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紙吹雪の舞う夜に  作者: 暴走紅茶
第五章 続きのハジマリ
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15話 1つの勝敗

 雲居が晴れていき、大きな満月が山を照らす。そこでは今宵、百鬼から選ばれた3体の妖と、千羽を守る3人の若き呪術師が、鬼ごっこに興じていた。興じていたといっても和やかなものではなく、それは殺伐として、互いの命を賭してぶつかり合うものであった。

 

 モゴモゴと口に貼られた紙と格闘していた(ぶん)(がく)(よう)()だったが、()(づる)が再び影の世界に捕らわれたお陰で呪的繋がりが消え、文学妖妃の口に張り付いた紙は一陣の風に(さら)われていった。

 また紙と格闘している間に正気を取り戻した様で、妖は文庫本を生成すると、顔を隠す。

「ねぇねぇ君ぃ、女の子が嫌がるようなことするのは、どうかと思うよ~」

 手にした本越しに、百目鬼(どうめき)へブーブー文句を言う。

「そんな、もので、隠して、どうなる!」

「女の子には秘密がつきものだよ? え? え? え? 知らないの? もしかして、お友達居ない?」

 だんだん百目鬼はイライラし始めていた。最初こそは、見た目が人間の女性らしすぎて、殴る事に躊躇いを覚えずには居られなかったが、今なら渾身の一撃を出せそうな気がした。

「減らず、口は、ここまで、だ!」

 彼は思いっきり地面を蹴り、文学妖妃の腹部目がけて拳を握った。

「だからぁ、女の子に手をあげるのは、良くないんだよ~。妖術 初恋の契ぃ」

 妖の妖気が、急にピンクみを帯びる。桜の花びらが舞い、その先に居る妖を見ると、先ほどまでの殺気が嘘のように、胸がドキドキして、どうにもやるせない、ムズムズとした気持ちが溢れてくる。

「私、モテるからさぁ。君も、私が好きよね」

「お、俺……」

 百目鬼の攻撃の手はとっくに止まっており、自分の胸倉を掴み、ヤケにうるさい鼓動を押さえる事で必死だった。

 そう、これは紛れもなく、恋だった。それも初恋。まだ汚れを知らぬ若者の、純なる感情そのものだった。そしてこれこそが、『妖術 初恋の契』の真骨頂である。

 人であった時、恋などすることが出来ないままだったからこそ、発現した力。その効果は彼女の怨念と混ざり合い、絶大な効果を示す。

「俺……、あなた、の、事、が……」

 百目鬼が顔を伏せたまま、恥ずかしげに言葉を呟く。心の奥では、やめろ、黙れと叫んでいる自分がいたが、それすらも押さえつけられてしまう。

「いいよ。ギュッてしてあげるね」

 フラフラとした足取りで、ゆっくりと妖の胸の中に吸い込まれていく。

 畜生……チクショウ……。百目鬼は心の中で泣き叫んでいたが、それが表情に出ることは無かった。

「ほらほら、おいで~おいで~」

 妖の甘言がだんだん大きくなり、彼を取り巻いていく。

 だが、その時だった。

「この、すけこましぃぃぃいいいい!!」

 紙吹雪の拳が、文学妖妃を吹き飛ばした。

 

 *


 少しだけ時間をさかのぼる。

「こんな感じかしら?」

 智鶴(ちづる)が、ホコリなど付く環境で無いのに、手をパンパンと叩き、頭上を見上げる。そこには何枚もの紙片が、不格好な円を描く様に貼り付けられていた。

「じゃあ、行くわよ……」

 彼女が合掌をし、鬼気(きき)を練り上げると、それをどんどん紙に流していく。鬼気の量に耐えられなくなったのか、だんだん紙が張り裂けそうな程、繊維の隙間を広げていく。そして仕上げにと、ぱぁああんと一つ柏手を打った。

 ズドン

 智鶴の頭上に貼り付けられていた紙全てが爆発し、その空間に穴を開けた。

 これは、鬼気の暴走による爆発と、彼女の姉が使う紙を燃やす術を組み合わせたものである。極限まで高められ、張り詰めた鬼気ごと燃やし、(ぼう)(はつ)に火の性質を持たせたのだ。それにより生じた穴は智鶴1人がようやく通れそうなものだったが、そこを起点にバキバキと亀裂が広がり、仕舞いにはその空間全てが割れて、気が付いた頃には、智鶴は竜子(りょうこ)に吹き飛ばさた林の中に立っていた。

