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紙吹雪の舞う夜に  作者: 暴走紅茶
第五章 続きのハジマリ
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13話 ゲーム開始

 夜風吹き抜ける(はな)ヶ(が)(だけ)(はな)()(じん)(じゃ)に、(はい)殿(でん)を中心として、光の筋が四角く暗闇を仕切っている。その中には、()(づる)(どう)()()(りょう)()の3人と、(ぶん)(がく)(よう)()(かげ)(ぎつね)()(じん)の妖三体が、ゲーム開始の合図を、今か今かと待っており、三者三様に緊張の糸を張り詰めさせていく。

 けだるげに、のそりのそりと現れたコンクリートブロックの集合体の様な『(てい)()』という妖が一声、「開始」と言うと、計6つの影は三々五々散っていった。

 竜子は()()()に跨がり空へ飛び立ち、智鶴と百目鬼は様子を覗うために、拝殿の屋根へ移動。そこから辺りを見回していた。

「智鶴、こっち、よけて!」

 百目鬼の声がした。だから、彼女は言われた通りの方向に飛んだのだ。しかし、何故か呼び寄せたはずの百目鬼は、智鶴とは間反対の(つま)にしゃがんでいた。

「え?」

 思わず事実を疑うような声を出すが、彼もまた、「智鶴、何して……」と不思議そうに言葉を投げてきた。次の瞬間、その不可思議な事象の原因は直ぐに判明する。

「智鶴、避けて!」

 目の前にいる百目鬼の口が動き、ハッキリとそう言ったのを目にしたから、これは紛い無く百目鬼の声だと理解した。だが、悠長に理解していられるほど戦場は甘くない。

「いらっしゃい」

 背後に立った文学妖妃に紙服の襟首を掴まれ、屋根から引っ張り落とされる。紙を集めて、地面への激突を防ごうとしたのだが、その紙ごと何かに引っ張られ、ドブンとどこかの中へ落ちて行った。


 *

 

「智鶴~~~~!」

 百目鬼が屋根から落ちていく智鶴に向かって叫んだ。そして直ぐに追いつこうと駆けだしたのだが、現れた敵に行く手を阻まれる。

「行かせないよ。ボ~イ」

 ダンディな声を、口すらないのに、どこから発しているのか、そんな疑問を思う暇も無く、木人が百目鬼を捉えようと抱きついてくる。

「邪魔!」

 百目鬼は木人の胴体目がけて、拳を突き出す。組み手練習用の『木人』を殴った時と同じ感触がした。どうやら体の中は空洞で無く、みっちりと木が詰まっているようだった。

「私のボディに、傷でも付いたらどうしてくれるのだ」

 失敬なと言わんばかりの口調で、木人はホコリでも払うかのように、手で胴を払った。

「無傷……」

 百目鬼はこのままコイツを放って智鶴を追いかける方が危険だと判断し、敵と対峙する道を選んだ。

「やっとやる気かい? ボ~イ」

 だからその声は、どこから出しているんだ。と思いながらも、彼は敵を見据え、構える。すぅぅぅうううと息を吸うと、一言ぼそりと呟く。

「最初、から、飛ばす。……妖術 万里眼」

 百目鬼の全身に眼が開眼する。と同時に地面を蹴った。

 木人に肉迫しながら、瞬時に霊的弱所を見極める。

「そこだ!」

 股関節の左側面を狙い、蹴りを入れた。

「いっ!?!?」

 だが、百目鬼の蹴りに合わせ、突如として妖の股関節左側から木の棘が生え、彼の攻撃が届く前に、その足を串刺しにした。

「やれやれ、せっかちなボ~~イだ。敵の出方すら窺えないとは……駄目だぞ」

 百目鬼は直ぐに棘から足を引き抜くと、大穴が開いた傷口から再生繊維が伸び、それを塞いだ。

「厄介」

 彼は顔をしかめ、少し距離をとると、敵の出方を視る。

「そんな顔をするなよボ~イ。次は私の番だな。では、いかせてもらうぞ!」

 木の拳をがっちりと握り、百目鬼に向かってくる。

 木人は文字通り木製の妖であり、体内も勿論木であるから、万里眼で視たとて、筋肉や骨の動きからの行動予測はしづらい。だが先日獺祭漢九郎との組み手で、相手の気の流れを読むことが如何に大事かを学んだ百目鬼は、ここ1ヶ月はその修行に費やしてきた。今日までの成果が、今、発揮される。

