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不死の漫画家

青年は道で、ホームレスのような爺さんに声をかけられた。

「この薬を飲むと何にでもなれる代わりに永遠の命を手にする薬だけどいる?」

爺さんの手には得体の知れない赤い錠剤があった。

彼は高校2年生だった。彼の夢は漫画家で、家族友達みんなが応援してくれたし、学校で一番絵もうまかった。だが、少年誌の応募に落ちたばかりだった。

彼は何にでもなれて不老不死なんて最高だと思い、受け取り家に帰ってから、人気漫画家になりたいという夢と一緒にその薬を飲んだ。


彼は薬を飲んだ後効果を確かめたくて漫画を描いてみた。どこにでもあるような平凡な「友情、努力、勝利」の王道漫画だった。友達に見せても、親に見せても絶賛された。

試しに人気漫画誌に応募してみた。

落選だった。おまけに「絵は上手いけど話がつまらない」みたいなこれまたどこにでもあるような批評が付いてきた。彼の絵は上手かったが、物語の構成はどこかの漫画で読んだ話の焼き増しのつまらないモノだった。

彼は、なんだダメじゃないか、あぁ俺はあの老ぼれに騙されたのだと憤慨した。


彼は大学に進学した後も、漫画を描いてはいたが漫画家は夢ではなくなっていた。叶ったわけではなくどうでも良くなったのだ。彼は大学で漫画サークルに入った。そこで彼の漫画は誰よりも上手かったのでみんなから持て囃された。お陰で彼は大学で友達だってたくさんできたし彼女もできた。サークルの中心は自分になった。サークルは楽しかった。年に2回発行する雑誌で漫画を描く以外は仲間達と遊ぶ方が楽しかったから漫画を描くことはめっきり減っていた。その頃にもなると彼は受かるかどうかも分からない少年誌に応募するより、描けばみんなが絶賛してくれるサークルの漫画で満足するようになっていた。

そんなわけで漫画家の夢なんて忘れてたし、大学では地元を離れていたのでその夢を知ってる友達も周りにはもういなかった。


彼は卒業し、就職し、結婚し、子供ができた。彼はもう青年じゃなくなっていたし漫画家が夢だったことなんてほとんど忘れていた。それでも彼は子供には、夢を持てと言った。何にでもなれるんだと教えた。


子供は夢を持った。プロのサッカー選手になりたいと言った。結局その子供は夢を叶えることはできないのだけど。彼の子供は家庭を持った。夢なんてその頃には父親と同じように忘れていた。夢なんて所詮そんなものなのだ。



彼にはそうして孫もでき、気がつけばひ孫もできていた。


彼は玄孫もできていた。


彼は、、、玄孫の次ってなんだっけ。


とにかく彼は病気もせずに長生きし、子孫の繁栄を見守っていた訳だ。


少年の頃のことなんて忘れていた。


彼はもう150歳だ。そうしてようやく少年の頃に老人に貰った薬のことが頭によぎった。そして全てを思い出した。


自分が死ねないことを悟った。




そこから数百年経った。全てを悟っていた。宇宙のことも、人間の魂がどこに行くのかも、神のことだって、もうなんでも悟っていたのだ。

彼が悟った真実はとても人間には理解できるような代物ではなかったが彼はどうにかみんなに伝えたくなった。

彼は絵が得意だった。

彼は閃いた。物語にして漫画にすればいいのだと。

彼は一年かけて一つの物語を書き上げた。超長寿爺さんの漫画は飛ぶように売れた。

編集部から連載のオファーが来た。彼はまだまだ伝えたい宇宙の真実がたくさんあったから、快く引き受けた。


彼は夢だった漫画家になった。彼の描く漫画は前衛的で創造的で何より今までないようなストーリーで多くの人を楽しませた。その漫画はアニメ化もされたし映画にもなって国民的作品になった。


連載が始まった時に小学生だった読者は父になったし、彼の子供も父になった、そうしてさらに彼の子供も父になっていた。


彼は漫画で真実を伝えようとしたところで気づける人がいないことに絶望した。

読者親子が3代全員死んだ後も続くシリーズを描き終えた後も世界は変わらなかった。


彼が千歳を超えた頃、宇宙を観測する技術が発達して、地球の滅亡する日がわかるようになった。観測によればこの地球は500年後に滅ぶと言われ、500年後に人類が自然に滅ぶように各国は人口削減政策を打ち出した。


彼が永遠に生き続ける以上、もちろんその日に彼が死んでいるなんてありえない。


そしてその日はもちろん来た。各国の計画通り最後の世代も寿命を迎え、人類はいなくなった、彼を除いて。


彼以外の人間のいなくなった、その瞬間地球は蜃気楼みたいに蒸発して消え、彼は新しい宇宙になった。


新しい宇宙で全ては彼になり彼は全てになっていた。

彼は新しい地球を作ったし、自分の気の済むまで人類の進化を楽しんだ、彼がいた古い地球の創造主がそうしたみたいに。


そして一から始めた新しい彼の地球に起こる全てを見届け、飽きてきた彼は彼自身を平凡な男として地球上に誕生させた。


彼はかつて以前の創造主がそうしたように、道で少年に話しかけた。

「この薬を飲むと何にでもなれる代わりに永遠の命を手にする薬だけどいる?」


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