 いち上級妖の作った空間に、高密度な鬼気の爆発はオーバーキルだったようである。

「……はぁ、はぁ。な、何か思ったのと違うけど、結果オーライね」

 鬼気の過剰使用により、上がった呼吸を落ち着けながら、辺りの気を読む。

 異界を破られた反動から動けないのだろうか、影狐の気配は感じなかったが、その代わりに、百目鬼の気配を感じ取った。

 何気なくそちらに目を凝らすと、そこではぽーーっと赤い顔をした百目鬼が、フラフラと文学妖妃の胸の中に吸い込まれていく所が見えた。

 どうせ何かの術にかかっているのだろうけど……。そう思いながらも、智鶴はヤケにイラッとムカッとし、林の中から一発「紙吹雪 巨人の拳固」を放った。

 そして大きく。

「この、すけこましぃぃぃいいいい!!」

 と叫んだ。

「何やってるのよ。百目鬼!」

 術者たる妖が吹き飛ばされ、術が解けた百目鬼がハッと我に返り、目を丸くしている。

「俺、オレ……」

「ねぇねぇねぇ! 私と彼の邪魔をしないで! 彼は私が好きなの、大好きなの!」

 上手く受け身をとった文学妖妃は、素早く地面を蹴って元の場所に飛び戻ると、智鶴に言って迫った。

「はぁ? 何言ってるのよ。寝言は寝て言いなさい! すけこましオンナ!」

「すけ……言ってくれるね~。アンタなんかこうよ! 妖術 恋の終わり!」

 先ほどピンク色の妖気を纏っていた妖が、次はどす黒い妖気……いや殆ど邪気とも言えるそれを辺りにまき散らした。

「何それ、キモいわ」

 智鶴が片手を振ると、鬼気を含んだ紙吹雪により、軽く散らされる。

「キモい!? そんなことばかり言ってると、友達居なくなっちゃうんだよー」

 文学妖妃の言葉は、拗ねた様子がありありと分かる口調だった。

「はあ? 友達なら居るわよ。まさかアンタ、友達居た事無いの? 寂しいわね~」

「あなたのようなちんちくりんに言われたくないわ」

 売り言葉に買い言葉とは正にこのことであり、それは智鶴の得意技でもあった。その様子を見て、百目鬼がソワソワワナワナと震え、「女の子、怖い」の気持ちでイッパイになっていた時、彼が智鶴の見ていないところで振り返り、青ざめる。

「ちょ、ちちちち、智鶴! 後ろ! 後ろ!」

「何よ、今忙しいの! このクソ妖怪を滅さなきゃ……って、うわー」

 文句を言いつつ振り返った智鶴も、百目鬼と同じように蒼白な顔を浮かべた。

 そこには、巨大な黒い武者が立っていた。黒々として、境無くどこまでも黒いそれは全ての光を吸収して、空間にそういう形で穴が開いたようにも見える。

「影狐を怒らせちゃったんだ~。知ーらない、知ーらない!」

 文学妖妃だけは、どこまでも底抜けに楽しそうだった。


 *


 一方、(りょう)()はと言うと、()(じん)に対して優勢に立っており、調子づいていた。

 カンガンカンカン、大鎌と木刀が硬質な音を響かせてぶつかり合うが、木人は押され気味であり、彼女の攻撃を防くのに注力してる様子だった。

「今だ! マドちゃん! いくよ!」

 竜子の左肩付近に浮遊して現れた紫色の目玉マドちゃんことマドウメは、竜子と境界霧化で繋がると、人の耳には聞こえないほどの高い音を出す。それは目がない妖に有効打を生み出すため、生み出した新技だった。

「契約術 マドウメ (げん)(わく)(おん)()

 彼女が格好つけてそう言うと、木人はガクリと体勢を崩す。

 

 木人はその音波を聞いて、無いはずの脳が揺さぶられ、遠い遠い過去の幻覚を見た。それは彼にとって人生で1番、贅沢で、甘美で、満たされ、幸せだった頃の幻覚。


 そこで彼はまだ妖者ではなく、西洋館の中、高級なスーツを掛けられ、主人を待っていた。

 いつまでもいつまでも大事なスーツがくたびれないようにと、最も堅く丈夫な木から削り出され、主人の大切を守る為、マネキンとして生を受けた木人。

 彼を削り出した職人も、リグナムバイタという木は初めて輸入したらしく、加工に苦戦した。木工用の機械工具はその殆どが駄目になり、ただ無闇に材木を傷めるばかり、試行錯誤を加え、知り合いの工場にて、金属加工用の機械を借りて、ようやくの想いで削りだした。

