったって、とんとんさんが言ってたやろ。だから、もう出ていかんと」
とんとんさんは、孤児院の主さん。
……本名は聞かされていない。周りの皆がそう言うから、自然とそう言っている。
「なんか、姉ちゃん……浮かない顔をしとる」
弟がそう言う。
「なんでな」
「だって、里親の話が来てから元気ないんだもん」
「……そう、見えるんか。そうか……」
「否定せぇへんの」
弟の言うことは当たっている。
実のところ、一回会ってみての印象はあまりよく無かったから。
「姉ちゃんの言うこと、分かるよ。僕もあまりいい印象やないもん」
そう、弟が呟く。
「……でもな、もう出ていかんとアカンわ」
10年を越えると、孤児院を強制的に出ていかないといかない。
その直前に、里親の話が舞い降りてきたのだ。
溶けかけのアイスを頬張りながら、思い出をあれこれ話した。
「二人とも、親御さんが来たで」
その時、とんとんさんがやって来た。
「……もう、そんな時間?」
うちはそう返す。
その里親は、今日の夕方に来ると聞いていた。
窓の外を見ると、もう夕暮れになっていた。
急いでアイスを食べると、二人は荷物を持って玄関へ出た。
「奈智ちゃんと、乃斗君。お待たせ」
里親のお母さんがそう言う。
……なんだろう、急に此処を出ていく寂しさがよぎる。
「……二人とも、くち元にアイス付けっぱなし。ほら、これで拭いて」
お母さんが二人にハンカチを渡した。
それを貰って、拭こうとした。
何か嫌な匂いがして、うちは気を失った。
「………二人とも、いい場所に連れていくからねぇ」
[余談]
なんか怖そうで怖くない作品になりました。
とりあえず、R15は保険でした(事後報告)