「おお、ちょこまかと、ん~よく避けるね~」

「遅い」

 百目鬼が間隙を見つけ、拳を握った瞬間、彼の居る屋根の下から「百目鬼、助け――と智鶴の声がした。そして、彼は(とっ)()に釣られて、そちらを向いてしまった。そこには智鶴の姿など無く、稲荷社の片隅に文学妖妃が立っているだけだった。

「はははははっははあああはははあ。騙されたっ! 騙されたっ! みんなみんな私に私に騙されたの~」

 嬉しそうに歓声を上げる妖。そう、この妖は器用に人の声を真似る事が出来るのだ。先ほど智鶴を騙したのもこの妖の術である。

 よそ見をした百目鬼を見て、ニヤリ……と笑ったかどうかは分からないが、木人はその隙を逃さず、拳槌を振りかざした。しかし、それは彼に当たらず、空から降り注いだ水弾に妖の方が悲鳴を上げ、拝殿の裏手へと吹き飛ばされていった。

「隼人君、しっかり!」

 空から竜子の声がした。その姿は木人を追って行ったと視ると、木人の相手は彼女に任せ、彼は屋根から飛び降り、文学妖妃と向き合った。

「智鶴を、どこへ、やった!?」

 怒気が混じる言の葉を、敵にぶつける。

「あっはっは~。シラナ~~イ」

「シラを、きる、のか」

「知らないものは、知らないよ~~ん」

「それ、なら、吐かせる、まで!」

 百目鬼は手袋の中で、血管が浮き上がるほど強く、拳を握りしめた。


 *


――ここは……どこ?――

 智鶴はただ暗い闇の中に浮いていた。一瞬、また紙鬼の所かとも思ったが、そこへ行き着いた理由が思い当たらないうえに、紙鬼の気配も無いから、別の場所だと知覚した。

 息は出来るが、藻掻くと抵抗感を覚えた。質量はあるが呼吸は出来るようで、首を傾げながらも、彼女はとりあえずここを『沼』と仮定した。だが見上げても、水面らしき光は見えない。そこで今一度ここへ来た時の事を思い出してみる。

「確か、文学妖妃に襟首を掴まれて、落とされて、紙で受け止めて……いや、違う。受け止められなかった。何かに引っ張られたんだわ」

 その時の感触を思い出して、背中に触れてみる。呪符などは見当たらないし、術を掛けられた形跡もないから、幻覚の線は薄い、本当に地中に居るんだろうなとそんな事を思った。我ながら(あわ)てないなんて、気楽な思考だなぁと呆れつつも、とりあえずは泳ぐように、辺りを掻いて上を目指してみることにした。

 何回掻いただろうか。少しずつ体が上に進んでいるのを感じて居るウチに、ゴチンと何かに行き当たった。

「天井……? なら、ここが地面なのかしら」

 試しに紙吹雪をぶつけてみるが、沼のような抵抗に威力があまり出ない。それではと()()(かい)()状態になり、強化された拳で殴ってみても、どうにもビクともしない。力を温存するために術を解くと、腕を組む。

「ここは多分簡易的な異界ね。術者……多分妖が、解錠の鍵を握ってるんだわ」

 先日雪ヶ原の地で、相生が話していた術に近いのだろうと思った。それは、ある空間を作り出したり、あらかじめ見つけておき、そこへ他者を封じ込める術だ。その空間は閉めた者にしか開けることは出来ず、出るためにはただ待つか、解呪するかだが、前者はともかく、後者は技術的に無理である。

「でも、悔しいわね。出たいわ。う~ん」

 智鶴は時折天井に触れながら、色々考えてみる。

 と、その時だった。少し離れたところに丸い穴が開いた。しめたとばかりに、足の裏に紙を貼り、紙を操作する事によってスピードを出した。更にクロールの要領で暗闇を掻き分け、水族館のイルカが輪を潜る様にして穴から飛び出た。視界に色の付いた風景が映し出される事に、感動さえ覚えた。

 だが、これが偶然やラッキーの訳がない。勿論罠だった。飛び出してきた智鶴に向かって、三尾の真っ黒い狐が、これまた真っ黒な口を開け、頸動脈目がけて躍りかかってくる。

「あっぶな!」

 咄嗟に紙服の袖口を掴むと、硬化させながら、首と狐の間に滑り込ませる。

 カキンとわかりやすい音を立てて、狐の歯が弾かれた。また、その反動で両者距離をとり、一定の距離で出方を覗う。この暗闇の沼は、影狐の能力らしく、正体は影そのもののようだった。