 木人自身も、そうして生み出された自分を誇っていたし、主人にも大事にされ、幸せを感じていた。今でもあの頃自分に服を掛けていた主人の優しそうな顔は、無い瞼の裏に焼き付いて離れない。

 しかしある日、主人は私服でふらっと出かけて行った。それっきりだった。主人はおろか、館の住人全てが忽然と姿を消した。

 その理由を木人は知らない。長い長い時間が過ぎた今でさえも。

 作り手の血と汗と涙の結晶たる想いと、主人の愛が注がれた彼は、優に100年近い時をただそこで待ち続けた。いつしか大切に守ってきたスーツは虫に食われ、風化し、朽ち落ちた頃、初めて自ら手足を動かした。

 それから彼は三日三晩涙の代わりに樹脂を流し続け、ふらりと、朽ち、荒れ果てた館を抜け出した。

 いつか主人の人生を知るために。絶対にその原因を突き止めるために。

 主人はただ自分を、館を捨てたわけでは無いと信じていた。絶対何か悪い奴に騙されたのだと、そうでも無ければ大切な大切なスーツを、そして自分を、置き去りにはしないと。

 だから、だから、だから、私は、立ち止まれない。


「……はっ。私は一体」

 自分の進む理由を思いだし、我に返った木人だったが、自分の状況が飲み込めないでいた。

「どういう状況だ~い?」

 妖の腰には竜子の腕が巻き付き、逃げられないようにがっしりと固定されていた。

「おやおや、ガ~ル。情熱的だね~。ん~嫌いじゃ無い!」

 と言うが、木人は体から樹液を出し、ぬるりと、スルリとそこを抜け出した。

 竜子が突然のすり抜けに、体勢を崩し、尻餅をつく。

「キャッ。あ~惜しい! あと数秒だったのに!」

 実際あと3秒捕まえていられたら、敵を脱落させられていた。

「ふぅ、大切な記憶だ。忘れてしまう所だったよ、思い出させてくれて、どうもセンキュウ~な、ガ~ル」

 木人は掌で自分の顔をパンと張ると、気持ちを入れ替え、竜子に対峙する。

「私の体は、リグナムバイタ製だと言ったが、ユーはその木を知っているかい?」

「知らないよ」

「それは残念。リグナムバイタとはね、ラテン語で『生命の樹』と言う意味なんだぜ。私の本気を見せてあげよう、ガ~ル」

 そう宣言した木人から、ムワッと妖気が立ち上る。対して竜子は、くさりんを構えたまま何が起こるのかと、敵から目を離さず、動きを見る。

「妖術 枯樹生華(こじゅせいか)

 妖術名を唱える木人の体から、幾百もの蔓が生えてきた。いや、それは正確には蔓では無く、それは芽吹きだった。様々な植物が、枯樹生華の名の如く、枯れた妖の体が生に包まれていく。

 身体に生えた草木はスーツの形をとるも、まだ成長は止まらない。どんどん枝葉が伸び蔦が絡まり、新芽が出る。最後に背中からドバッと勢いよく伸びると、一対の羽を形成した。

「さあ、続きを始めようじゃ無いか。ガ~ル」

 月光に照らされ、姿を第二段階へと進めた顔の無い妖が、不気味に笑ったと、竜子はそんな気がした。


 *


 智鶴と百目鬼は背中を合わせ、お互いの新たな敵を見据えていた。

 智鶴は、文学妖妃の動きを見て。

 百目鬼は、影狐の動きを視る。

 そう書けば、まるで彼女らがこれから攻撃に出られるようだが、実際は挟まれたと言った方が正しい。連携をとるにも、どうして良いか分からない。

 そんな折、ふと、智鶴の背後から声がした。

「……出るよ」

 それはどう聞いても、百目鬼の声だった。だから智鶴は動かなかった。

「文学妖妃、アンタ、何も分かってないわね。百目鬼が自分を好いてくれてる? 何も知らないくせによく言うわ。いい? こういう状況ではね、絶対に百目鬼から指示を出してくることは無いの」

