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コンコンコン
ノックの音が部屋に響く。コトハは億劫に感じ返事はせずに、与えられたベッドのシーツの中へと潜り込んだままだった。
一人にして欲しかった。
ここにきた当初は寂しくて、悲しくて、辛くて、でも外に発することもできず、ダッバーフに与えられた部屋で、昼は何とか起きて皆と一緒に生活していたが、夜暗くなり一人になると、どうしても寂しさが募り、でも誰にも会いたくなくて、シーツにこもって耐えていた。
そんな時、いきなりダッバーフが押しかけてきた。酒とつまみと果物を持って。お酒は好きでも嫌いでもなく付き合いで飲む程度だった。ダッバーフから差し出されたお酒は甘く、口当たりも良いものだった。いつもは煩く元気が取り柄のダッバーフではあったが、この時はただ黙って側にいてくれるだけだった。お酒を少し一緒にのんで、果物をつまんでその日は終わった。
そして次の日もダッバーフはコトハの部屋に押しかけてきた。その日はどうしても感情がコントロールできず、コトハは一人になってやりすごしたかった。泣き腫らした目を見てほしくなく居留守を使ったが、合鍵を使われて部屋に入り、泣き腫らしたコトハを見てぎゅっと抱きしめてくれた。その優しさがまたコトハには辛くて、やめてくれと懇願するもやめてもらえず、結局ダッバーフの胸を借りることにした。
それ以降、急ぎの用が無い限り、ダッバーフは毎夜コトハの部屋に行き、ともに過ごすようになった。コトハは徐々に落ち着いて過ごせる様になってきたものの、未だ泣いて過ごすこともあり、そんな時はダッバーフがずっと側についていてくれたり、背中をさすってくれてたりして、静かに泣き続けるコトハを慰めてくれたのだった。
ここ最近は、落ち着いて過ごせるようになり、ダッバーフにもう部屋にこなくても大丈夫と伝えようと思っていた矢先のことだった。
召喚された当時のことを鮮明に思い出してしまい、さらには引きずられる様に元の世界のことも思い出し、思いが募ってしまったのだった。
だから早々に部屋に引っ込み、泣いているところを見られたくないのでシーツをかぶり、居留守を使っている。だが、扉の外では何やらガチャガチャと不穏な音がする。
ガチャン
そしてやはり、ダッバーフが入ってきた。手にはお酒と果物とつまみをもっていた。
「………何度も聞いてるかもしれませんが、ここでは夜分に女性の部屋に勝手に入っても良かったんでしたか?」
「まあ、人にもよるな。俺は……まあ、ほら、いいだろう?俺とお前の仲だ」
「上司と部下の仲ですよね?」
「合鍵もってるし?」
「……さも私が渡したような言い方はやめてください……」
ダッバーフは軽口をたたきながら、持ってきたものをサイドテーブルへ置いていく。
「ほら、明日は大変だからな。英気を養わんとな」
ほら、おいで、といわんばかりに手を広げられると、コトハは何故か悔しくて、恥ずかしくてダッバーフの顔を見ることができずに、ベッドから起き上がれなくなってしまう。
そうやって、二の足を踏んでいると、いつもダッバーフが近づいてきて、手を取り、立ち上がらせて、抱きしめてくれる。
それだけでコトハは、ダッバーフの優しさに心打たれ、元の世界のことを思い出してしまい、声もなくすすり泣いてしまう。背中にまわされた手が優しく背中を撫でる。
「……お母さんに会いたい……」
「そうか」
「……お父さんにも会いたい」
「……そうか」
「……友達からと遊びに行きたい」
「そうか」
「……でも……、でも、どうしていいのかわからないの……」
「……そうか」
この世界に来た直後、帰りたくて帰りたくて仕方なかったが、今ではそこまでの強い思いは抱かなくなっていた。それもこれもダッバーフの優しさのおかげである。
「コトハはあったかいなー」
