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紙吹雪の舞う夜に  作者: 暴走紅茶
第一章 操られたアヤカシ
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7話 掴んだ手がかり

 大きな満月の晩だった。

 春の風に草木がサラサラと音を立てて揺れている。

 強い邪気が観測されなかった今日は見回りだけで帰る予定だった。

 智鶴の周りにはふよふよと小鳥の形に折られた紙が飛び交っている。

「……暢気なやつ」

「うるさいわね。良いじゃないの、今日みたいな心地良い日くらい」

「……ねえ。気がついてるよね」

「うん」

 夜回りをする二人を付けてくる気配があった。彼らはその気配に逃げられない様、気がつかない振りをしていた。

「それにしてもいい夜ね。いつもこうならいいのに」

「……ホントに」

「嫌になっちゃうわね。毎夜毎夜妖が寄ってくるなんて」

「きっと今だ(・・)って。どこかに潜んでいるかも」

「今日は現れない事を祈るわ」

 何気ない会話に聞こえるが、百目鬼が会話に(ひそ)ませた「今だ」という言葉に応じて、智鶴が腕をグルリと回す。まるで、肩凝りをほぐすかの様に。

 すると、遙か上空に待機していた風呂敷大の紙が翻り、後方の気配を(すく)い上げる。そして、智鶴が手を(にぎ)ると、その紙が気配を(くる)()った。一瞬抵抗の意思を感じたが、紙に包まれると、大人しくなる。そう、これは只の紙ではない。智喜によって「状態保存」の意味が込められた大型の呪符だった。

「うまくいったわね」

「うん」

「じゃあ、帰ろ」

 智鶴がその包みを小脇に抱えると、二人は帰路を急いだ。


 この状況に焦る少女が居た。

 親指の爪を噛みながら、混乱する頭を整理し、状況を把握していく。

「何が起きた?」

 ターゲットには一切気がつかれていない様だった。しかし、今、急に、まるで停電でテレビが消えるかの様に、ブツリと見えていた映像が()()えた。しかも、滅された様では無いのに、交信を復活させる事も、また、契約を切る事も出来ない。

 先日は遠距離でも切り離せた契約が、どうやっても切り離せない。これは……。

 彼女の脳裏に最悪のイメージが膨らむ。

「しまった、しまった、しまったしまったしまったしまったしまったしまったしまったしまったしまったしまったしまったしまったしまったしまったしまったしまった……」

 体が震える。親指の爪を噛む。今更になってちょっかいを掛ける相手を誤った気がしてくる。

 美夏萠(みなも)が心配そうに見つめる中、彼女は腹を括る準備を始めた。


 家に辿り着くと、ただいまの挨拶も手短に、祖父の居る奥の間を目指す。

「ただいま、おじいちゃん。手土産を持ってきたわ」

 智鶴が障子を開けながらそう言うと、

「まあ座れ」

 智喜が二人を招き入れる。

 彼らが腰を下ろし、包みを解こうとすると、それを智喜が制止した。

「ちょいと待っとれ」

 そう言うや否や、祖父は(しゅ)(いん)を結ぶと、「フンッ」と力を込める。するとどうだろう、彼を中心に紙が貼られた床、壁、天井に文字が走って行く。『紙には文字が書ける』という性質に乗っ取り、智喜が編み出した技『速記』である。

 紙操術はただ紙を動かすだけの力に(あら)ず。紙の性質を理解する事で、柔軟に技を広げられる。もちろん一朝一夕にとは行かないが、智喜の様に努力の末、このような方向に力を応用した例は少なくない。

 彼が書いた文字の意味は包み紙と同じで「状態保存」しかし、その力は包み紙の中身にのみ指定されている為、智喜他二人にはその効力を発揮しない。

「もう開けて良いぞ」

 智喜に言われ、智鶴が手を(かざ)すと、独りでに包みが解ける。

 中からは微かに妖気を感じられる低級の化け猫が出てきた。

 猫は驚いた様子のまま状態が保存され、固まっている。

「……これは」

「分かるのか?」

「はい。何となく。この痣? 模様の辺りから。何者か。どこかと。繋がってる……様な」

そう言って百目鬼が化け猫に刻まれた『四つ(ねじ)りの蛇の目』を指す。

「概ね正しい。これは契約紋と言ってな。術者が操る際、自身の所有であることを主張し、己の力の影響を及ぼしやすくするために刻むものじゃ。これがあると言う事は、間違いなく、我らを監視しているのは『人』という事になる。これから、この紋様を調べ、術者を特定するから、お前らはこれからも変わらず仕事を続けてくれ。また何か分かれば教える」

「はい」

「分かりました」

「可愛そうにの、邪気も弱く、まだ化ける事も出来ない妖猫(ようねこ)にこんなに危険な事をさせて。今逃がしてやるからな」

 どうせここから出せば証拠隠滅の為に、直ぐ契約なんぞ切るじゃろうて。そう思いながら、猫を撫でる。そして、立ち上がると、障子を開けようとする。

 だが、その瞬間だった。智鶴の巾着から飛び出した紙片が刺さり、妖は塵になって消えた。

「だめよ、おじいちゃん? こんなに弱くても、妖なの。それにまだ契約紋も消えていないし。悪は滅びなきゃね?」

 智鶴の張り付いた様な笑顔に、百目鬼と智喜が絶句する。

「お主……そこまで……」


 市内某所。様々な方法で契約を解除しようとしていた彼女が不意によろめく。

「滅された? 嘘でしょ? あんな低級をわざわざ?」

 あの家にはどんな悪鬼羅刹が居るんだ……。従者が滅された事により起こった強制解除の反動で、目がチカチカする中、恐怖に鳥肌が立つ。

「腹を括らなきゃ……腹を括らなきゃ……」

 もう、立ち止まって居られなくなった。もう、紋様は見られただろう。あんなの調べられれば、あの千羽の事だ、(じき)に私の情報なんて掴まれてしまう。……動かなければ、一方的にやられる。

「お母さん……」

 少女は胸の前で指を組むと、失踪してもう10年になる母を心に浮かべる。暫くそうしていると、はじかれた様に目を大きく開け、力強く足を踏み出した。

「やれるだけの事はやらなきゃ」

 少女は歩きだし、段々と闇に紛れ、見えなくなった。気がつけば蛟の姿も気配も同様に闇夜に消え去っていた。

どうも。暴走紅茶です。皆さんはいかがお過ごしでしょうか?

ボクの方はですね、会社に新入社員が入社してしましまして。もう、新人では居られなくなってしまい、これからどうするかなと、震えています。

震えながら仕事をしているので、上司から、寒いなら上着きたら? と言われてしまいしました。嘘です。では、また来週。

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