「え?」

 文学妖妃は、起こったことが理解できなかった。自分はちゃんとドウメキの声を術で再生したはずなのに、目の前のオンナは動かなかった。

 妖の少女は信頼というものを知らなかった。

 だが、こんなことは智鶴のハッタリである。この状況、この距離で話しかけてくるとしたら、絶対小突いてくるか、服を小さく引っ張るかしてくるはずだし、そうしてこないなら無視してやろうと思っただけだった。一か八かで、文学妖妃の術を破ったのだった。

「どうするのかしら? そんな姑息な手はもう使えないわよ」

「ムキーーーー。悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔し……」

 古くさくも古典的に、ハンカチを噛み、悔しさを表す。顔は隠したまま器用に表す。

 妖自身、何が悔しいのか分からなかった。術が破られて悔しいのか、それとも……。

 子供っぽく地団駄を踏んで、イヤイヤと駄々をこねるように、悔しがる。

 そして、顔を隠している文庫本をポイと空へ放ると、一声叫んだ。

「妖術 最終章 狂騒」

 中空に舞った文庫本がバラバラと解け、その一枚一枚が様々な異形の妖へと姿を変える。智鶴の折紙とは異なり、完全に妖の姿へと転じていく紙片は、蛙の様な見た目のモノが居れば、兎と猿を足して二で割ったような、妙ちくりんなヤツもいた。

「数で押そうたって、そうはいかないわ」

 智鶴の周りに紙吹雪が舞った。


 と、智鶴がそうしている間にも、彼女の後ろでは、百目鬼が馬鹿でかい黒武者と対峙していた。その武者が腰からのそりと抜いた刀を地面に突き立てると、そこから同心円状に黒い影が広がる。更にそれから数本、紐のような影が百目鬼に向かって伸びる。

 後ろの智鶴がハッタリだのどうのと話しているのも気になるが、あっちは彼女に任せて良いだろうと踏むと、彼は飛び上がり、それを避けながら鳥居の方へと駆ける。

 あの影に捕まるとヤバい。彼の直感がそう言っていた。

「でも、それじゃ、攻撃、出来ない」

 丁度そう思った時、大きめの石にに影紐が当たった。するとどうだろう、紐は岩に絡みつき、みるみる黒くなり、ドプリと影の世界に飲まれていった。余りに濃密で滑らかな落ち方は、ただただ恐怖心を刺激する。

「直感、大、正解、じゃん」

 より慎重に辺りを視回し、正確に攻撃を避ける。

 タイムリミットまで逃げ続けるのも良いが、やはり攻撃をした方が、時間を稼ぐにもメリットが大きい。

 なにか、どうにか、と逃げ回りながら考えている時、丁度そこの上空に、木人と竜子が飛んできた。

「竜子~~~」

 そう叫び、(かげ)(ぎつね)の方を指さす。

 彼女に声が届いたかは分からないが、先程とは見た目も違ううえ、羽まで生えて空を飛んでいる木人を狙った(すい)(そう)(ほう)は、見事に外れ、全弾影狐を貫いた。

「やった!」

 と歓声を上げたはいいものの、それはトプンと刺さると、するする飲み込まれていった。

「効いて、ない!?」

 影狐は攻撃を意に介す様子も無く、ただ地面に黒い刀を突き刺した体勢から動こうとしない。

 万事休すと思った百目鬼だが、何かを思いついた様で、一瞬背後の拝殿を視た。

 そっちへ行きたいという意思を阻害するように、足下には影紐が近づく。

「うおっらぁ!」

 無理矢理直角に曲がり、進行方向を変える。もう一度。そして拝殿の方を向くが、謂わば影狐のいる方向に走っている訳である。影狐もそんな百目鬼をわざわざ背後から追ったりしない。

 影狐は剣を地面から抜く。すると影紐が消えた。百目鬼がしめたと思っていられたのも束の間、敵は立ち上がると、彼目がけてそれを振り下ろした。

 百目鬼は衝撃が来ると思い、身構えたが、影狐の剣は地面深くに音も無く突き刺さると、先ほどよりも巨大な影沼を形成した。彼が向かいたかった先は全て真っ黒に染め上げられてしまった。

 それはじわじわと面積を拡大し、百目鬼の足下に迫る。試しに足下の砂利を蹴り入れてみたが、それは先ほど竜子が放った攻撃同様、とぷんと沈むだけで、波紋の一つも浮かび上がらない。