「……ふふ、やっぱり寒いのは苦手なんですか?」
「うーん、動けないことはないけど、動きたくないな」
やる気が出なくなるんだよ、とぼやきながらサイドテーブルの側のソファへ、ダッバーフに促されて二人で座る。
「ほら」
そう言うとダッバーフは瑞々しい果物を口に運んでくれる。
「……美味しいです」
「そりゃ、良かった。次は何を食べたい?」
「うーん、チーズが食べたいです」
「ほら」
そう、ダッバーフは世話好きなのかまめなのか、面倒見がいいだけなのかコトハに給餌をしたがる。種族の違いもあるかもしれないもコトハは勝手に思ったりもしている。
最初は驚いて、遠慮4割、羞恥6割で丁重に、それはそれは遠回しにやめてくれ、と何度かお願いか懇願に近い状態で言ってみたが梨の礫だった。
ケネスからも言う様に言ってみたが、『無理』と断られたことも記憶に新しい。ケネス以外にも顔馴染みになった、メイドや執事にも相談してお願いしてみたが、やはり『無理』の一言しか返ってこなかった。
さらにコトハの口のつけたカトラリーを自分の夜食用にも使用しているのを見て、さすがに物申したくなった。だが、『洗い物が少なくなるだろう?』と言われ、たしかに?と思ったら、何も言えなくなってしまった。だから、その後色々考え直して辞めてもらうよう伝えようとするが伝わらず、代わりに誰かに言ってもらおうと思い、ダッバーフに『何やってるんですか』と言ってくれないものかと、目で訴えてみるが誰も何も言ってくれなかったし、目すらも合わせてくれなかった。
「……落ち着いたか?」
「………はい、いつもいつも面倒かけてごめんなさい」
「仕方ない。部下の面倒みるのも俺の仕事だからな!任せろ!!」
コトハはダッバーフのことを、面倒の見過ぎではないかと思うものが、種族が違うとこんなものかもしれないと思っていた。何しろ始めて出会う人と同じ位、それ以上の知能をもつ異種族だ。しかもコトハがいた世界とは異なる世界でもある。コトハが常識と思うことがここでは非常識かもしれないし、その逆も然りだ。そして、ダッバーフにとってコトハは物珍しい、異世界からの来訪者だ。かまいたいだけだろう、その内飽きてくるだろうから、それまでの我慢だとコトハは自分に言い聞かせていた。ほんの少し胸の奥が痛いような気もするが、それも気のせいだと思うことにした。
***
翌日、ケネスと打ち合わせをしていた場所へやってきた。開けた場所ではあるが、周りは木々に囲まれていて、そこまで見通しはよくない。
「見通しの良くないのは相手も同じなので、城へ近づけないように城の周りには迷いの森を作って、ここら辺の周囲にも小規模の迷いの森を作ってあります」
「いつもありがとうな。助かるぜ」
「貴方の手伝いを申しつかってますからね」
ただ恐らく半数ははたどり着くでしょうけど、とケネスは補足する。ダッバーフは敵の勢力なら半数でも一人で問題ない、と自信あり気に言ってのけた。
ダッバーフは身の丈以上の槍と自分の身体をすっぽりと覆うほどの盾を持っていた。そしてその足元にはプレートアーマーのような、明らかにダッバーフよりも大きいサイズの誰かが着用する鎧が積み上がっていた。ケネスはいつも身に付けている長衣にレザーアーマーを付けていた。
「コトハは戦場は始めてだろう?大丈夫か?」
「は、はい。今日こそ普段お世話になっているお礼をさせて頂きたいと、粉骨砕身で頑張ります」
「……後方からのサポートのみだからな。前線は俺とケネスで行く!」
「はい!サポート頑張ります」
コトハは戦場は初めてで緊張していたが、後方支援のみで実際に戦うわけではない。そう思うもののなかなか震えが止まらない。あと少しだけ後悔もしていた。格好つけすぎてしまったと自己嫌悪にも陥ってしまう。
「顔色悪いぞ。……戻るか?」
「……ううん。もどらない。頑張る」
「………意地っ張りか。全く」