 智鶴の飛び出た場所は、拝殿から離れた木陰だった。交戦音が遠くから聞こえるから、恐らく仲間たちとは距離があるのだろうと予測する。

「って、色々判っても、対処法までは浮かばないわ」

 独りごちるも、それだけで状況は変わらない。

 両者暫く膠着状態を続けるが、影狐は、自身の足下に影を展開すると、潜り、逃げようとした。

「させないわ!」

 智鶴は直ぐさま両腰の巾着から大量の紙吹雪を出すと、巨人の拳固で吹き飛ばし、更に紙漉で繋いだ紙の網で受け止めると、空に放り投げた。

「これで逃げ場は無いわよ!」

 智鶴は拳を握ると、それを突き出す。

「紙吹雪! 巨人の拳固!」

 だが、隠狐はその紙吹雪に対して技を使った。拳の形を模した表面がみるみる黒くなり、敵はそこへ飛び込んで姿を消した。

「クソッ。やっぱり、あの世界を攻略するのが先決ね」

 智鶴は悪態を吐き捨てると、どこから来られても良いように、紙鬼回帰状態へと姿を転じ、自動防御の膜を張った。

――さて、どこから来るのかしら――

 構えたままじっと敵を待つ。しかし、一向に出てくる気配が無い。もう別の場所に逃げられたのではと、不安な気持ちになる。

 だが次の瞬間、智鶴の背後に影の穴が開き、そこから影狐が飛び出してきた。彼女に対して、一撃を入れたかと思うと、着地した足下に影を展開し、飛び込む。また出ては攻撃、退避を繰り返した。

 全ての攻撃が自動防御で防げていたが、予測不能なその攻撃に、智鶴からも手が出せない。

「ああ、もう、いいわ。この敵、私には荷が重い」

 キッパリと宣言すると、木陰から抜け出し、仲間たちが戦っている拝殿の方へと駆けだした。

 

 *


 智鶴が影狐の沼から飛び出た頃、地上に降り立った竜子は、屋根から拝殿の裏手へと突き落とした木人と向かい合っていた。

「私はあの少年と戦ってみたかったのだが、仕方ない。先にお茶目なガ~ルから、捕まえようか!」

 木人はそう明言すると、両腕を木刀に変えて迫ってきた。どうやら体の形状は好きなように変えられるようである。

 先ずは攻撃のパターンを知ろうと、竜子は避けることに専念する。

 特に目立った攻撃はなさそうだね。と思ったが、このゲームのために、ぬらりひょんが用意した妖である。まだ何か隠しているとみて、警戒は緩めない。

 彼女が挙手するように手を上げ、それを振り下ろすと、空から水弾が降り注いだ。それを隠れ蓑に敵と距離をとると、鎖鎌の付喪神・くさりんと(きょう)(かい)()()で繋がると、鎖鎌は姿を変え、大鎌になった。

 水煙が去り、ハッキリと見えた木人は完全に無傷だった。

「やれやれ。木に水で攻撃しても、潤うだけだぜ? ガ~ル」

 無い髪を掻き上げるような仕草をして、のっぺりとした顔の水気を払う。

「そうだよね。分かってるよ!」

 竜子は手にした長柄の大鎌を振り回し、木人に攻撃を繰り出す。ガインッ! カキン! と、木人の木刀とぶつかり合い、激しく火花を散らす。

「あなた、木じゃ無いの?」

 あまりにも堅いそれに、竜子は苦笑いを送る。

「私の体は、リグナムバイタという世界一硬い木で出来ているんだ~よ。そうそう簡単には切らせないぜ。ガ~ル」

 ガキンとぶつかり合い、力が拮抗する。くさりんが、少し食い込んだと思った時だった。ヌメッと敵の木刀から油のような物が滲み出て、くさりんを滑らせた。

「なにこれ」

 急な変容に、竜子が驚嘆の声を上げる。

「聞いていなかったのかい? 私の体はリグナムバイタ製なんだ。ん~、作った本人がそう言っていたからね~。きっと間違いないはずだぜ、ガ~ル」

 リグナムバイタは中米から南米北部に見られる木であり、世界一堅いとして、名を馳せる木材でもある。また、内に秘める樹脂にも特徴があり、高い油分を有したそれは、潤滑油としても使われる程よく滑るのである。

 竜子はその樹脂によって、歯を滑らされてしまったのだった。

 体勢を崩す竜子と、大きく木刀を振り上げる妖。

 彼女が、やられると思った時である。

「いぃっやぁぁぁぁあぁぁぁぁあぁぁぁあぁぁあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――

 突然耳を(つんざ)くような悲鳴が上がった。

 両者怯み、攻撃が繰り出されることは無かった。


どうも。暴走紅茶です。

今週もお読みくださり、ありがとうございます。

いやはや、戦闘シーンは何度書いても慣れませんね。精進します。

では、また来週!


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