「どう、すれば……」

 何か無いか。拝殿まで行ける、何か。

 呪符、は……いや、攻撃、効か、ない。じゃあ、何か、他の……。

 懐や様々なポケットを弄っている内に、スマフォの存在を思い出した。呪術を使っていると、ついつい文明の利器のことを忘れてしまうのは、呪術師あるあるである。

「そう、いえ、ば……」

 昔々の記憶をふと思い出した。幼少期、智鶴と()(なた)と3人で遊んでいた時のこと――そうだ、確か、夜で、花火、したん、だ――広間から差し込む光に伸ばされた影が、花火の閃光でかき消えたのを智鶴が不思議だと言って、日向と話していた。

 目の、前、これ、本当、に、影なら……。

 百目鬼はポケットの中でスマフォの画面を表示させると、素早く取り出し、ステータスバーからライトを点けた。それで足下を照らすと……。

「消え、た」

 狙い通り、広い影の沼はライトの光でかき消えた部分だけ、元の砂利が敷かれた境内が現れた。

 彼はそれを確認すると、直ぐに駆け出す。

 影狐はしまったとばかりに、刀を地面から抜き取り、次の技を出そうと剣を逆手に持ち替える。

「前に、手伝い、した時、あった、はず」

 スマフォのライトは点けたまま、万里眼で辺りを視渡し、敵の動きを視つつ目当てのモノを視つけた。

「準備、は、整った」

 妖の次なる攻撃は、百目鬼の向かう先――拝殿を影に沈める事だったらしく、そこに向き合うと剣を投げる動作を始めた。

「間に! 合え!」

 百目鬼が拝殿の裏に滑り込む。

 ジャリッと小石が空を舞う。

 影狐は剣を投擲した。

 そしてそれが拝殿に直撃する瞬間――


――拝殿が明るく、明るくそれは明るく照らし出された。


 影狐がその光に照らされ、みるみる小さく、元の狐の姿へと戻っていく。

 また、拝殿に迫っていた剣も光にかき消された。

「やった!」

 百目鬼がガッツポーズをとり、大きく跳ねた。

 その光は、お祭りや、お盆、お正月などに拝殿をライトアップするためのもので、彼が裏手に設置されている配電盤のブレーカーを入れたために光ったのだ。以前手伝いでスイッチを入れた事のある彼だからこそ、実行できた、地の利を生かした戦略である。

「捕まえた」

 弱った影狐の尻尾を掴むと、ニコリと笑った。


 *


「おおおおおおおおお!」

 戦いを観戦していた百鬼から歓声が上がった。

「あの兄ちゃんすげぇな!」「地の利というやつですか」「メダカも鼻が高いだろ」

 と、口々に賞賛の声が飛び交う。

 因みにこのゲームは近代妖怪のカメラ虫という、目の代わりにカメラのレンズがついたコガネムシ型の妖が撮影し、(えい)(しゃ)()という、その名の通り、映写機の付喪神が、事前に用意した白い布に映写し、鑑賞していた。

「やったぜぇぇぇぇぇええ。我が軍の失点ながら、俺の弟子が勝った! 俺は嬉しくも悔しいぜぇぇぇぇええ!」

 実況のメダカが、嬉しさを全開に出してそう叫んだ。

 と、丁度そこへ、負けたことにより場外へ出された影狐が戻ってきた。

「すまない」

 一言だけ告げると、スッと影に消えていった。

「気にすんなって」「良い戦いだった」「お前があそこまで追い詰められるなんて、いつぶりだ!?」

 などと、皆口々に仲間を褒め称えたが、それでも当の本人の気は収まらなかったらしく、その日はもう姿を見せることはなかった。

「……き、気を取り直して、続き、いくぜぇぇぇぇぇええええ」

「おおおおおお!」

 皆、盛り上がっているようで、日本酒の注がれた盃を掲げて、声を発し、続きの戦況を見守った。

「おや、おやおやおやおや!? 空中戦真っ最中の木人対竜子の方に進展があったようダァ!」

 百鬼の面々がどれどれと、身を乗り出してスクリーンにかぶりつく。

 スクリーンには、角を切り落とされ、咆哮を上げる()()()と、その主人の姿が写されていた。


どうも、暴走紅茶です。

今週もお読みくださりありがとうございます。

今週にてようやく1つの勝敗が付きましたね。僕としては、文明の利器も、使い方では妖に通用すると思うんですよね。孰れはそういうキャラも出してみたいなんてね。

ではまた来週!

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