そう言うと、ダッバーフは持っていた槍の柄を地面に突いた。するとまずはダッバーフの身体があっという間に大きくなり、シルバーグレー色の体色になり、見上げるほど大きいリザードマンになった。そして槍を一振りすると、足元にはあったプレートアーマーが全身に装着され、更に一振りすると小さいながらも城があっという間に作られた。
「はっはっはー!どうだ!!すごいだろう!」
「す、すごいです、流石魔王様ですね」
城や魔法で鎧を見に纏うのもすごいが、もっと目を惹いたのが、ダッバーフのリザードマンの姿だった。光にあたると白や銀に輝く鱗は宝石の様で、思わずじっと見つめてしまっていた。
「何だ!?何だ!?お前、見惚れたか!?」
「ええと、はい。綺麗ですね、魔王……ダッバーフ様、鱗が宝石みたいです」
まさか正直に返されるとは思っていなかったので、口を開けて呆けてしまった。コトハはここぞとばかりにすべすべの手触りの鱗を撫でまわし堪能している。
「すべすべですね。ふふ。気持ちいい」
「おまっおまっ……お前、怖くないのか!?」
「え?ダッバーフ様ですよね?」
「そうだ!ダッバーフだ!これが俺の本来の姿だ」
「怖くないですよ?この鱗は剥がれないんですか?」
「むしろうとするな!」
よくわからないという表情をしているので、本当にわかっていないのであろう。
リザードマンは本来、濃い緑色の鱗を持つ知能の高い蜥蜴のモンスターである。魔法は使えず、高い身体能力と武器や防具を用い、群れで生活をするモンスターである。だから、そこから外れた見た目とあまりにも高い知能、魔法を扱え、姿形も変えられるダッバーフはそこにおいて異端であった。そしてその見た目、威圧感においても恐れられる存在であるため、怖がられることのほうが多い。
だからダッバーフは、見た目が良く弱そうに見られる人の姿を好んでとっていた。肩が凝る様な感じもするが、要らぬ諍いを避けるためには致し方ないと思っていた。
コトハにも怖がられない様にずっと人の姿でいた。恐怖に怯えて拒絶されるのが怖かったからだ。だが、それも杞憂であった。コトハは意外にもダッバーフの本来の姿に順応しているし、触れているし、鱗が欲しいと毟ろうとする。ダッバーフにとってこんなことは初めてのことで、そんなコトハを酷い目にあわせた人間がことさら憎く感じてしまう。
「ほら、じゃれていないでさっさと城へ引っ込みなさい」
「ケネスさん、このお人形は?」
ケネスはダッバーフの鱗を熱心に触るコトハに業を煮やしたのか、人形を手渡して城へ追いやろうとする。手縫いの人形のようだが、何となく姿形がダッバーフを模しているようだった。
「身代わり人形ですよ。ダッバーフ様に頼まれましたからね。何かあったら貴女を守るものですから。離さないように」
「はい、ありがとうございます」
コトハは身代わり人形を大切に抱えながら城に下がる前に、ダッバーフとケネスに攻撃力、防御力、幸運をあげる魔法を唱えた。
「おお!特訓の成果がでてるな!」
「本当ですか!?嬉しいです!」
「毎日俺と特訓したからな!……霧は出せるか?」
「水系統の魔法は得意なのでお任せ下さい」
ダッバーフと特訓した成果を出す時が来た。歌う様に詠唱をし細く長い呪文を紡いでいく。淡く光るその言葉達は空気中に溶け込み、その効果を発動する。三人の周囲の霧は薄く、視界を保ててはいるが、外に目を向けると真っ白に覆われており視界が全くきかなくなっていた。
「素晴らしいですね」
「これと迷いの森で誰もここには辿り着かないだろう。後は俺が殲滅するのみ!!」
ダッバーフは槍を頭の上でぶんぶんと振り回している。ケネスは弓を持ち、空に向かって矢を放った。矢からは、矢尻にこめた魔力が光の尾となり、空中で弾ける。弾けた矢は光の粒となり、森へと溶けていく。すると森が蠢き、咆哮をあげるようにざわざわと風もないのに騒めき始める。
「迷いの森も開きましたよ。コトハは城から出ないように、何かあればダッバーフを呼びなさい」
「はい。わかりました」
ダッバーフとケネスは森の向こう側へと向かい、コトハは城へと入る。
城はこじんまりとしており、小さな屋敷のような構えではあった。なので、ここに侵入されてしまったら簡単にコトハの元へと辿り着いてしまうだろう。そのためコトハは、床を歩きづらくなるように所々氷を張り、湿気を多くし不快感をもたらし、霧を発生させ、仲良くなったモンスター達を城の中を巡回させてリスク回避に努めた。そして、最後に自分自身の周りに結界を敷き、誰も自分に触れない様にした。
「完璧だよ。これでだめなら諦めよう」
これがコトハにできる最大のことだった。実際に戦う覚悟はできていないから、そんなことになったら逃げるか諦めるかだけだった。後は二人が怪我をしないように祈り、遠距離の回復ができるなら、試しにしてみてもいいかもしれないと思った。
***
魔女及び魔王討伐隊は約100人の騎士と兵士の部隊であった。たった二人の討伐にここまでの人手を……と思わなくも無いが、魔王にはこれまでどんな精鋭、高ランクの冒険者、暗殺者を差し向けても傷一つすらつけられず、舞い戻っていた。なので今回は数で攻めてみようと思い、一先ず100人の隊を編成した。他国の賛同を得られれば、合同の部隊編成でもっと多くの数でもって攻めたかったところが本心だったが、それは魔王討伐には賛同を得られずできなかった。
その討伐隊は今戸惑っていた。
魔王が根城としている魔の森に到着し、居城まで後もうすこしというところでそれはおこった。何やら森が騒がしくなったと思ったら、いつの間にか森が霧に包まれ、自分達の居場所が何処にいたのかわからなくなってしまった。時々響き渡る叫び声と獣の声、何かが唸り木が倒れる様な音がする。視界が塞がれて恐怖だけが煽られてしまい、逃げ腰になってしまう。新兵はいないが、それでも失神してこの恐怖から逃れたい者が多くいた。だが、彼らは幾つもの戦場を渡り歩いた猛者であり、そんなことはプライドが許さなかった。
とりあえず、視界を確保するために霧を払おうとするが、一瞬、周囲の霧が晴れるもののまたすぐに霧に覆われてしまい、焼け石に水状態だった。彼らは早々に霧を払うことを諦め、恐らくと思う方向にそれぞれ進むが、同じ場所を彷徨っている感覚に陥り、しばらく歩き続けると森の出入り口についてしまっていた。そうして森から弾き出された者が七割。残り三割は、ダッバーフとケネスに無力化されていった。
「はあぁ、あー手加減面倒だなー。もっとこう、ばっさばっさやりてぇー」
「無駄口叩かずに。手加減するのも約束の一つでしょうに」
侵攻してきた小さな国の隣の国、豊かな大国の王からの取引の一つだった。
『何、討伐隊に死人ださずに撃退してくれれば良いのだ。さすればその隙に併呑して、今後一切煩わせることはない様にしよう』
人間の食べ物も定期的に持ってきてくれると言う。コトハには美味しい物を沢山食べさせたいダッバーフは、その取引に頷く以外の選択肢はなかった。
『まさか聖女召喚しておきながら捨てるとは馬鹿なことをしでかしたものだ。……拾ってくれたこと、人間を代表して礼を言う』
どこまでも上から目線の人の王は、ダッバーフの数少ない友人の一人でもあった。
『我が国近くに捨て置いてくれれば、我が国で丁重に持て成してゆくゆくは、我が妃にでもと思っていたが仕方ない。それは貴殿に譲ろう』
顔色を変えてしまったのは失敗だった。その後爆笑され、ケネスとともに酒の肴にされてしまった。
「仕方ない。約束だしな」
「さっさと片付けましょう」
後残りわずか。気配を頼りに残りを無力化するために二人はまた動き始めた。
***
「暇……。退屈……」
サポートというものの、前線に一緒に行くわけでもなかったので退屈だし、遠距離の回復魔法はできなかった。誰も城に攻めてこないし、怪我をしてこない。怪我をしても困るけど、とりあえず退屈だった。
気を抜いていた訳ではないが、強いて言えば、戦闘を体験したことがなく、平和な国でのんびり暮らしていたコトハには難しいことがある。
気配を感じること。
百人余りの討伐隊とは別に、機動性と隠密行動に特化した十名ばかりの部隊が本隊よりも数日早く出立して、遠回りをして森へと侵入していた。彼らはいきなり出現した城を既に目視にて確認しており、ダッバーフとケネスが離れたところも確認していた。その後周囲を確認して、城への侵入を果たしていた。
コトハはそれに気づく事はなかった。
侵入者達は、ここに目標となっている魔女がいることを把握していた。窓の外から姿も確認しており、居場所もつかんでいた。ただ侵入した城の中は、薄らと霧がかっており何となくジメジメとしていた。さらに何故か足元に気をつけてないと、滑ってしまいそうになるところがある。城に残っているコトハの仕業であろうと予測はしていたし、彼らはコトハが滅びの魔女と知らされているので、決して油断はしていなかった。
時折、聞こえて来る何かの鳴き声に警戒を強めるが、増してくる湿度の高さに不快感が高まり、集中力が削がれてしまう。
げろげろ
すぐ後ろで蛙の鳴き声が聞こえてきた。すぐに振り向くが何も居らず、首を傾げながら前へと進む。ただ、何かに見つめられている様な気配を常に感じており、居心地は悪かった。
奥へ進むにつれ視界がさらに悪くなり、不快感も強くなり、足元が滑ることで集中力が途切れてしまう。声を出しながら前へと進むが、既に仲間たちが全員揃っているのか、何人かは脱落しているのかもわからなくなってきていた。
「げこさーん、どこにいるの?」
近くで声が聞こえた。恐らく魔女の声ではないだろうかと予測した。だから、その声が聞こえた侵入者達は気配を消して、近づくのを待った。足音が徐々に近づいてきたので、侵入者達は息を潜めた。そしてもう少しというところで、事が起こった。
ヒュンッという音が聞こえてきたと思ったら、誰かの叫び声が聞こえてきた。そしてまた同じ様な音が聞こえてきて、それが三回ほど続いた。そして何も聞こえなくなった。
残っていた侵入者達は一斉に退き始めた。視界が悪く集中力も欠く状況で、敵の正体がわからない。自分達が圧倒的な不利な状況なのは、十分すぎるほど理解できていた。そもそも魔王が作り出した城である。何か訳のわからない物が潜んでいて当然であった。
「げこさーん、こっち?」
そしてまた、目標の声が聞こえてきた。先ほどよりも近いところだ。足音も聞こえている。侵入者の一人は、せめて魔女だけでも討ち取りたいと考え、声のする方へと向かった。
足音がどんどん近いてくる。侵入者も毒を仕込んだ短剣を片手に持ち、足音の方へと近づいていく。そして、侵入者がここぞ、というところで刃を突き立てた。
「え……あ……?」
そう言って倒れた。僅かに聞こえた声は女性のものであり、倒れた身体からは赤い血が流れており、黒い髪が見えるから魔女本人であろう。この状況下では、顔まで確認をしてはいられない。髪の毛を少し切り取って、それを証拠として王へと進呈しよう。それですべてうまくいくはずだ。魔王は倒す事は出来なかったが、魔女は倒す事ができた。これで聖女召喚という事実はなかったことになるはず。
周辺国、特に隣国から聖女召喚したんではないのか、という照会状がきていた。何処から、何故、そんな情報がもれたかはわからない。だが、この疑惑を晴らさなければ、我が国は苦境に立たされてしまう。召喚した事実が明らかになれば、他国への賠償も視野に入れないといけないだろう。自国の為にはそうならないようにしなくてはならない。そのための少ない犠牲は仕方ないと思っている。
読んで頂きありがとうございます。




